チェストベリーの植物学と栽培
今回は、チェストベリーの特徴や栽培方法などを、植物学の視点で解説します。
分類
チェストベリー(chasteberry)は、ウィテクス属(Vitex;和名はハマゴウ属)に属し、 かつての新エングラー体系やクロンキスト体系ではクマツヅラ科(Verbenaceae)に分類されていましたが、1998年のAPG体系でシソ科(Lamiaceae(Labiatae)に移されて以降、最新のAPG第4版(2016)でもシソ科に分類されています。
ウィテクス属はシソ科の中でも比較的大きな属で The Plant List には 223 種がアクセプトされています。このうち欧州原産はチェストベリーくらいで、熱帯アジア原産のものが多く、 アフリカ原産のものも60 種以上知られていま す。日本にはハマゴウが北海道以外に、ミツバハマゴウが南西諸島に、ニンジンボクが石垣島と西表島に自生しています。
名称
学名はVitex agnus-castus L.で、表 (P.19 ~)に示すようなシノニム(異名)があります。
属名のVitex(ウィテクス)は大プリニウスが名づけ、「結ぶ」や「編む」の意のラテン語 vieo を語源とし、籠を編んだことに由来するとされています。
種小名の agnus-castu(s アグヌスカストゥス)は、本来、テオフラストスが名付けた「純潔な」の意のギリシャ語 agnosとラテン語で「純潔な」を意味するcastusからなり、純潔を表す語がギリシャ語とラテン語で二重に記されていました。ところがいつからかラテン語で「子羊」を意味するagnusに解釈が置き換わり、ラテン語で「 純潔な子羊 」を表すと誤訳されるようになりました。
英名には chasteberry の他に、表に示す多くの異名があり、西洋における人とのかかわりの深さがうかがえます。chasteberry の発音はチェイストゥベリーで、chaste は栗の chestnut とは語源が異なり、種小名同様、「純潔な」、「貞節な」、「処女の」を意味します。また、異名に見られるmonkは「修道士」、 cloister は「修道院」、pepper は「コショウ」 の意で、かつて修道士が果実を性欲抑制に用いたこと、コショウの代用としたことに由来します。その他、hemp treeは葉が大麻草に似ていることに、lilac chaste tree や Texas lilac は花がライラックに似ていることに由来します。チェストツリーとも呼ばれ、植物体をチェストツリー、果実をチェストベリーと使い分ける場合もあります。
和名はセイヨウニンジンボク(西洋人参木)もしくはイタリアニンジンボクで、高麗人参に似た葉に由来します。
人とのかかわりの歴史
チェストベリー
チェストベリーは長い間、制淫作用があると信じられてきました。ヒポクラテス(B.C.460年 – 377年)は子宮からの出血には葉を浸したワインを飲ませると記しています。テオフラストス(B.C.371年 – 287年)は『Enquiry into plants』の中で「agnos」として紹介しています。大プリニウス(22/23 年 -79 年) は「vitex」と呼び、『Naturalis Historiae』の中で、テスモポリア祭の際に、欲望の熱を冷ますために、女性が 茎葉を寝具として使ったと記しています。ディオスコリデス(40年頃 – 90年頃)は『De Materia Medica libriquinque』の中で果実の鎮静作用について述べています。ジョン・トレヴィサ(1342年 – 1402年)は花の香りを貞節に用いることを述べています。ジェフリー・チョーサー(1343 年 – 1400年)は『The Flower and the Leaf』の中で、月の女神で処女神 Diana の象徴と記しています。ウィリアム・ターナー(1508年 – 1568年)は果実に性欲抑制特性のあることを示しています。ジョン・ジェラルド(1545年 – 1611/12年)は「chasteberry」と呼び、 禁欲のための完璧なハーブとして紹介しています。ゲルハルト・マダウス(1890 年 -1942 年)は雌のラットによる動物実験で、発情を遅らせる効果はチェストベリーの葉や樹皮よりも果実で高いことを報告しました。
その後、1941年~ 1943年にドイツで、第二次世界大戦による爆撃でストレスを受けた女性に対するチェストベリー果実の母乳分泌促進効果の臨床試験結果が発表されました。 以降、ドイツでは婦人科系疾患に対するチェスベリーの効果についての研究が進み、今日では特にPMS治療などに用いられています。
チェストベリーのなかま
ウィテクス属には表に示すように、チェストベリー以外にも人とのかかわりの深い種があり、高さ20mに達するような高木の多くが建材や家具、道具、日用品、薪などに木材利用されている他、いくつかの種では直径 1.5cm以上になる果実を、生食あるいはジャムやアルコー ル飲料などに加工しています。また中国伝統医学やアーユルヴェーダ、ユナニ医学、シッダ医学をはじめとする伝統医療で、果実や枝葉、樹皮、根などを表に示すような目的で薬用とされている種もあります。中薬でチェ ストベリーは利用されませんが、ハマゴウとミツバハマゴウを蔓荊(マンケイ)、オオニンジンボクを布荊(フケイ)、ニンジンボクを牡荊(ボケイ)、タイワンニンジンボクを黄荊(オウケイ)といい、表に示すような治療に用いられています。
形態・分泌組織
チェストベリーは樹高 3m程度、樹幅 2m程度ですが、ウィテクス属には樹高 30mにもなる高木もたくさんあり、それらにシソ科のイメージはありません。
葉は対生し、5〜7枚の小葉からなる掌状複葉です。小葉は小葉は全縁(鋸歯(ギザギザ)がない)で、葉先の鋭く尖った細長くきれいな披針形を呈し、一番大きな頂小葉で長さ10cm、幅1.5cmほどです。葉の向軸面(表面)は緑色を、背軸面(裏面)は密生する綿毛で灰白色を呈します。
花は茎の先端に長さ15 cm程度の円錐花序を形成します。花冠はシソ科特有の唇形で、4本の雄しべが花冠より飛び出ています。 花色は淡い青紫色が基本で、白色や淡桃色の品種もあります。開花期は7〜9月で長く楽しめます。
果実は直径 5mm 程度の球形の核果で種子のように見えますが、内部に種子を4つ含有します。未熟果は白色ですが、熟すと赤みを帯び、やがて乾燥して灰褐色を呈します。
花が香る他、茎葉や果実には腺毛があり、精油を蓄えているため、擦るなどして腺毛を壊すと香ります。腺毛は背軸面の特に新葉に多い他、未熟果には隙間なく見られます。チェストベリーの腺毛はミントやセージなどに比べると小さく、葉では毛に埋もれるように存在するため、壊れにくく、香りにくい形態となっています。
果実は辛味と香りがあり、コショウの代用にされます。これらの香りはサビネンや 1, 8- シネオールによるものです。
性状と栽培
地中海沿岸から西アジアを原産とする落葉樹で、5 °C以下で落葉します。耐寒性はローズマリーよりも高く、生育限界温度は氷点下20°Cくらいとされ、それ以下に ならなけれ ば屋外で越冬可能です。深刻な病害虫もなく、生育も旺盛で育てやすいハーブです。
園芸品種も多く、青花の’Blushing Spires’、 ‘Shoal Creek’、’Colonial Blue’、’Abbeville Blue’ ‘Montrose Purple’、’Blue Diddley’、 ‘Lavender Lady’などの他、白花の’Silver Spire’、’Alba’、桃花の’Fletcher Pink’などがあります。
苗から育てる場合、苗は一年中入手可能ですが、秋から冬にかけては葉を落とした苗木となります。苗木を植えつける際の土作りには完熟牛糞堆肥など、窒素の豊富な有機物を事前に施します。苗木を大きくしたい間は、 これらの有機物を年に 1 回、株の周りにドー ナツ状に施しましょう。木が大きくなったら、 窒素の少ない腐葉土やバーク堆肥などを施すようにします。また、開花をより充実させるためには、魚粕やバットグアノなどのリン酸の豊富な有機物を春先に施します。
種子から育てる場合、保存してある乾燥果を揉んで種子を取り出します。発芽には 25°Cで 2 週間ほど要します。種皮と内胚乳を原因とする休眠が知られており、100 °Cのお湯に4分浸すか、130°Cのオーブンで5分加熱する高温処理で休眠が打破され、発芽率が向上するという報告があります。これは、原産地で山火事の多いことと 関連しているかもしれません。
挿し木増殖も可能で、梅雨時がおすすめです。その年に伸びた若い枝と去年の枝の境目あたりの節(葉のつけ根の部分)が地面に入るように切り、その上に枝を出すための節を1つ残してその上部で切ります。節から枝が出て、根も出やすいので、挿し穂に節の多いほうが有利です。挿し穂の長さは10~20cmで、半分が地面に埋まるように挿します。葉は、蒸散を防ぐために、各小葉半分に切ります。
薬用成分を増加させるためには日当たりのよい場所で十分に光合成を行う必要があります。果実の収穫は、樹上で完熟して乾燥するまで待って行いましょう。
一夏で枝をかなり伸ばしますので、毎年、冬に剪定して、コンパクトに管理するとよいでしょう。
主要なチェストベリー 学名は The Plant List に従った。
日本で見られる種(学名のアルファベット順)
学名(シノニム)Vitex agnus-castus L.
学名のラテン語読み・(種名の意味) ウィテクス・アグヌスカストゥス(純潔の)
一般名 チェストベリー、 チェイストベリ ー、チェストツリ ー、セイヨウニンジンボク(西洋人 参木)、イタリアニンジンボク(伊太利亜人参木)
分布 地中海沿岸〜中央アジア原産。日本には明治時代に渡来
性状 落葉樹
樹高(m)2〜6
小葉数 5〜7
花色 紫〜淡紫、白
果実径(mm) 3〜5
その他の特徴・利用 学名にはV. agnus Stokesや、V. hybrida Moldenke、V. integra Medik.、V. latifolia Mill.、V. lupinifolia Salisb.、V. pseudonegundo (Hausskn.( Hand.-Mazz.、V. robusta Lebas、V. verticillata Lam.、Agnus-castus vulgaris Carriéreなどのシノニム(異名)がある。英名はchestberryの他に、Abraham’s balm、chasteberry tree、chaste lamb tree、chaste tree、cloister pepper、fly tree、 gattilier、hemp tree、Indian spice、lilac chaste tree、monk’s pepper tree、safe tree、sage tree、Texas lilac、vitex、wild pepper などがある。形態や利用の特徴については本文参照。
学名(シノニム) Vitex negundo L.(V. negundo L. var. negundo, V. negundo L. var. incisa(Lam.) C. B. Clarke)
学名のラテン語読み・(種名の意味) ウィテクス・ネグ ンド(本種のサンスクリット語からで、3〜5の意)
一般名 タイワンニンジンボク (台湾人参木)、five-leaved chaste tree、 horseshoe vitex, Chinese chastetree, 黄荊(オウケイ)、 nisinda(印)、lagundi(比)
分布 台湾、中国、東南アジア、インド、マダガスカル、アフリカ東部に分布
性状 落葉樹
樹高(m) 2〜8
小葉数 3〜5
花色 淡紫
果実径(mm) 5
その他の特徴・利用 葉には鋸歯があり、背軸面は密生する短毛で灰白色。垣根や観賞用に植栽される他、伝統療法や穀物・ニンニクの保存、殺虫剤、魔除 けなどに用いられる。葉と花、果実の溶媒抽出物に青枯れ病菌やカンキツかいよう病菌に対する阻害効果や葉の水溶性抽出物の穀物保存効果が報告されている。クサニンジンボク(草人参木)はかつて変種(V. negundo L. var. incisa (Lam.( C. B. Clarke)扱いであったが現在では同一種とされる。
【伝統療法】フィリピンでは鎮咳に、スリランカではデング熱やリウマチ、消化不良、下痢に、マレーシアでは月経周期、乳房の線維嚢胞性変化、分娩後などの改善に用いる。
【アーユルヴェーダ、ユナニ、シッダ】解熱、鎮痛、抗毒素、抗ウィルス、殺幼虫、ビタートニック、肝臓保護、殺菌、殺虫、堕胎、分娩後治療、 抗アンドロゲン、避妊、去痰、利尿、収斂、催乳、通経などに用いる。茎は中絶、煎剤で百日咳に用いる。葉は風邪や熱、頭痛、骨折、捻挫、腸炎、湿疹、下痢、結膜炎、駆虫に、粉末を茹でて額に乗せて頭痛 に、乾燥葉粉末を燻煙吸入して喘息に、搾汁液や煎剤を傷や潰瘍、体膨張、リウマチ、慢性関節リウマチ、関節炎に、若葉粉末をミルクと一緒に堕胎に、マスタードオイルに混ぜた抽出物でマッサージをして解毒に、噛んで咳や風邪に、ベッドにして腰痛、痛風、坐骨神経痛に、スモークして蚊やノミ、穀類の害虫駆除に用いる。果実は咳や喘 息、下痢に、乾果を駆虫に用いる。種子はラドゥー(菓子)に入れ焼かれて性的に弱い人や淋病治療に用いられる。花は下痢に、根と茎 は咳や気管支炎、熱に、根は蛇や鼠除けに用いられる。
【中薬】果実 を黄荊子と呼び、咳や喘息、肝や胃の痛み、胃潰瘍、慢性胃炎、喉の詰まり、胸焼け、便秘、痔、天然痘などに、根を黄荊根と呼び、マラリアやリウマチ性関節炎、腰痛、胃潰瘍、慢性胃炎、蟯虫症などに、枝を黄荊枝と呼び、関節炎や歯痛、火傷の潰瘍などに、葉を黄荊葉と呼び、感冒や暑気あたりによる嘔吐、腹痛、下痢、マラリア、足の 湿性水虫、毒蛇に咬まれた時などに用いる。
亜種・変種名 V. negundo L. var. cannabifolia
(Sieboldet Zucc.) Hand.-Mazz.
学名のラテン語読み・(種名の意味) ウィテクス・ネグンド・カンナビフォリア(アサの葉に似た)
一般名 ニンジボク (人参木)、牡荊(ボケイ)
分布 中国原産。日本には江戸時代に渡来
性状 落葉樹
樹高(m) 2〜5
小葉数 3〜5
花色 淡紫
果実径(mm)4
その他の特徴・利用 葉には鋸歯があり、チェストベリーよりもやや広く、背軸面は散生する短毛で淡緑色。果実は黒熟する。
【中薬】果実を牡荊子と呼び、咳漱喘息や暑気あたりによる発痧、胃痛、疝気、白帯下に、根を牡荊根と呼び、風邪や頭痛、マラリア、関節リウマチ痛に、茎を牡荊茎と呼び、感冒やリウマチ、喉痺、瘡腫、歯痛に、葉を牡荊葉と呼び、感冒、痧気腹痛吐瀉、痢疾、リウマチ痛、脚気、流火、癰腫、足の真菌感染に、茎汁を牡荊瀝と呼び、中風口噤、痰熱驚癇、めまい、喉痺、 熱痢、急性結膜炎に、精油を慢性喘息治療や鎮咳、去痰に用いる。
学名(シノニム) Vitex trifolia L.
学名のラテン語読み・(種名の意味) ウィテクス・トゥリフォリア(三葉の)
一般名 ミツバハマゴウ (三葉浜栲)、simpleleaf chastetree, three-leaved chaste tree, Indian privet, Indian wild- pepper、 蔓荊(マンケイ)
分布 日本には南西諸島に自生。中国、東南アジア、インド、メラネシア、ミクロネシア、豪州、アフリカ東部
性状 半常緑樹
樹高(m) 2〜5
小葉数 3
花色 紫
果実径(mm)5
その他の特徴・利用 ミツバハマゴウ:花はハマゴウより小さい。葉の背軸面にはハマゴウ同様に短毛が密に生えて灰白色を呈する。同葉の園芸品種がある。花も葉も香る。
【伝統療法】クック諸島やサモアでは葉を女性の病気や解熱、蚊よけなどに用いる。
【アーユルヴェーダ、ユナニ、シッダ】駆虫、傷の治癒、鎮痛、抗ウイルス、幼虫殺虫、ビタートニック、肝臓保護、 殺菌、抗アンドロゲン、去痰、発汗、利尿、収斂、解熱、催乳、通経などに用いる。魔法では憑依で悪魔払いの為に搾汁液を目に搾る。ハマゴウ:海浜植物で茎が砂を這うように広がり、花や葉に芳香がある。果実に肺がんと大腸がん細胞を抑制する物質を含有することが報告されている。
【伝統療法】性欲を抑えるため、風邪や頭痛、上気道炎の治療に用いられる。
ヤエヤマハマゴウ(八重山浜栲V. trifolia L. var. bicolor(Willd.) Moldenke(V. bicolor Willd.):西表島に自生し、かつて変種や別種扱いであったが現在はミツバハマゴウ同種とされる。中国ではミツバハマゴウを蔓荊、ハマゴウを単葉蔓荊と称するが、『神農本草経』で蔓荊としているのがハマゴウとする見解もある。わが国では、蔓荊について、『本草和名』(918頃)に「波末奈美比」、『倭名類聚抄』(934頃)に「ハマハヒ(波末波非)」、『本草綱目啓蒙』(1806)に「ハマハヒ、ハマシキミ、ハマカヅラ、ハマゴウ、ハマツバキ、ホウ、ホウノキ、ハマバウ、ハマハギ」とある。
【中薬】中薬では主としてハマゴウが流通する。両種の果実を蔓荊子と呼び、感冒、頭痛、歯痛、目の充血やかすみ、目睛内痛、関節炎による手足のしびれなどに用いる他、茎葉を蔓荊子葉と呼び、打撲傷や神経性頭痛、刀傷の出血、打撲傷、リウマチの疼痛などに用いる。
亜種・変種名 V. trifolia L. subsp. litoralis Steenis(V. rotundifolia L.f.)
学名のラテン語読み・(種名の意味) ウィテクス・トゥリフォリア・リトラリス(海浜の)
一般名 ハマゴウ(浜栲、浜香)、beach vitex,round-leaf chaste tree, single-leaf chaste tree、単葉蔓荊(タンヨウマンケイ)
分布 日本には本州以南に自生。東アジア、東南アジア、ポリネシア、豪州の海岸に分布
性状 落葉低木
樹高(m) 0.5〜3
小葉数 1(稀に3)
花色 青紫
果実径(mm) 5〜7
その他の特徴・利用 上記と同様
アジア原産種 (学名のアルファベット順)
学名 Vitex altissima L.f.
学名のラテン語読み・(種名の意味) ウィテクス・アルティッシマ (最も高い)
一般名 peacock chaste tree, tail chaste tree, peacock’s foot tree
分布 インド〜マレーシア原産。 東南アジア
性状 常緑樹
樹高(m) 20〜40
小葉数 3〜5
花色 青みを伴った白
果実径(mm) 5
その他の特徴・利用 花序は短毛に被われている。木材が堅く重く水に強く、家具や建材に用いる他、黄色の染料を得る。
【アーユルヴェーダ、シッダ】消炎、抗酸化、リポキシゲナーゼ酵素阻害作用があり、根の抽出液を蛇に噛まれた時、樹皮汁をリウマチによる腫れや熱、外傷、胸痛に、粉末にした樹皮を催乳に、葉のスモークを精神疾患の緩和に、葉のペーストを身体に塗ってめまいの除去に、花をコレラや下痢、熱に、葉と根を泌尿器系疾患、産後のケア、寄生虫、かゆみ、アレルギー、 炎症、傷、湿疹などに用いる。獣医学では樹皮を象の解熱に用いる。
学名 Vitex leucoxylon L.f.
学名のラテン語読み・(種名の意味) ウィテクス・レウコキシロン (白い木の)
一般名 white wood chaste tree, water peacock’s foot tree, white wooded wallrothia
分布 インド、スリランカ原産
性状 落葉樹
樹高(m) 15
小葉数 5(稀に3)
花色 薄紫を伴った白
果実径(mm) 20
その他の特徴・利用 木材は丈夫なので車輪や家具に利用される。
【アーユルヴェーダ、シッダ】樹皮と根には収斂作用がある。間欠熱治療に用いられる。 葉は、煎剤を入浴剤として貧血に、スモークしてカタルと頭痛に、 Launaea sarmentosa と一緒に搾汁液をリウマチ治療に用いる。果実は駆虫剤として利用する。
学名 Vitex parviflora A.Juss.
学名のラテン語読み・(種名の意味) ウィテクス・パルウィフローラ (小さい花の)
一般名 molave tree, smallflower chastetree
分布 フィリピン、 インドネシア、 マレーシア、 タイ
性状 落葉樹
樹高(m) 20
小葉数 3
花色 青
果実径(mm) 6
その他の特徴・利用 フィリピン原産。一般名の molava はタガログ語の mulawin に由 来するスペイン語から来ており、V. cofassus Reinw. ex Blume をも指す。フィリピンでは希少種。果実は径6mm で、種子を通常1 個、 場合によっては最大4個含有し、食用としない。木材は堅いので、家具やボート、建材に。
【伝統療法】樹皮と心材を止血や催吐、抗毒、 黄疸、浮腫に用い、心材の煎剤を解毒用吐剤として、樹皮の煎剤を 止瀉剤として用いる。
学名 Vitex peduncularis Wall. ex Schauer
学名のラテン語読み・(種名の意味) ウィテクス・ペドゥンクラリス (果柄の)
一般名 longspike cheste tree
分布 南アジア〜東南アジア
性状 落葉樹
樹高(m) 7〜18
小葉数 3
花色 乳白
果実径(mm) 7
その他の特徴・利用 アッサム地方ではチャの被陰樹として植栽される。木材は堅く、杭や梁に。
【アーユルヴェーダ】葉と樹皮は、避妊のために月経後に煎剤を服用する他、体の痛みやリウマチに貼られる。樹皮はマラリア合併症の黒水熱に水溶性抽出物で、胃痛にジュースで、マラリアや熱、腸チフス、糖尿病、肝腫大、麻痺に煎剤で内服される他、 内臓リーシュマニア症(カラアザール)製剤の原料になる。葉は結膜炎治療に野菜として、出血性赤痢や黒水熱治療に煎剤で、マラリアにジュースで内服される他、ハエ避けに傷に貼られる。根は月経出血にジュースで内服される他、骨折に包帯で貼られる。
学名 Vitex pinnata L.
学名のラテン語読み・(種名の意味) ウィテクス・ピンナータ (羽状の)
一般名 false teak, hairy-leaf molave
分布 インド〜インドネシア、フィリピン
性状 常緑樹
樹高(m) 20
小葉数 3,5
花色 乳白を帯びた紫
果実径(mm)5〜8
その他の特徴・利用 木材は堅く、柱や扉、窓枠、枕木、家具、刃物の柄、建材などに用いられる。
【伝統療法】葉と樹皮は腹痛や熱、マラリアに用いられる。
【シッダ】抗菌性があり、葉と樹皮を胃痛と熱に、熱して温まった葉を目に乗せて目の痛みに、葉を叩いて湿布して熱と傷に、葉を砕いて額に貼って頭痛に、葉を調理して体に塗って解熱に、樹皮の煎剤を分娩後の治療と胃痛に、魔法の憑依で魅了として葉を子どもの痙攣に用いる。
学名 Vitex quinata (Lour.) F.N.Williams
学名のラテン語読み・(種名の意味) ウィテクス・クイナータ (五つの)
一般名 オオニンジンボク(大人参木)、 fiveleaf chaste tree, orange- barked vitex、 布荊(フケイ)
分布 中国南部、台湾、東南アジア、インド
性状 常緑樹
樹高(m) 20
小葉数 5(稀に3)
花色 黄白
果実径(mm)10〜15
その他の特徴・利用 木材を建材や橋、舟、工芸などに材木利用される他、樹皮を胃薬、樹皮の浸剤を食欲増進など、伝統医療に用いる。
【中薬】 根や幹を布荊と呼んで、鎮咳作用があり、喘咳、気管炎、気管支炎、気促、 小児の発熱・煩躁不安に用いられる。
オセアニア原産種 (学名のアルファベット順)
学名 Vitex cofassus Reinw. ex Blume
学名のラテン語読み・(種名の意味) ウィテクス・コファッスス (本種の現地名から)
一般名 New Guinea teak, New Guinea vitex,
分布 ニューギニア、メラネシア原産
性状 落葉樹
樹高(m) 30〜40
小葉数 1
花色 淡紫
果実径(mm) 10〜12
その他の特徴・利用 木材は堅く、革臭があり、舟、楽器、台所用品の材料や建材に用いられ、パプアニューギニアやソロモン諸島では主として日本に輸出し ている。
【伝統療法】樹皮の抽出物に抗肝毒性特性のため、肝臓病の治療に用いられる他、樹皮には抗菌性があって利用される。
学名 Vitex lignum- vitae A.Cunn. ex Schauer
学名のラテン語読み・(種名の意味) ウィテクス・リグヌムウィタエ (ハマビシ科リグナムバイタの)
一般名 satinwood, yellow hollywood, lignum-vitae,
分布 オーストラリア東部、ニューギニア
性状 落葉樹
樹高(m) 30
小葉数 3,5
花色 薄紫~薄桃に
果実径(mm) 10〜20
その他の特徴・利用 A 豪州固有種。新葉は欠刻で角張っているが、成熟葉は長さ5〜13cm の長楕円形。夏に開花。果実は赤く種子を4個含有。種子には2年ほどの休眠があるため古い種子を播種するとよい。木材は丈夫でフローリングや大型の工具の柄、船のプロペラシャフトのベアリングなどに用いられる。
学名 Vitex lucens Kirk
学名のラテン語読み・(種名の意味) ウィテクス・ルケンス (つややかな)
一般名 puriri, New Zealand mahogany, New Zealand teak
分布 ニュージーランド
性状 常緑樹
樹高(m) 20
小葉数 3〜5
花色 赤から薄桃
果実径(mm) 20〜26
その他の特徴・利用 ニュージーランド固有種。一般名の puriri はマオリ族の呼び名から。 花はキンギョソウのような管状花。果実は赤く、最大4個の種子を含有し、さくらんぼ大になるが食されない。木材は家具、枕木、造船などの材木や建材に。
【伝統療法】マオリ族は葉の温浸剤をリウマチや捻挫、腰痛、喉の痛みに用いる他、遺体の洗浄やウナギの罠、 道具、亜麻繊維の染色などに用いる。
アフリカ原産種 (学名のアルファベット順)
学名 Vitex doniana Sweet
学名のラテン語読み・(種名の意味) ウィテクス・ドニアーナ
一般名 black plum, African oak
分布 アフリカ赤道部
性状 落葉樹
樹高(m) 15〜25
小葉数 5
花色 紫を伴った白
果実径(mm) 20
その他の特徴・利用 果実は黒熟し、ビタミン A、B が豊富で、生食される他、調理や 砂糖漬け、シロップ、ジャム、ワインなどに加工される。新芽は野菜として、葉はティーなどハーブとして、種子は炒ってコーヒ ーのような飲物として利用。木材は軟らかく加工しやすく、建材や家具、舟、工芸品に利用される他薪や炭にも用いられる。小枝は噛んで歯を磨く伝統的なチューイングスティックとして用いられているが、この水溶性抽出物には抗菌性が示されている。乾燥果や若葉、樹皮、根を煎液からインクや布の染料を得る。乾燥種子には30%の油を含み、高ヨウ素、低鹸化価でスキンクリームや樹脂、塗料に用いられる。
【伝統療法】根の煎剤を女性の背痛に、樹皮の煎剤を胃腸炎や腎臓障害、下痢、赤痢、妊孕能向上、痔に、葉と果実を咳と皮膚感染症に、葉の搾汁液を眼病に、焼いた未熟果を塗って真菌感染に用いる。
学名 Vitex ferruginea Schumach. & Thonn.
学名のラテン語読み・(種名の意味) ウィテクス・フェルルギネア (さび茶色の)
一般名 plum fingerleaf
分布 アフリカ赤道部
性状 落葉樹
樹高(m) 2〜12
小葉数 3〜5
花色 青みを伴った白
果実径(mm) 20〜40
その他の特徴・利用 花は香る。黒熟する球形の果実を生食もしくは調理して食する。木材でスプーンを作る他、薪や炭に利用する。
【伝統療法】葉を噛んで喉の痛みや腫れに用いる他、不妊治療にも用いられる。
学名 Vitex fischeri Gürke
学名のラテン語読み・(種名の意味) ウィテクス・フィスケリ (アフリカ探検 家 Fischer への献名)
一般名 Kenya oak, Meru oak
分布 アフリカ中央部
性状 落葉樹
樹高(m) 5〜30
小葉数 5
花色 白で青みを帯びる
果実径(mm) 10〜25
その他の特徴・利用 コーヒーやヤムの被陰やトウモロコシ、キャッサバ畑の防風などアグロフォレストリー的に植栽される。木材は加工しやすく、家具や牛のくびき、道具の柄、床材、建材、舟、車両、おもちゃ、箱、 工芸品などに広く利用される他、パルプ原料、薪、炭などにも用いられる。果実は黒熟し白い斑点があり、生食される。
【伝統療法】 根の樹皮に抗菌、抗カンジタが報告されている。
学名 Vitex grandifolia Gürke
学名のラテン語読み・(種名の意味) ウィテクス・グランディフォリア(大きな葉の)
一般名
分布 アフリカ西部 大西洋岸
性状 常緑樹
樹高(m) 15〜20
小葉数 5
花色 乳白色
果実径(mm) 15
その他の特徴・利用 加熱した葉から抽出される黒汁はインクに利用される。木材は加 工しやすく、家具や建材、床材、おもちゃ、道具、舟、車両、ベニヤなどに利用される。果実は食用や強壮剤としてのティーで利用される他、アルコール飲料に加工される。
【伝統療法】根と樹 皮には収斂作用がある。樹皮を駆虫、胃薬や下痢止めなどの胃腸疾患治療、気管支疾患、解熱・鎮痛に用いる。葉は疝痛や臍の緒の感染症、歯痛、リウマチ、睾丸炎などに用いられる。
学名 Vitex keniensis Turrill
学名のラテン語読み・(種名の意味) ウィテクス・ケニエンシス(ケニアの)
一般名 Meru oak
分布 ケニア、タンザニア、モザンビーク
性状 落葉樹
樹高(m) 25
小葉数 5
花色 白か紫
果実径(mm) 15
その他の特徴・利用 ケニア固有種で希少種。果実は楕円で、4〜5個の種子を含有。 材木として利用する他、防風垣や庭木にも。果実は食用になり地方市場に流通。
学名 Vitex micrantha Gürke
学名のラテン語読み・(種名の意味) ウィテクス・ミクランタ(小さい花の)
一般名
分布 アフリカ西部 大西洋岸
性状 常緑樹
樹高(m) 20〜27
小葉数 3〜5
花色 淡紫を伴った白
果実径(mm) 15
その他の特徴・利用 木材は軟らかくて加工しやすく、建材、ドラム、ライティングボード、床、家具、おもちゃ、ベニヤ、パルプ原料などに利用される。果実は黒紫色に熟し、生食や調理、加工、アルコール飲料にされる。
【伝統療法】根は鎮痛に用い、煎剤を淋病、十二指腸虫症、くる病、胃腸障害、黄疸、女性の背痛に用いる。葉には抗菌、覚 醒、解熱作用があるとされ、解熱、鎮痛、下痢、赤痢、糸状虫症 (craw-craw)、皮膚寄生虫感染症、呼吸器疾患、麻疹、発疹、水痘、片麻痺、栄養失調、強壮などに煎剤を内服する他、催乳に外用される。また、若い軟らかい葉の搾汁液を結膜炎などの眼病に外用する。葉と樹皮のペーストを傷や火傷に外用する。樹皮の粉末に加水して疝痛に用いる。樹皮の抽出液は胃や腎臓、肝臓疾患、ハンセン病、分娩後の出血制御などに用いられる。果実を妊孕能向上、貧血、黄疸、ハンセン病、赤痢、下痢の治療に用いる。
学名 Vitex mombassae Vatke
学名のラテン語読み・(種名の意味) ウィテクス・モンバッサエ(モンバサ(ケニア)の)
一般名 smelly-berry vitex, wild cherry
分布 ケニア、ザンビア、タンザニア、アフリカ南部
性状 落葉樹
樹高(m) 8
小葉数 5(時々3)
花色 青紫、青を伴った白
果実径(mm) 20〜30
その他の特徴・利用 被陰樹や薪で利用する。黒熟する果実は不快な香りがあるが多汁でビタミン C が豊富で生食される。
【伝統療法】根を食用に、茹 でて飲んで熱、糖尿病、不妊、制吐に用いる。
学名 Vitex payos(Lour.) Merr.
学名のラテン語読み・(種名の意味) ウィテクス・ パヨス
一般名 chocolate berry
分布 東アフリカ
性状 落葉樹
樹高(m) 4〜10
小葉数 5(稀に3、4)
花色 濃紫を伴った白
果実径(mm) 20
その他の特徴・利用 チョコレートベリーとも呼ばれる果実は黒熟し、生食や加工で食 され人気。花の観賞に植栽もされる。木材は堅く、柱やスプーンに加工される他、薪に利用される。
【伝統療法】根の煎剤を胃炎に、葉の煎剤を食欲不振に、樹皮を叩いて駆虫や肌トラブルに。
学名 Vitex strickeri Vatke & Hildebr.
学名のラテン語読み・(種名の意味) ウィテクス・ ストゥリクケリ
一般名 ソマリア、ケニア、タンザニア
分布 アフリカ
性状 小潅木
樹高(m) 2〜5
小葉数 3
花色 白、淡黄、薄桃
果実径(mm) 6〜7
その他の特徴・利用 材木利用される他、果実は子どものおやつに食される。
【伝統療法】 葉を消炎、抗ウイルス、解熱、解毒、インフルエンザ、蛇に噛ま れた時に用いる。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第50号 2019年12月