メンタルケアに役立つハーブ「セントジョンズワート」を学ぶ
セントジョンズワート St.John’s Wort
【 学 名 】Hypericum perforatum L.
【 科 名 】オトギリソウ科
【使用部位】 開花時の地上部
【主要成分】 ジアンスロン類(ヒぺリシン、プソイドヒぺリシンなど)、フラボノイド配糖体(ヒぺロシド、ルチンなど)、ハイパーフォリン、タンニン、精油
【 作 用 】抗うつ、消炎、鎮痛
【 適 応 】軽度~中等度のうつ、PMS(月経前症候群)、創傷
沈んだ心を明るく照らす “サンシャインサプリメント”
神経系に作用する多くのハーブの中でも、 セントジョンズワートはその優れた抗うつ作用で知られています。暗く沈んだ心を明るくする働きから、また夏至の日に収穫すると最も治癒力が強いといわれていることから「サンシャインサプリメント」の異名をもちます。
北西ヨーロッパ原産の多年草で、古代ギ リシアの時代から傷の手当てや利尿、月経困難などに民間薬として用いられてきま したが、抑うつに対する効果が確認され、有効成分ヒペリシン(Hypericin)の科学 的構造まで明らかになったのは20 世紀半ばのことです。以来、うつ症状の改善薬として注目されるようになり、現在ドイツなど一部の国では医師の処方薬(抗うつ薬)として使用されています。日本では主にサプリメントやハーブティーとして用いられ、不安やイライラ、緊張の緩和に役立つハーブとして人気を集めています。
とても強い効果をもつ反面、医薬品との併用が難しいのもセントジョンズワートの特徴です。現在病気の治療で薬を服用している人は、使用に十分注意しましょう。( ATTENTION! 参照 )。
ATTENTION! セントジョンズワートは血液凝固防止薬、気管支拡張薬、免疫抑制薬、強心薬、抗 HIV薬、 経口避妊薬との併用に注意が必要です。医薬品を服用中の人は使用を避けるか、かかりつけの医師に相談してください。妊婦、授乳中の人、子どもの使用は禁忌です。
EFFECTS 心と体の両面に作用する
セントジョンズワートに期待される効能
落ち込み・無気力の改善
神経を安定させたり気分を高揚 させたりする働きにより、落ち込みや絶望感などのうつ状態や 無気力を改善します。既存の抗うつ薬と比べ、作用が穏やかで副作用が少ないのが魅力です。
不安・イライラ・緊張の緩和
神経弛緩作用により、緊張や恐怖感、不安、イライラ、動揺を緩和し、心身をリラックスに導きます。 生体ホルモンやメラトニン分泌を高める作用ももち、不 眠の解消にも有効です。
PMS・ 更年期障害の改善
神経系の回復に有効で、同時にホルモンバランスを整える作用をもつためPMS(月経前症候群)のイライラや精神不安定、更年期の抑うつや疲労感、不眠などの改善にも効果がみられます。
神経痛・ 筋肉痛の軽減
抗炎症作用と神経鎮静作用により、神経痛や筋肉痛の痛みを軽減します。ハーブティーやサプリ メントで摂る方法と、外用のチンキ剤や浸出油を患部に塗布する方法があります。
傷・やけどの 手当て
傷を治療するハーブとしても知られ、切り傷、すり傷、やけどをはじめ、筋違いや捻挫などの手当てにも用いられます。外用のチンキ剤、または浸出油やロー ションを患部に塗布します。
和名「西洋オトギリソウ」の由来
セントジョンズワートの和名は「西洋(セイヨウ)オトギリソウ」といいます。オトギリソウは漢字で書くと「弟切草」です。“弟を切る草”とは何やら不穏な名前ですが、これはこの 草にまつわる伝説からきています。あるところに鷹匠の兄弟がおり、秘伝の薬草で鷹の傷の治療をしていました。ところがある日、弟が薬草の秘密をうっかり他人に漏らしてしま いました。それを知った兄は怒りのあまり弟を斬り殺してしまったというのです。以来、この薬草は弟切草と呼ばれるようにな り、花言葉の「恨み」「秘密」もこの伝説が元になっているといわれます。なお、日本で広く見られるオトギリソウは、東アジア原産種です。
一方、英名の「セントジョンズワート」は「聖ヨハネの草」という意味で、由来については諸説ありますが、その一つが聖ヨハネの誕生日である夏至の時期に花を咲かせるためという説です。また、葉にある黒い斑点は聖ヨハネを斬首した時の血という言い伝えもあり、ヨーロッパでの花言葉は「迷信」「不信」「敵意」などが知られています。和名、英名、いずれも似たような恐ろしい由来をもつのは興味深いですね。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第49号 2019年9月