カワラヨモギの薬用部位、インチンコウとメンインチン
キク科の花の特徴
ヨモギの仲間はキク科の植物だが、綺麗な花は見られない。綺麗なキクの仲間は舌状の花がある。キク科の特徴は頭状花序に花をつけることである。頭状花序は舌状花と管状花からできている。ヒマワリは周辺に舌状花があり結実しない。中央部には管状花があり、管状花は両性で果実をつける。タンポポは舌状花のみだが結実する。アザミは管状花のみであるが、個々の管状花が赤青色で綺麗な頭花になり結実する。ヨモギの仲間は全てが管状花で、淡褐色。花粉は風で受粉する風媒花であるが、一部に は中心の花が結実しないカワラヨモギがある。
ヨモギ属の分類
ヨモギの仲間は、頭花は小さく、総苞片は淡褐色である。中心花が結実するか、しないかで2つに分けられる。国内に生育しているヨモギ属植物は30種あるが、カワラヨモギArtemisia capillaris、ハマヨモギArtemisia scoparia、リュウキュウヨモギArtemisia campestris、オトコヨモギ Artemisia japonicaなどの6種類は、中心花は結実しないが、その他の24種は中心花が結実する。
中心花が結実しない仲間を頭花の幅で区別しており、頭花の大きさが幅4mmのオニオトコヨモギ、幅1~2mmのものが4種類ある。頭花が幅1mmで、葉の裂片が毛 管状のものにハマヨモギがある。頭花がやや大きいものに、半灌木のものと、草本性のものが見られる。半灌木のもので、 茎葉は2回羽状全裂し、終裂片は毛管状になり、 頭花の幅1.5~2mmのものがカワラヨモギ、幅2.5 ~3.5mmのものにリュウキュウヨモギ(別名ニイタカヨモギ)がある。草本のもので茎葉の終裂片は毛管 状にならないものにハオトコヨモギがある。
カワラヨモギの特徴
カワラヨモギは、春の先、河原や海岸に綿毛に覆われた緑白色の若葉がこんもりと繁る。初夏に茎が立ち上がり、高さ30~100cmになり、著しく分枝する。枝の上葉は長柄があり、広く抱茎し、2回羽全裂、長さ1.5~3.8cm 、裂片は糸状で、幅0.3~1(2)mm、通常、絹毛を密生している。花穂のある茎の上葉は小形で、羽全裂する。頭花は多数で、大形円錐花序につき、密生する。頭花の形は球形または卵形で、長さと 幅はともに1.5~2mm。総苞片は3-4列で、外片は小形で卵形、鈍頭、内片はやや大きく、楕円形で円頭、背面には竜骨がある。痩果は長さ0.8mmである。秋には、茎はやや木質になり、半灌木になる。
薬用としてのカワラヨモギ
カワラヨモギ(写真1)は日本と中国では薬用
の部位が異なる。日本では、頭花をインチンコウ(茵陳蒿)(写真2)で、ロゼット葉(写真3)はメンインチン(綿茵陳)である。浅田宗伯は『古方薬議』(1863)で、「茵陳は莖葉を用ふ」と記している。中国では、『神農本草経』で茎葉を茵陳としている。その後の中国市場でもこの部分が用いられている(写真4)。
第17改正日本薬局方では、カワラヨモギの頭花をあげ、性状で、小花は筒状花、周辺部のものは雌性花、中央部は両性花である(写真5)。
類似している韓国産のハマヨモギと区別するために、確認試験 TLC法で、紫外線を照射する時、Rf 値0.5付近に青色の蛍光を発するスポット6,7- ジメチオキシクマリンで確認している。 インチンコウの薬効は利胆・消炎作用があり、 炎症性黄疸、流行性肝炎、じんましんを治療する漢方処方に配合されている。茵蔯蒿湯(インチンコウトウ)は、構成生薬の茵蔯蒿、山梔子と大黄の組み合わせで、尿量が減少し、やや便秘がちで比較的体力のある人の次の諸症の黄疸、肝硬変症、ネフローゼ、じんましん、口内炎に用いられる。茵蔯五苓散(インチンゴレイサン)は五苓散に茵蔯蒿を加えた処方で、のどが渇いて、尿量の減少がある人の、嘔吐、じんましん、二日酔いのむかつき、むくみなどに用いられる。
成分はクマリン誘導体のエスクレチンと6,7-ジメチオキシクマリンやイソクマリン誘導体のカピラリシン等である。
沖縄のヨモギ類
沖縄にはインチングサと呼ばれるものに、ハママーチがある。基原植物はリュウキュウヨモギArtemisia campestris Linneで、地上部を黄疸、肝炎、胆石症や、むくみなどにクチナシの果実と一緒に煎じて服用するようである。
野菜として用いられるフーチバーはニシヨモギAretemisia dubiaで、頭花がヨモギに比べて大きく、葉は香りがよいものである。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第45号 2018年9月