自然の万能ヒーラー、ティートリーの抗菌作用
はじめに
ティートリー(学名:Melaleuca alternifolia、フトモモ科コバノブラシノキ属)はオーストラリアのニューサウスウェールズ州とクイーンズランド州の、低地の沼沢地、または、亜熱帯の沿岸地で自生する高木です。その地に古くから住む先住民のアボリジニは、すりつぶしたティートリーの葉を患部にあて、その上から泥パックを塗布するなどして、火傷、切り傷、虫刺されの治療に用いてきました。優れた抗菌作用をもつティートリーは「自然の最も万能なヒーラー」と呼ばれ愛されてきました。1700年代にオーストラリア大陸を発見したキャプテン・クックがティートリーの葉をお茶として利用したことから、「ティートリー」という一般名がついたといわれています。現代のメディカルハーブとしては、その葉から蒸留した精油が活用されています。その優れた抗菌作用は早くから注目され、傷や軽度の皮膚感染症の治療のため、第二次世界大戦時、抗生物質に取って代わるまでは、オーストラリア軍の応急手当キットにティートリーオイルは必ず入っている必需品でした。
ティートリーオイルには100以上のモノテルペンとそのアルコール関連誘導体が含まれ、そのうち9割を占めるのがテルピネン-4-オール、1,8-シネオール、α-テルピネオール、テルピノレン、α-及びγ-テルピネンです。その中でも、ティートリーの真菌と細菌に対する抗菌作用の有効成分は全体の約4割を占めるテルピネン-4-オールです。テルピネン-4-オールは、大腸菌、黄色ブドウ球菌、カンジダ・アルビカンスなど様々な細菌と真菌の細胞壁および細胞膜構造を通過して細胞膜構造の透過性バリアを破壊、またカリウムイオンの漏出など化学浸透圧制御の喪失を引き起こすなどして、広範囲の抗菌活性を示します。また、これら病原菌に対しては殺菌作用を示しますが、皮膚の常在菌は保ちます。ティートリーはこれまで幅広く研究され、にきび、顔ダニ、爪真菌症、および足白癬に関しての抗菌作用が認められ、トリートメントジェル、ローション、石けんなど外用抗菌剤として欧米ではすでに多くの製品が市場に出ています。今回は、ティートリーのにきびに関する代表的な研究と口腔衛生に関する最新の研究をご紹介します。
軽度から中程度のにきびにおける5%ティートリーオイルジェルの有効性1)
にきび(尋常性ざ瘡)は、過剰な皮脂の産生、炎症、およびアクネ菌と呼ばれるプロピオニバクテリウム・アクネスの存在など、いくつかの要因の組み合わせによって引き起こされます。この臨床実験は、にきびを治療するためのティートリーオイル製品の有効性、安全性、忍容性、潜在的な作用機序を確認するために行われました。
方法:
●無作為化・プラセボ対照二重盲検試験
●顔面尋常性にきびのある15歳から25歳の合計60名の被験者を、面皰(< 20個)、丘疹及び膿疱(< 50個)の数によって軽度から中程度の重症度に分類し、無作為にティートリーオイルとプラセボの2グループに分ける。
●45日間、5%ティートリーオイルジェルまたはプラセボジェルを患部に1日2回20分間塗布
し、水道水で完全に洗い流す。
●主要評価項目として平均総病変数(TLC:丘疹・膿疱・面皰・結節の合計数)・にきび重症度指数(ASI)値の変化、また、副次評価項目として、平均面皰数(CN)、丘疹(PPN)、膿疱(PUN)の変化を記録
結果:
●ベースラインと比較して、ティートリーグループは、平均TLCが43.64%(p = 0.035)、平均ASIが40.49%(p <0.001)、CNが40.24%(p <0.001)、PPNが46.06%(p = 0.004)、 PUNが47.45%(p = 0.001)、と全ての項目 で大幅に減少した。
●ティートリーグループはプラセボを使用し たグループよりもTLC(p <0.001)、ASI
(p <0.001)、CN(p = 0.000)、PPN(p = 0.022)、PUN(p = 0.001)に全ての項目において大幅に改善した。
●ベースラインからの減少に関して、プラセボ群のTLC、ASI、PPN、PUNの平均変化に有意性は認められず、CNのみで統計的に有意だった(p = 0.001)。
●両方のグループの副作用(わずかな掻痒、わずかな灼熱感)は比較的類似しており、忍容性があった。
●ティートリーオイルジェルは、プラセボと比較してTLCにおいて3.55倍の有効性、ASIを低減する効果が5.75倍高いと計算され、有意差があると結論づけられた。
この研究により、ティートリーオイルはその抗炎症作用と抗菌作用によって炎症性及び非炎症性の両方のにきびに有効であり、また、副作用が少なく、従来の治療に抵抗性のある軽度から中程度のにきびに適切な治療オプションで あると示唆されました。
ただし、ティートリーオイルは接触性皮膚炎を引き起こす場合があります。オーストラリア・ティーツリー産業協会 (ATTIA)の認定においてはテルピネン-4-オール35%以上、1,8-シネオール15%以下と規定されています。使用の際は、皮膚への刺激が強い1,8-シネオールの配合が15%以下または更に少ない含有量の精油を選び、パッチテストを行うことをお勧めします。
ティートリーオイルの歯肉炎の治療における研究について
歯肉炎はプラーク(歯垢)から発生する細菌の働きによって引き起こされるプラーク性歯肉炎が一般的です。これまでティートリーの歯肉炎への研究は何度も行われてきましたが、その殺菌や抗炎症の効果は認められたものの、どれも被験者の人数が少なく、プラークに対する影響の評価が一定せず、歯肉炎に対する効果の立証が確立されていませんでした。現在でも引き続き小中規模の臨床研究が行われており、徐々にその有効性を示す研究が出てきています。最新の研究を2つご紹介します。
歯肉炎の治療におけるティートリーオイルとクロルヘキシジンマウスウォッシュの比較 2 )
この臨床研究では、歯肉炎の治療に対する ティートリーオイルの有効性を評価するため、ティートリーオイルをうがい薬の形で投与し、クロルヘキシジン0.12%を含むうがい薬と比較されました。
方法:
●無作為二重盲検。
●プラーク性歯肉炎をもつ18~60歳の42名を無作為に2グループに分ける。
●グループA(22名)は100%ティートリーオイルを1日9滴(0.65mL)(1日3回食後に歯を磨いた後に、3滴を約100ccの水に溶かす)、グループB(20名)はクロルヘキシジン0.12%(1パッケージを1日2回)を用いて、食後に歯を磨いた後、60秒口をゆすぎ、その後30分は飲食を避ける。それぞれ14日間続ける。
●主要評価項目は、歯肉指数(GI:発赤、浮腫、出血を伴う中程度の炎症状態の有病率)、プラーク指数(PI)、出血指数(BI)、プロービング深度(PD)、歯の異色症の有無および味覚変化の有無
結果:
●ティートリーオイルで処理したグループAでは、PIが53.25から5.50%に、BIが38.41から4.22%に減少した。グループAでは、歯肉状態が改善し、歯肉の出血、赤みや浮腫も減少した。
●グループBではPIは47.69から2.37%に、BIは32.93から6.28%に減少した。グループBでは歯肉の状態は改善したが、一部の症例では、プロービングや腫れによる出血が残っていた。
●歯の異色症および味覚変化はグループAでは検出されず、22人中4人の患者(18%)のみが、ティートリーオイル摂取初日に臭いが原因で吐き気を訴えた。
●グループBでは、クロルヘキシジンによる歯の変色、歯垢の沈着が検出された。20人中4人の患者は、塩辛い食べ物を食べた時の味覚変化を訴えた。20人中12名は、うがい薬の味を好まず不快な灼熱感を訴えた。
●両方のグループで、プラークとプロービング時の出血が減少した。
この研究は、その限られた被験者数と短いフォローアップ期間のため予備研究とされましたが、ティートリーオイルがプラーク性歯肉炎においてクロルヘキシジンと同様の有効性を示した有意義な研究です。ティートリーオイルの歯肉炎の治療の効果を確実にするため、今後さらに広範囲の被験者において研究が進められることが期待されます。
アロエベラとティートリーオイルのマウスウォッシュが児童の口腔衛生に及ぼす影響3)
方法:
●プラセボ対照二重盲検前向き研究
●8歳から14歳の89人の男の子と63人の女の子をグループ1(アロエベラ)、グループ2(クロルヘキシジン)、グループ3(ティートリーオイル)、およびグループ4(プラセボ)に分け、それぞれをうがい薬として4週間使用。
●主要評価項目のプラークインデックス、歯肉インデックス、唾液中のミュータンス連鎖球菌数を、ベースライン時、うがい薬を4週間使用した後、うがい薬を停止して2週間のウォッシュアウト後に記録。
結果:
●アロエベラおよびティートリーオイル共に、4週間後、2週間のウォッシュアウト後にすべての項目で統計的に有意な減少が認められた(p <0.001)。
●アロエベラ、ティートリーオイル、クロルヘキシジンを使用するグループ間には、統計的に有意な差は認められなかった。
この研究は、ティートリーオイルがアロエベラと共に、子供の口腔内の歯垢、歯肉炎、唾液中のミュータンス連鎖球菌数を減らすことができ、クロルヘキシジンと同様の活性をもつことを示唆しました。
今後も多くの研究がされ、日々の口腔衛生に用いる自然のオプションとして、ティートリーの効果と安全性が確証されていくことが期待されます。
[参考文献]
1)Enshaieh S, Jooya A, Siadat AH, Iraji F. The efficacy of 5% topical tea tree oil gel in mild to moderate acne vulgaris: a randomized, double-blind placebo-controlled study. Indian J Dermatol Venereol Leprol. 2007;73
(1):22-25. doi:10.4103/0378-6323.30646
2)Ripari F, Cera A, Freda M, Zumbo G, Zara F, Vozza I. Tea Tree Oil versus Chlorhexidine Mouthwash in Treatment of Gingivitis: A Pilot Randomized, Double Blinded Clinical Trial. Eur J Dent. 2020;14(1):55-62.
doi:10.1055/s-0040-1703999
3)Kamath NP, Tandon S, Nayak R, Naidu S, Anand PS,
Kamath YS. The effect of aloe vera and tea tree oil mouthwashes on the oral health of school children. Eur Arch Paediatr Dent. 2020;21(1):61-66. doi:10.1007/ s40368-019-00445-5
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第53号 2020年9月