ティートリーの植物学と栽培
今回は、ティートリーの特徴や栽培方法などを、植物学の視点で解説します。
分類
ティートリー(teatree)はオーストラリア原産のフトモモ科(ラテン名:Myrtaceae、英名:myrtlefamily)メラレウカ属(Melaleuca)植物で、学名はMelaleucaalternifolia(Maiden&Betche)Cheelです。カナ表記にはティーツリーやティートゥリーなどの揺れがあります。広義のティートリーは、厄介なことにメラレウカ属の総称というよりも、むしろレプトスペルムム属(Leptospermum)の総称として用いられことが多いほか、クンゼア属(Kunzea)などにもティートリーの名のつく植物があり、これらの総称となっています。
フトモモ科のなかま
ThePlantListにはフトモモ科に145属5,970種が、亜種、変種、品種まで加えると6,141の学名がアクセプトされています。フトモモ科はオセアニア~東南アジア、南米を中心に熱帯~亜熱帯に分布します。一部、マートルなど3種からなるミルトゥス属のように地中海沿岸や北アフリカ原産のものがあるほか、日本にも亜熱帯地域にシジギウム属のアデクが自生するほか、小笠原諸島にはシジギウム属のヒメフトモモとメトゥロシデロス属のムニンフトモモの2種が固有種として自生しています。フトモモ科に属する主要な植物を表1 (p.24)に示しました。フトモモ科には、メラレウカ属のティートリーやニアウリ、カユプテをはじめ、レプトスペルムム属のレモンティートリーやマヌカ(檉ギョ柳リュウ梅バイ)、クンゼア属のカヌカのほか、ユーカリ類(Eucalyptusを中心にCorymbia、Angophoraなど数属の総称)、マートル(銀ギン梅バイ花カ)、レモンマートル、シナモンマートル、アニスマートル、クローブ(丁チョウ子ジ)、オールスパイス(百ヒャク味ミ胡コ椒ショウ)などの香りの強いハーブ・スパイスや、フェイジョアやグアバ(蕃バン石ジ榴ロウ)、ジャボチカバ、ピタンガ、カムカムなどの中南米の果物、フトモモやレンブ、ミズレンブなど東南アジアの果物、ブラシノキやアマゾンオリーブなどの観賞用樹木などがあります。メラレウカ属には、265種が知られており、そのほとんどがオーストラリア固有種です。メラレウカ属の中でハーブとして利用されるものとティートリーの名で呼ばれるもの、さらに、87種を有するレプトスペルムム属と43種を有するクンゼア属のうち、ティートリーの名のつくものを表2、3(p.26-27)に示しました。
名称
学名のうち、属名のMelaleucaは、古代ギリシャ語で「黒」を意味するμέλας(mélas)と「白」を意味するλευκός(leukós)から成っています。この由来については、白い樹皮が山火事によって真っ黒くなる、あるいは山火事で真っ黒くなった幹から白い樹皮の枝が出ているとか、黒い幹に白い枝の出る種がある、白い樹皮の種と黒い樹皮の種があるなど諸説あります。また、種小名のlternifoliaは「互生葉の」を意味します。英名はteatreeで、ほかのティートリーと区別するためにAustralianteatreeやnarrow-leavedpaperbarkとも呼ばれます。また、チャノキ(Camelliasinensis(L.)Kuntze)との区別からtitreeと表記することがありますが、titreeがキジカクシ科のニオイシュロラン(Cordylineaustralis(G.Forst.)Endl.)を指す可能性もあるため注意が必要です。広義に総称として用いる時にはteatreesと複数形になります。メラレウカ属の総称としてはteatreesよりもむしろ、樹皮が紙のような特徴からpaperbarksと、また花の蜜の多いフトモモ科(myrtlefamily)であることからhoney-myrtlesと称されるのが一般的です。特に大型のものをペイパーバーク、小型のものをハニーマートルと称する傾向にあります。一方で、teatreesをレプトスペルムム属の総称とするのが一般的であり、レプトスペルムム属をAustraliannativeteatreesとも呼んでいるために混乱を生じています。teatreeと呼ばれるようになったのは、1770年の英国探検家ジェームズ・クック によるオーストラリア上陸の時にさかのぼります。その際、オーストラリア東海岸の先住民が薬用茶として利用していたことから、エンデバー号の乗組員がそれを真似てお茶として飲んだことに由来するとされています。その時に飲んだ植物にはティートリーやレプトスペルムム属植物など複数あったとされ、それらがteatreeと呼ばれたことから、その後にその仲間の多くの植物にteatreeの名がつくようになったと考えられます。日本では、精油名はティートリーですが、園芸業界ではティートリーおよびメラレウカ属植物の総称に対してメラレウカと呼んでいるので注意が必要です。
オーストラリア先住民との関わり
ティートリーは、オーストラリア東海岸のニューサウスウェールズ州北部を中心に狭い範囲に自生しています。この地域に暮らすオーストラリア先住民のバンジャラン族は、ティートリーの軟らかい樹皮を、揺りかごや食料運搬などに使うクーラモンと呼ばれる伝統的な木の器や、寝具、カヌーの修理、屋根、雨具、食品のラッピング、包帯などに用いたほか、古くから、咳や風邪の治療に熱した葉の蒸気を吸い込んだり、葉を噛んで頭痛を緩和したり、傷や皮膚感染症治療に葉を湿布して用いたり、葉を粉砕して泥と混ぜて防腐、抗菌に利用したりしていました。
近年の利用
ティートリーオイル(ティートリー油)とかメラレウカオイルとも呼ばれる精油を商業的に生産するようになったのは1926年からで、当初は自生している植物から年間2~20トンを生産していました。1970年代以降に大規模栽培され、4,000ha以上に年間500トンもの精油が生産されています。近年になって精油の効果が注目されるようになったのは、1920年代にA.R.ペンフォールドによって精油のもつ高い防腐効果などが発表されてからです。第二次世界大戦中は軍の救急箱に不可欠となり、その後抗生物質などの普及で一線を退いたものの1960年以降のハーブブームで再び脚光を浴びるようになりました。現在では精油による、炎症性サイトカイン産生抑制などの免疫システム正常化作用や、口唇ヘルペスの原因となる単純ヘルペスウイルスやインフルエンザウイルスなどに対する抗ウイルス作用、抗炎症作用、抗微生物作用、殺菌作用、原虫類に対する作用、殺ダニ作用、貯穀害虫のヒラタコクヌストモドキ(平擬穀盗)などに対する殺虫作用などのほか、メラノーマやカンジダ症、皮膚感染症、菌類による皮下組織感染症、ふけ症などの治療効果についても研究・報告されています。一方で、吸入によって鎮咳、去痰、喉の感染症源や痛みの除去、鼻づまり緩和、鎮静などに用いられるほか、ニキビや水虫、虫さされ、かぶれ、火傷、創傷などの皮膚疾患、関節痛や捻挫などの鎮痛、抗炎症、マウスウォッシュで口内炎、口臭、歯周病対策などに外用されています。さらにはコンパニオンアニマルの皮膚疾患にも用いられています。そのほか、化粧品や石けん、シャンプー、洗剤、香水などの香料原料として商業利用さているほか、家庭においても除菌、消毒、消臭、防虫、植物の病害虫管理など、安心安全な天然物質として幅広く用いられています。精油は内服すると有毒であり、外用でアレルギーを示す人もいます。妊婦や乳幼児はもちろんのこと、子供への使用にも十分注意が必要です。
中薬利用
中薬ではティートリーは利用しませんが、広義のティートリーの中では、中国で白ハク千セン層ソウと呼ぶMelaleucaleucadendra(L.)L.の樹皮を白千層と呼び、神経を鎮静させる効能があるとして神経衰弱や不眠の治療に煎じて内服するほか、葉を白ハク千セン層ソウ葉ヨウと呼び、風を去り止痛する効能があるとしてリウマチによる骨痛や神経痛、腸炎腹瀉の治療に煎じて内服、または過敏性皮膚炎や湿疹の治療に煎液で洗って外用します。また、枝葉を蒸して得た精油に鎮痛、駆虫、防腐作用があるとし、耳痛や歯痛、リウマチ痛、神経痛を治すのに用います。
形態・成分
フトモモ科共通の特徴として、常緑木本で、葉は全縁(鋸歯のないこと)、花は両性花で虫媒花、離弁で、油室に精油を含有していることが挙げられます。葉は主として互生で対生のものもあります。メラレウカ属植物共通の特徴としては、樹皮がペイパーバーク(paperbark)とも呼ばれるように紙のように薄く剥離しやすい形状であること、花は枝の先端付近に穂すいじょう状花序を着生し、小さく目立たない4~5枚の萼片と花弁、短い雌蕊、長く伸びてよく目立つ雄蕊からなること、果実は節に着生する木質の朔果でとても硬く、山火事などで壊れる性質のあることが挙げられます。ティートリーの形態的特徴は、次の通りです。樹高7mに達します。昨年の春から秋にかけて伸びた枝(茎)は、冬期に成長を停止して成長期の境となり、そこから多出集散分枝のように、3~5本程度の新梢を出します(写真1)。昨年の枝の先端には頂芽が枯死、脱落した脱落痕を形成する場合が多いですが、頂芽がそのまま伸長して主軸を形成することもあります。葉は長さ1~3.5cm、幅1~3mmの軟らかい針状で互生を基本とし、茎を取り巻くように螺旋状に着生します。花は白~乳白色で、ふわふわした羽毛のような感じは、合着した花糸からなる長い5本の雄蕊に、短い花糸を無数に着生することによります。この花が各節の葉腋に着生し、8~24個集まって1つの穂状花序を形成しています(写真2)。 花芽分化は冬期の最低気温5℃以下で促進されます。開花は初夏の比較的短い期間で、1つの花で6日間程度、1つの花序で2~3週間、開花します。オーストラリアでは主として11月に、日本では主として6月に開花します。開花後16~18ヶ月かけて種子が成熟します。果実はカップ型の直径1cm以下の朔果で、1果に26~57粒の非常に細かい種子を含有します。精油は各器官に存在する油室中に存在します。ルーペなどで葉を透かして見ると油室を確認することができます(写真3)。油室は葉肉組織の至る所にランダムに存在します(写真4)。植物が傷つくと油室が壊れて精油が揮発します。虫などの動物に噛まれた時に敵を撃退したり、傷口から菌類やウイルスなどの微生物の侵入を防いだりする役割があるものと考えられます。商業的に重要な精油成分はテルピネン-4-オールで、ISO4730(2017)規格では、ティートリーオイルには35~48%含有することになっています。そのほかテルピノレン、γ-テルピネン、p-シメン、β-ピネン、α-ピネンなどを含有します。精油成分としてテルピネン-4-オールを主成分とするもの以外に、1、8-シネオールやテルピノレンをそれぞれ主成分とするケモタイプや1、8-シネオールを主成分としてそのほかの成分組成の異なるケモタイプなどが明らかになっていますが、これらのケモタイプは商業的には品質が劣るとされています。
性状と栽培
ティートリーの自生地は、陽のよく当たる比較的温暖な地域で、沼の周辺や湿地など湿潤な酸性土壌という特徴があります。商業生産のための栽培地も川の氾濫原が多く、しばしば洪水で冠水しますが、長期の冠水にも耐えることができます。栽培にあたっては、氷点下7℃以下にならないようにすることと、土壌が乾燥しないように気をつければ、土質や日当たりなどは比較的問いません。土壌の乾燥を防ぐには、下草に雑草を生やしたりほかの植物を植栽したりして土を露出させないことです。冬期には腐葉土やバーク堆肥などの植物性堆肥を積んで乾燥を防ぎます。プランター栽培の場合には特に乾きやすいので、鉢受けに若干水が溜まるくらいに管理するとよいでしょう。繁殖は挿し木も可能ですが、商業生産では一般に種子で行われます。発芽率が低いため、種子を曝気した水に数日浸して、種皮を軟らかくしてから播種します。発芽適温は20~25℃で、発芽まで1~3週間を要しますので、その間、乾かさないようにすることが大切です。そのためにはセルトレーなどを用いて室内で播種し、鉢受けに水を薄く張って底面吸水させるとよいでしょう。発芽したら直射日光の最も長く当たる場所で育苗します。育苗中に直射日光に十分当たらないとモヤシのように徒長してしまいますので注意が必要です。精油生産のための商業栽培では、発芽後半年の苗木を1m間隔で植栽し、定植1年後に樹高2m程度になったら収穫します。強剪定に耐えることから、地面近くで地上部全てを切り取って収穫します。収穫後は1年~1年半ごとに収穫を繰り返します。フトモモ科には生育が早く、大木になりやすい樹種の多い特徴があります。ティートリーも放っておくとどんどんと背が高くなり、7mに達するようになります。従って、こまめに収穫して利用するほか、年に1回は剪定して樹高を下げるとよいでしょう。その際、古い枝を下のほうで切って世代交代するようにします。特にプランター栽培の場合は、地上部だけでなく地下部も根がいっぱいになって根詰まりしてきますので、数年に一度は一回り大きなプランターに鉢替えをするか、根を切って、新しい土を足して同じプランターに植え直すなどします。フトモモ科にはアレロパシー(※1)の強いものが多いのも特徴です。メラレウカ属では米国フロリダに導入されたニアウリがその後帰化してほかの植物の繁殖を抑制し、現在では危険外来植物になっています。ティートリーのアレロパシーがどの程度かは不明ですが、堆肥原料には向かないほか、混植する際にはアレロパシーを意識するようにしましょう。精油は光合成産物ですから、精油含量を増加させるには日当たりのよい場所で十分に光合成させるようにします。病害虫にも強く、育てやすいハーブですので、ぜひ1本育てて、収穫した茎葉でチンキを作って常備し、いつでも手軽に自家製の安心安全な除菌スプレーや虫除けスプレー、植物のための防虫抗菌剤などを作ってみてはいかがでしょうか。