植物たちが秘める“健康力”「ポリフェノールの働きとは?」
前号では、植物たちが、自分のからだを守るために抗酸化物質をつくり、それらの物質を私たち人間は健康を守るために利用させてもらっていることを説明しました。今回は、抗酸化物質のポリフェノールが、どのように、私たちの健康に貢献しているのかを紹介します。ポリフェノールというのは、実は、8,000種類以上の物質の総称名で、いろいろな植物に含まれています。
「フレンチ・パラドックス(フランスの逆説)」の謎が解けた!
ポリフェノールの私たちの健康への効果を多くの人々に知らしめたのは、赤ワインでした。フランス料理には、脂肪ののった肉、チーズやバターなどがたっぷりと使われます。そのため、このような料理を多く食べるフランス人では、脂肪の摂取量が多くなります。脂肪摂取量が増えると、「コレステロールの値が高くなり、動脈硬化が起こり、狭心症や心筋梗塞などの心臓病が起こる」というのが、世界の常識です。 その結果、「フランスでは、心臓病で亡くなる人が多いだろう」と思われます。ところが、心臓病による死亡率が、フランスでは、ドイツやイギリス、アメリカなどに比べ、きわめて低いのです。
「なぜ、脂肪を多く食べるフランスで、心臓病での死亡率が極端に低いのか」との謎が浮かび、「フレンチ・パラドックス」と呼ばれました。1991年、この謎は、「フランス人が、多くの赤ワインを飲む」ということで、解かれました。フランスのセルジュ・ルノー博士により、「ブドウの皮の赤い色素であるアントシアニン、タネや皮の渋みであるカテキン、タンニンなど、赤ワインに多く含まれるポリフェノールが心臓病を予防する」と発表されたのです。
アメリカのCBSテレビの人気ニュースショー「60ミニッツ(minutes)」で、これが報道された日、「ワインを売る店で、すべての赤ワインが姿を消した」といわれています。
美肌の健康をもたらすのは?
抗酸化物質は肌の老化を防ぐといわれ、具体的に、シミやソバカスを防ぐポリフェノールの効果が知られています。シミやソバカスは、チロシンというアミノ酸から黒褐色の色素「メラニン」が生成され、それが皮膚に沈着することで生じます。 いくつかのポリフェノールが、この色素の生成、あるいは、沈着を防ぐことで、美白の効果をもたらすことが知られています。イチゴ、ザクロ、ラズベリーなどに多く含まれるエラグ酸や、緑茶に含まれるカテキン、玄米や米ぬかに含まれるフェルラ酸などのポリフェノールです。コーヒーに多く含まれるクロロゲン酸も、シミやソバカスを防ぎます。それだけでなく、このポリフェノールは、肌の水分の保持を促します。
肌の若さは、水分が多く保持されることで守られますから、このポリフェノールは、肌の美容効果が高いといわれます。そのため、1日に、3~4杯のコーヒーを飲む人の肌の年齢は、実年齢よりも若くなる傾向が知られています。クロロゲン酸は、コーヒーだけではなく、ナスやゴボウなどの野菜にも含まれています。
アルツハイマー病を予防する!
高齢化に伴い発症する認知症の代表はアルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)で、現在、これが全認知症患者の中の約60パーセントを占めます。この病気は、脳にアミロイドβ ベータという物質が集まって蓄積することが原因とされています。現在、アルツハイマー病を治療する方法は見つかっていません。ですから、アルツハイマー病には、アミロイドβの脳における蓄積を防ぐしか方法がありません。蓄積は、数十年をかけて行われるので、アルツハイマー病の予防は、高齢になってからでは遅いのです。2003年、赤ワインに含まれるポリフェノールであるミリセチンが、アミロイドβの凝集を防ぐことや、凝集していたアミロイドβをもとに戻すことから、アルツハイマー病を予防する効果があるとの研究結果が発表されました。
近年は、赤ワインに含まれるレスベラトロールというポリフェノールが、アルツハイマー病を予防するといわれます。また、オリーブオイルに含まれるポリフェノールであるオレオカンタールには、アルツハイマー病の特徴である、アミロイドβが凝集してできる「老人斑」を減らす効果が知られています。
最近、「ロスマリン酸」が、アミロイドβの凝集を抑制する効果があることが見出されました。これは、ローズマリーから発見されたポリフェノールですが、スペアミント、ペパーミント、レモンバーム、タイムやセージなどのハーブに多く含まれています。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第53号 2020年9月