日本のハーブ #45 :ヨモギ属の利用
利用されているヨモギ属植物
ヨモギ属の植物は世界各国で薬用として利用されています。成分がマラリヤの治療薬アルテミシニンの原料であるクソニンジンArtemisiaannua や駆虫薬のサントニンの原料のシナヨモギArtemisia cina やクラムヨモギArtemisiakurramensis Quazibash があります。漢方処方に用いられるものに、カワラヨモギArtemisiacapillaris Thunb. 、ヤマヨモギArtemisia montana、ヨモギArtemisia princeps があります。匂いがよいので食品に使われているものに、トラゴンArtemisia dracunculus L.やニガヨモギArtemisiaabsinthium L. 、沖縄のニシヨモギ(フーチバ)があります。お灸のモグサはヨモギやヤマヨモギの葉の裏の毛の部分を使います。ニガヨモギの入ったリキュールはアブシン酒として使われていたが、幻覚作用のある成分ツジョンが入っているので、量的な規制をして販売されています。
薬局方のヨモギ類とモグサ
日本薬局方には、インチンコウ(カワラヨモギ)とガイヨウ(ヨモギとヤマヨモギ)が収載されています。インチンコウは前号に掲載したので、ガイヨウの使い方を記します。漢方処方の芎帰膠艾湯に配合され、月経痛・腹痛・吐瀉の改善に使われています。
モグサは、中国の医学書『黄帝内経』中にお灸と記されています。灸(きゅう、やいと)は、ヨモギの葉の裏の毛を集めたモグサを、皮膚上で部位を選択して燃焼させる治療法です。モグサはヨモギの葉の裏の毛で、丁子形で、毛は蝋を含んでいて、水分を逃がさない仕組みになっています。
集め方は、乾燥した葉を粉砕して、風に当て飛躍地点で集めます。高さ10mぐらいの塔状の建物の下から風であおり、高さによって棚があり、最上段のものが最優良品となります。下段のものは葉の一部が混ざり、低質品となります。
ヨモギ類の形態的違い
ヨモギに似ているニシヨモギは、沖縄でフーチバと呼ばれ、郷土料理に使われています。ヤマヨモギは茎の高さ1.5〜2m、葉は大型、長さ18㎝、頭花は径幅3㎜、長さ3.5㎜。ヨモギとニシヨモギは、茎は高さ1m以下、葉は長さ5〜10㎝で、ヨモギの頭花は径幅1.5㎜、長さ3.5㎜。ニシヨモギの頭花は径幅2.5㎜、長さ4.5㎜です。
ヨモギの特許
駆虫剤のサントニンの原料はシナヨモギから抽出されていましたが、国産を目指して品種改良され、ミブヨモギが生まれ国産化が可能になりました。ミブヨモギを成分育種し、1985年ペンタヨモギとヘキサヨモギが植物特許を取得しました。薬効成分に関する植物特許は最初で最後のものです。植物の新種苗は、UPOF 条約で保護されることになりました。新種苗法で最初に認められたのは、1988年シンシュウダイオウでした。その後、ハトムギ、トリカブト等が登録されました。
(写真1.2.8提供:秋田 徹氏 日本新薬(株)山科植物資料館)
(写真3.4.6.7提供:松島 成介氏 (株)栃本天海堂)
(写真5提供:酒井 英二氏 岐阜薬科大学 薬草園研究室)
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第53号 2020年9月