ウィルスって何 ? –– 感染症予防の基本を学ぶ
新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大で、私たちの日々の暮らしは一変しました。いまだ収束のめどが立たない中、秋からはかぜやインフルエンザの流行シーズンに入ります。感染の拡大を防ぎ、心身の健康を維持していくためには、 感染症やウイルスについての基本的な理解が不可欠です。
また、今後いつ新たなウイルスが登場するかも知れず私たちは感染症との適切な向き合い方が求められています。
今、改めて感染症やウイルスへの学びを深めましょう。
正しく知って、予防しよう
ウイルス感染症の基礎知識と対策
新型コロナウイルス感染症は2019年末に登場した新しい感染症ですが、感染の仕組みや予防方法は通常のかぜやインフルエンザと変わりありません。
「かからない」「うつさない」「重症化させない」対策を実践しましょう。
細菌とウイルスの違いを知っていますか?
感染症とは、細菌やウイルス、真菌(かび)、寄生虫などの病原体が体に侵入して増殖し、症状が出る病気のことをいいます。 呼吸器や消化器に症状を起こす病原体のほとんどは細菌とウイルスですが、ウイルスには細菌とは異なる特徴があります。
細菌は細胞壁と細胞膜をもつ単細胞生物で、栄養源さえあればそれをエサにしてどこでも自分と同じDNA ( 遺伝子 ) を 複製して増えていくことができます。
一方、ウイルスは細胞をもたず、タンパク質の殻の中にDNA(または RNA)が1、2本入っただけの非常に単純な構造です。ウイルスは非常に小さく、細菌の10分の1〜100分の1のサイズ。マスクの穴は、最も大きなウイルスと比較してもその50倍ほどです。細菌のように自力で増殖することはできず、ほかの細胞に入り込み、その細胞のもっている増殖機構を利用して増えていきます。
<ウイルスが増殖する仕組み>
ウイルスは人や動物の細胞の中に入り込んで、自分のコピーをつくらせます。その細胞が破裂してたくさんのウイルスが飛び出し、さらに他の細胞に入り込んで増殖を続けます。
<細菌とウイルスの違い>
こうした違いにより細菌感染症とウイルス感染症とでは治療方法も大きく変わってきます。例えば細菌に対して用いられる抗生物質は、ウイルスには全く役に立ちません。ウイルス感染症の治療薬としては抗インフルエンザ薬が存在しますが、ウイルスの構造や増殖の仕組みなどから抗ウイルス薬の開発はとても難しく、まだ治療薬が確立していない感染症が多いのが現状です。
ウイルスの感染から体を守る免疫システム
ウイルスは目、鼻、口などの粘膜から体内に侵入します。その主な経路には、接触感染 と飛沫感染があります。
接触感染…ウイルスがついた物に直接触ってウイルスが手に付着し、その手で口や鼻、目を触って感染する。
飛沫感染…感染者のくしゃみや咳、会話などで生じる飛沫(しぶき)と一緒にウイルスが放出され 、そのウイルスを口や鼻から吸い込んで感染する。
しかし、ウイルスを取り込んだからといって、必ずしも感染症を発症するわけではありません。鼻やのどの粘膜には線毛と呼ばれる細かい組織があり、侵入したウイルスをキャッチして、体の外に追い出す働きをします。また、 血液中には様々な免疫細胞が存在し、これらが連携してウイルスを攻撃します。さらに、 一度感染した病原体の特徴を覚え、次に同じ病原体が侵入した時に攻撃を仕掛ける「抗体」がつくり出される仕組みも備わっています。 私たちの体は、こうした免疫システムによって守られているのです。
かぜの約90%はウイルス感染が原因
かぜは上気道(鼻やのど)に起こる急性の炎症をいい、約90%はウイルスが原因です。 正式には「かぜ症候群」といってインフルエンザもこれに含まれますが、インフルエンザは症状が強く、流行の規模も大きいことから別格に扱われています。かぜを引き起こすウイルスの数は200種類以上といわれ、同じウイルスでもいくつもの型があり、それが年々変異(遺伝子の変化) します。特にインフルエンザウイルスは、変異を起こしやすいことが知られています。毎年のようにかぜをひいてしまう人や、インフルエンザに再度かかってしまう人がいるのはこのためです。
かぜでは発熱、頭痛、くしゃみ、鼻水、 鼻づまり、咳、痰、のどの腫れや痛みなどの症状が起きますが、これらはいずれも異物であるウイルスに対抗し、追い出そうとす る体の防御反応です。ウイルスという異物の侵入により体に異変が 起こったことを知らせると同時に、免疫の働きが活発になっているサインととらえることもできます。
かぜにかかったかなと思ったら
「かぜは万病のもと」といわれるように、こじらせてしまうと合併症を招くことも。しっかり休んで重症化を防ぎましょう。
Self check List
以下に当てはまる場合は、 早めに医療機関を受診しましょう。
- 38°C以上の高熱が続く
- 呼吸が苦しい・胸が痛い
- 黄色や緑黄色の痰が出る
- 食事や水分が摂れない
- 意識がはっきりしない
- 微熱や咳などかぜのような症状が1週間以上続く
※受診の際は、事前に電話やメールで症状を伝えてください。
高齢者や基礎疾患のある人は特に重症化に注意が必要
かぜのサインを感じたら、外出を控え、家で十分に休息をとることが大切です。感染したウイルスの種類や量などによりますが、かぜの場合、安静にして体を休めれば、通常は 1 週間程度で回復します。
この時、症状がつらければ市販のかぜ薬を服用するのも一案ですが、かぜ薬はウイルスを退治するものではなく、症状 を和らげて体力の消耗を防ぎ、自然な回復を助けるものです。かぜを治すのはあくまでも自分自身の抵抗力とこころえ、無理をせずしっかり休みましょう。これは、ほかの人にうつさないためにも重要です。
かぜはひき始めに適切に対処しないと、細菌に二次感染して気管支炎や肺炎などの合併症を招くこともあります。ま た、かぜのような症状に見えても、別の病気のこともあります。治療が遅れると時には命にかかわることもあるので、「かぜぐらい」と軽く考えて放置してしまわないことが大切です。
特に高齢者や基礎疾患(持病)のある 人は免疫力が低下しているため、ウイルスに感染した場合に重症化しやすく、持病が急激に悪化することもあります。
少しでも心配な症状があれば、早めに 医療機関を受診しましょう。
体調の変化に気をつけよう
子ども
症状の急変に注意が必要。機 嫌、食欲、顔色をよく観察し、 おかしいと感じた時は早めに受 診を。発熱や嘔吐によって脱水症状を起こしやすいので、水分 補給をしっかり行うことが大切。
高齢者
発熱などかぜの症状がはっきり現れず、知らずに肺炎を起こして重症化するケースが多い。「いつもより元気がない」、「食べる量が少なくなった」といった様子が見られたら、受診を促す。
妊婦
妊娠中はウイルスに感染しやすく、強い咳や高熱が妊娠経過に影響を与えることも。妊娠週によっては薬剤の使用を避けたほうがよいため、市販のかぜ薬を使用する時には医師に確認を。
基礎疾患のある人
慢性呼吸器疾患、心臓病、糖尿病、腎臓病、高血圧などのある人は、ウイルスに感染すると重症化しやすい。きちんと病気をコントロールし、生活の中で 感染予防に努めることが大切。
ポイントを押さえてしっかり感染症予防を
感染症にかかるかどうかは、ウイルスの感染力と体の抵抗力とのバランスで決まります。 体の外側のケアと、体の内側のケアを心がけましょう。
Point 01 ウイルスとの接触を減らす
感染症予防の基本である「手洗い」「うがい」「マスクの着用」を実践しましょう。特に大切なのは手洗いです。石けんを使って流水でしっかり洗うことで、ウイルスはほぼ除去できます。 一般のマスクではウイルスを完全にブロックできませんが、鼻やのどの粘膜を潤す効果があります。また、他人にうつしてしまうリスクを避けるためにも着用がすすめられます。
さらに、こまめな換気を心がけ、多人数が集まる場所に長時間いないこと、流行が拡大している地域に行かないことも大切です。
Point 02 体の抵抗力を高める
栄養バランスのよい食事を規則正しく摂り、十分な睡眠をとって体調を整えましょう。ウォーキングやストレッチなど軽いものでよいので、 適度な運動を習慣にすることも大切です。のどや鼻の粘膜の抵抗力を保つためには、加湿器などを利用して空気の乾燥を防ぐのも効果があります。また、ストレスは体の抵抗力(免疫力)を下げる大きな原因となります。リラックスを心がけると共に、ハーブティーやアロマによる ケアを日常にとり入れてみましょう。
Point 03 ワクチンを接種する
ワクチンは特定の感染症に対し、人工的に抗体をつけて発病を予防する手段です。インフルエンザワクチンは、特に高齢者や基礎疾患をもつ人などハイリスクな人は接種がすすめられます。接種しても発症することはありますが、重症化を防ぐ効果が期待できます。最寄りの医療機関にワクチンの入荷時期を問い合わせ、 12月までには済ませておきましょう。
イラスト = コナガイ香
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第53号 2020年9月