日本のハーブ#41:メハジキ 民間薬から局方生薬に
はじめに
メハジキは路傍の草で、民間薬として婦人病に用いるものと思っていたが、漢方薬に使われる 大切な薬草と知った。シソ科の植物である。生薬名は益母草:やくもそう、日本薬局方外規格(1989)に収載するために植物名を検討した。また、学名を記載するために参考にした日本植物誌(大井)では、 メハジキLeonurus sibiricus Linne'(Leonurus japonicus Houttuyn)と記されていた。2つの学名に疑問を感じ、日本の野生植物の種子と中国の植物園からの植物の種子を栽培してみた。
栽培して分かった両種の違いは、2年生の花穂の葉が広く3列になるものと、狭く単葉のものの違いがあった。日本産はメハジキL. japonicusで、中国産はホソバメハジキL. sibiricusであった。さらに調べてみると、両種の違いとして、メハジキ(L. japonicus)は、葉の小葉裂片は幅3mm以上である。花茎の葉は全縁にわずかに鋸歯がある。花冠は1~1.2cm、下唇は上唇とほとんど同じ長さ。萼には圧着した柔毛がある。ホソバメハジキ(L. sibiricus) は、葉の小葉裂片は幅1~3mm、花茎の葉は著しく、3深裂、裂片は線形。花冠は1.8cm、下唇は上唇の3/4の長さである。萼は密毛でおおわれ、特に中央部に多く見られる。両種とも薬用として使用されている。
第15改正日本薬局方(2007年)にヤクモソウが新収載され、基原植物にメハジキL. japonicus又はLeonurus sibiricusとされた。
メハジキの分布は北海道、本州、四国、九州、琉球、国外では朝鮮半島、台湾、中国大陸、ロシア沿海地方、東南アジア、南アジアである。
形態
栽培されているメハジキは、播種後1年間は根生葉のみで、葉柄は長く、葉身は卵心形。2年目の茎は直立し、四角形で短い圧毛が多く生え、 高さ1~1.5mになる。茎の下部の葉の葉柄長く、 葉身の長さ4~9cm、幅3~7cmになり、深く3裂から全裂し、基部は広いくさび形になる。花は茎の上部の葉腋に輪散花序をつける。花序には、刺針状の短い小苞があり、萼は筒状で長さ6~7 mmになり、5裂する。花冠は長さ10~13mmの2唇 形で、紅紫色である。外面に白い毛が密生し、下唇は前方に突き出て3裂し、内面に赤い縦筋がある。 雄蕊は4個あり、上唇の内側に沿って伸びる。雌蕊は1個ある。果実は長さ2~2.3mm、4分果である。
薬効、成分
薬用としては、全草を益母草、果実を茺蔚子と称して漢方処方に配合されている。益母草を 含む漢方薬処方には芎帰調血飲がある。益母草の他、14種類の生薬で構成されている。効能効果は、体力中等度以下のものの次の諸症: 月経不順や産後の神経症・体力低下である。 さらに瘀血治療薬を追加した芎帰調血飲第一加減は、不妊症や疲れやすく、イライラして、手足が冷える時、産後や術後の瘀血に用いる。
主な成分は、アルカロイド(レオヌリン、スタキドリン、レオヌルジン、レオヌリミン)イリドイド、ジテルペン(β-カリオフィレン)、フラボノイド(ルチン)、カフェイン酸、タンニンがある。
おわりに
中国での最初の記載は、漢代の『神農本草経』 (上品)における果実の茺蔚子である。明の李 時珍『本草綱目』(ca.1596)に、「此の草及び子(み)は、皆な茺盛・密蔚、故に茺蔚と名づく。 其の功は婦人に宜しく、目を明らかにし精を益すに及ぶ。故に益母の称有り」とある。日本では、平安時代に深江輔仁が『本草和名』(ca.918)に茺蔚子を記して、和名に「女波之岐メハジキ」と記されている。また、源順の『倭名類聚抄』(ca.934)に茺蔚の「和名女波之木」と書かれている。江戸時代の小野蘭山は『本草綱目啓蒙』11(1806)で、「茺蔚 メハジキ ニガヨモギ 益母草(ヤクモサウ)通名」と記している。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第49号 2019年9月