黄芩湯の大腸がん治療効果
〜黄芩湯(おうごんとう)は大腸がんの治療効果を高め、副作用を緩和する〜
ウォールストリート・ジャーナルは最も良く読まれている経済日刊誌のひとつで、私も仕事柄ときどき目を通すことがあります。今年4月に珍しく中医薬の一研究が掲載されていましたので紹介いたします。エール大学の研究者である陳博士による黄芩湯(おうごんとう)の研究についてのレポートです。
陳博士はイギリス生まれ台湾そだちで、主にがん領域と抗ウイルスの化合物開発に携わってきました。12年前、エール大学の同僚たちは、薬理学の主流の研究者である陳博士がキャリアを賭してエビデンスのない黄芩湯の研究を始めたことに不安を感じていました。しかしながらこのハーブ薬の臨床結果に一貫性があるデータが示されると同僚や世界の他の研究者仲間からも認められるようになってきました。ハーブ薬に対して懐疑的な態度をとる研究者が多く、これまで陳博士はある程度の臨床的なエビデンスが得られるまでジャーナルへの掲載は控えてきましたが、充分な成果が出始めてきたようです。
以下日本メディカルハーブ協会の国際情報委員会の楊委員による報告文を掲載いたします。
(コメント:桂川直樹)
中医薬の黄芩湯は、約1800年前に著された医学書「傷寒論」に収載され、黄芩(おうごん)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)と芍薬(しゃくやく)の四つの生薬を配合し、下痢、腹痛、吐き気などの消化器系疾患の治療に用いられてきました。最近、初期の臨床試験で下痢、吐き気や嘔吐などの化学療法の副作用を減らすことに有効であることが示されました。また、腫瘍をもつモデルマウスの試験で、黄芩湯と化学療法薬の双方を投与するグループは、化学療法を単独で使用したグループと比べてより速く腸細胞を修復し、大腸がんの治療効果を高めることが示されています。黄芩湯は陳博士の研究者グループでは「PHY906」と呼ばれ、伝統的な民間療法で使用されているハーブ薬としては珍しくアメリカにおける主流の医学会にても認知されてきています。
エール大学の腫瘍学の研究者陳博士(Dr.Cheng Yung-Chi)が率いる科学者チームは、アメリカの国立癌研究所からも資金的な支援を得て、大腸がんの患者にPHY906の有効性を検討する第2相臨床試験を計画しています。
陳博士は、化学療法の副作用に対処するための良い方法を探し求め、約12年前に黄芩湯の研究を始めました。より効果的な手法が確立できれば、患者の生活の質を向上させることができ、かつ治癒を早められると考えたようです。これまで研究チームは、高用量の化学療法薬イリノテカンとPHY906を大腸がんマウスに投与する試験を行ってきました。イリノテカンとPHY906を同時に投与したマウスには、より少ない副作用が示され、より速く損傷した腸細胞を復元することが確認できています。またPHY906の原材料である4つの生薬のいずれかを配合しない場合には有効性が減少したことも示しています。
陳博士はPHY906には消化管への抗炎症作用が報告され、作用機序をまだ明らかにできていないと述べながらも、少なくとも3つの異なる経路にて副作用を制御しているのではないかとも述べています。
中医薬の研究では、化学成分の含有量が安定していないことが課題となっていて、陳博士は新会社を設立してハーブ有効成分の安定化にも取り組んでいます。
(報告者:楊志剛)
・参照記事 http://online.wsj.com/article/SB10001424052702304177104577313821796467932.html
・陳博士が設立した会社 http://www.phytoceutica.com/index.html