女性の健康に役立つハーブ「チェストベリー」を学ぶ
- 【学名】 Vitex agnus-castus L.
- 【科名】シソ科
- 【使用部位】 果実
- 【主要成分】 イリドイド配糖体(アウクピン、アグヌシド)、フラボノイド(カスティシン)、フラボイド配糖体(ビテキシン)、精油(1,8-シネオールなど)
- 【 作 用 】ホルモン分泌調整作用
- 【 適 応 】月経痛、月経前症候群、月経不順
ホルモンバランスを整えて 女性特有の悩みを改善
メディカルハーブとして2000年以上の長い歴史をもつチェストベリーは、南ヨーロッパや中央アジアが原産地。夏には薄紫色の花を咲かせ、爽やかな香りが楽しめることから、庭木としても好まれています。
すでに古代ギリシアの歴史書に「月経痛を和らげ、母乳の出をよくする」と薬効が記されているように、チェストベリーは古くから婦人科系疾患の治療に用いられてきました。 20世紀以降の科学的研究により、女性ホルモンのバランスを整える作用をもつことが明らかになり、現代のハーブ療法でも、月経痛、月経不順、月経前症候群(PMS)など月経にまつわる様々な不調の緩和に用いられています。また、更年期障害や産後うつなど、ホルモンバランスの乱れやすい時期に起こる不調にも広く効果を発揮し、子宮筋腫や子宮内膜症への適応も試みられています。
女性ホルモン様作用ではなく、ホルモンを分泌する機能を調整する作用(右ページ MECHANISM 参照)をもつため極めて安全性が高いのもチェストベリーの特徴ですが、妊娠中の人や経口避妊薬、向精神薬等を服用中の人は使用に 注意が必要です。
MECHANISM
チェストベリーは脳下垂体に直接作用し、 黄体形成ホルモン(LH)の分泌を促し、卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を抑制することで、プロゲステロンとエストロゲンのバランスを整えます。
ホルモン分泌の仕組み
女性ホルモンの分泌をつかさどっているのは、脳の視床下部。視床下部が脳下垂体にホルモン分泌の命令を出すと、 脳下垂体が卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)を分泌。これらが卵巣に作用して、エストロゲンとプロ ゲステロンが分泌されます。
HOW TO USE
チェストベリーはドライハーブ、チンキ剤、精油(エッセンシャルオイル)、サプリメントなどが販売されています。ハーブティーの他、精油を用いた芳香浴、 アロマバス、アロママッサージもおすすめです。
POINT 1 長めに使用して様子を見る
ゆっくりと穏やかに効果を示すのがチェストベリーの特徴です。少なくとも2 ~3週間、できれば 2~3 か月は使用して様子を見ましょう。
POINT 2 ホルモンが不安定な時期に使う
ホルモンバランスが崩れやすくPMSの症状が特に多くなる黄体期(排卵から次の月経の前まで)にチェストベリーを用いると効果を感じやすいといわれます。
POINT 3 生活習慣の改善を合わせて行う
チェストベリーを使用すると共に、食生活の見直しや適度な運動、ストレス解消などライフスタイルの改善を行うことが大切です。
ATTENTION!
●妊娠中、授乳中の安全性は確立されていません。
●ホルモン補充療法(HRT)を行っている人や、経口避妊薬、抗うつ剤 、 向精神薬を服用している人は、自己判断せず、主治医に相談しましょう。
TOPICS チェストベリーの名前あれこれ
チェストベリーには多数の名前があり、英語ではチェストツリー(chaste tree)と呼ばれたり、修道僧が利用していたことからモンクスペッパー(monk’s pepper) と呼ばれたりすることもあります。和名はセイヨウニンジンボクが一般的ですが、イタリアニンジンボクとも呼ばれます。学名はウィテクス・アグヌス・カストゥス(Vitexagnus-castus)で、属名を英語読みしたヴァイテックス(ビテックス)の名前は、サプリメントや精油、チンキ剤などの商品でよく目にします。このように表記がいろいろでややこしいのですが、すべて同じものを指しています。
チェストベリーの “chaste” は清純・貞節・処女などを表し、学名の agnus castus は「汚れなき子羊」の意味で、チェストベリーが純潔を守ると信じられていたことからついたと考えられています。チェストベリーの果実にはピリッとしたコショウに似た辛みとレモンのような香りがあり、中世の修道僧が香辛料として利用したのは、性欲を減退させるためでもあったとか。また、チェストベリーの花言葉は、「才能」「思慕」「純愛」が知られています が、「純愛」は、プラトニックラブを連想してつけられたのかもしれませんね。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第50号 2019年12月