八重山諸島
はじめに
日本西南端、北緯24度線上に浮かぶ八重山諸島は東京から2,000km、沖縄本島からも400km 離れており、年間平均気温24°C。年間降雨量も本島よりも多く2,100mm。その分、湿度が高く年間平均で72%と高温多湿の亜熱帯海洋気候の特性をもっています。そのため街中で見られる植物や街路樹なども亜熱帯特有のものが多く、年間を通して花を楽しむことができます。
街中で見られる花々
観光客の多くが車窓から見慣れない花々に 歓喜の声を上げます。ただ、街中や道路沿いでは東南アジアなどの公園や街路で見られる緑陰樹の巨木を見ることはほとんどありません。それは、台風常襲地帯で毎年襲来する猛烈な風をさえぎるもののない八重山の島々では、生き残ることできる大きな木は山間の深い谷などにしか存在しないからです。
道路沿いに見られる街路樹は台風に強い「ヤラブ(テリハボク)」や、八重山の固有種「ヤエヤマヤシ」(世界三大美ヤシといわれています)、「リュウキュウマツ」などが多く、初夏にはデイゴに変わって真っ赤な花をつけるマメ科の「ホウオウボク(鳳凰木)」や、マンゴーによく似た実をつけ、真っ白い花を咲かせる「ミフクラギ(沖縄夾竹桃)」、「キワタ」などが見られます。
ヤラブは濃緑色の葉をもち荒い樹肌で台風に強く、海岸線の防風林としても使われていますが、近年この実から絞った油(タマヌオイル) は、東南アジアやハワイなどで化粧品や優れた薬効として利用されており、最近島でもオイルの生産が検討されています。ミフクラギはまとまった樹形と白い花を楽しむことができますが、この実をよく観光客の方がマンゴーと間違えてもっていきます。しかしこの木は毒性が強く、全草の乳液は昔沖縄では毒流し漁に使われてい たのでご用心。キワタはオレンジ色の花を咲かせる高木で花はハーブティーなどに使えますが、種子は真っ白な綿をまとっており、種子が落ちる頃は道路一面に舞い散ってやや公害状態。布団や枕などの綿としても利用が可能です。
梅雨が明ける頃には「オオバナサルスベリ」の一見ジャカランダと見紛うような紫色の花が街路を賑わせます。同じ頃ハマユウの仲間の真っ白い「スパイダーリリー」の花の群生が艶のあ る葉と共に花壇によく使われるようになってきました。
島全体で年間を通して見られる花に、「ハイビスカス」、半蔓性の「ブーゲンビリア」、「アラマンダ」、矮性低木の「サンダンカ」、「ランタナ」、「タイワンレンギョウ」があります。いずれも民家の庭、道路沿いの花壇などでごく普通に見ることができます。これらの植物は挿し木で簡単に増やせますが、ハイビスカスやブーゲンビリアなどは発根性が非常によく、人の腕ほどもある太い幹でも切って挿せば容易に発根し、大きな木を簡単に分割することに驚かされます。
ハイビスカスの仲間は種類も多く、様々な形状や色合いのものが咲き競っています。ブーゲンビリアも二階建て以上の建物の壁面にまで這い上がり、濃桃色の花で街を飾ります。「アラマンダ(アリアケカズラ)」はひときわ目を引く鮮やかなレモンイエローの大きな花を咲かせ、ブーゲンの濃桃色との組み合わせが人気です。サンダンカは年間を通して赤い花を多数まとめてつけ、非常に美しく沖縄の三大名花といわれています。低木の「ランタナ」は和名を七変化といわれるように、鮮やかな小さな花を淡雪状に咲かせますが 、開花後時間の経過と共に次 第に花色が変わるため、同一花序でも外側と内側では花色が異なります。「タイワンレンギョウ」はデュランタと呼ばれ内地でも花壇など刈り込み物として利用されていますが、八重山では花づきが非常によく紫の小さな花を簾のように咲かせています。
香りの島
市内の裏通りはまだ塀が石垣の所も多く残っており、様々な植物が楽しめます。石垣の多くには胡椒の仲間「ヒハツモドキ(ピパーチ・ピパーツなど)」が絡んでいます。艶のある葉と真っ赤な実が特徴のヒハツモドキは、胡椒と同様粉末にしたものが特産品としても売られていますが、そのいくつかの効能がメディアに大々的に紹介され、ここ数年品不足が続いています。そんな街中の裏通りを歩いているとあちこちから様々な香りが漂ってきます。代表的なものは夏の夜にとても強い甘い香りを振りまく「ヤコウボク(夜香木:ナイトジャスミン)」。以前は夜窓を開けていた家が多く、その香りの強さに隣近所から苦情が出るほどでしたが、最近はエアコンなどの普及で窓を閉める家が多く、そんな話も聞かなくなりました。
同様に夕方から純白の花を咲かせるショウガの仲間の「 ハナシュクシャ(ホワイトジンジャー)」はクチナシを爽やかにしたような香りで香水の原料としても使われています。
海岸線の隆起珊瑚礁地帯ではミカン科「ゲッキツ(月橘:シルクジャスミン)」の白い花がジャスミンに似た香りを漂わせます。ちなみに月橘の名は花が月夜に特によく香るためといわれています。ハワイでレイに使われる「プルメリア」も目にすることが多く、開花期には甘い香りが広がりますが、台風には弱くハワイのように大きな木は見られません。
内地では観葉植物として一般的なドラセナコンシンネの淡雪状の花も品のよい香りを周囲にまき散らせます。
本来はマングローブ林の奥や川沿いに自生する「サガリバナ」も街中で植えている庭が多く、 バニラのような甘い香りを漂わせます。この花は夕方から咲き始め、夜明けには閉じてしまう一夜花です。島内に何カ所かある野生の群生地では6~7月頃、この儚くも美しい花を求めて多くのツアーが開催されます。
香りの植物でもう一つ、綺麗な紫色の花を房咲きにさせる蔓性の植物ノウゼンカズラの仲間で「ガーリックバイン(ニンニクカズラ)」。これもよく見ることができ、大変美しい花ですが花に顔を近づけるとニンニクのほのかな香りが漂います。葉を折ってみるとそのままニンニク臭です。咲き始めは濃紫桃色で次第に薄く青紫に変色していきます。
次回は少し自然の中を散策してみましょう。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第49号 2019年9月