目の健康に役立つハーブを学ぶ 「ビルベリー」
PICK UP HERB ! 「ビルベリー」Bilberry
【 学 名 】 Vaccinium myrtillus L.
【 科 名 】ツツジ科
【使用部位】 果実
【主要成分】 カテキン型タンニン、アントシアニン(デルフィニジン-3-グルコシドなど)、フラボノイド、ペクチン
【 作 用 】収れん、止瀉、視覚機能向上、毛細血管保護
【 適 応 】下痢、口腔粘膜の炎症、眼精疲労、糖尿病性網膜症、老人性白内障
色素成分アントシアニンが目の健康維持をサポートする
ブルーベリーの近縁種であるビルベリーは、ヨーロッパの比較的涼しい地域を中心に自生するツツジ科の 低木です。夏には黒紫色の甘酸っぱい果実をつけ、その果実が古くからティーやシロップのかたちで下痢やむかつき、嘔吐などの胃腸症状の治療に使用されてきました。また、葉の煎じ液も長らく家庭薬として使われてきた歴史を持ちます。
現代のハーブ療法では、果実の色素成分であるアントシアニンが注目されています。アントシアニンはポリフェノールの一種で、強い抗酸化力をもつことから、ビルベリーは動脈硬化や静脈瘤といった循環器系疾患や、糖尿病などの生活習慣病の予防・改善に用いられます。
また、ビルベリーは「目によいハーブ」として知られ 、アントシアニンの目に対する効果や作用について多くの研究が行われてきました。その中で、眼精疲労や緑内障の予防、目の血流の改善、糖尿病性網膜症や白内障など、目の加齢性疾患の進行抑制などが報告されています。その他にも目の健康に役立つ様々な可能性が示唆され、今後さらなる解明が期待されているところです。
QUESTION & ANSWER
01 ビルベリーとブルーベリーとの違いは?
ビルベリーはブルーベリーの仲間ですが、栽培には向かない野生種です。栽培種に比べ丈が低く、果肉は 酸味が強く感じられます。また、ブルーベリーは皮が黒紫色で果肉は白色をしていますが、ビルベリーの果 実は赤色です。そのためアントシアニンの含有量はブ ルーベリー類の中で最も多く、栽培種の2〜5倍といわれ、特に北欧産のビルベリーはアントシアニンが多いことが知られています。これは、日照時間の長い北欧の夏に、紫外線から自らを守る知恵といえるでしょう。
02 アントシアニンは本当に目に効くの?
アントシアニンが目によいといわれる理由のひとつは、その強い抗酸化力にあります。ただし、目だけに 特異的に働くわけではなく、全身に作用して目にも好影響を及ぼすと考えられます。また、アントシアニンには網膜に存在するロドプシンというタンパク質の分解と再合成を助ける働きがあることがわかっています。ロドプシンは網膜に映った映像を脳に伝えるために欠かせない物質です。こうしたことからアントシアニンが眼精疲労の回復などに有効なのではないかと考えられていますが、メカニズムの解明には至っていません。
03 ビルベリーはどうやって摂れる?
ティーやサプリメントでの摂取が可能です。日本では現在のところ生のビルベリーを手に入れることは困難ですが、輸入品のジャムやジュース、ドライフルーツなどが一部で販売されています。ビルベリーの産地フィンランドでは、夏になると国中の森でビルベリーが収穫され、ヨーグルトと一緒に食べたり、スムージーにしたり、パイにして焼いたりと、食卓を飾っています。ちなみに一般のフィンランド人はビルベリーもブルーベリーも区別することなく、mustikka(ムスティッカ)と呼んでいるそうです。
TOPICS パイロットがブルーベリージャムを食べたら… の真相
ビルベリーやブルーベリーが目によいと言われ始めたのは、第2次世界大戦中に起こった出来事がきっかけです。ブルーベリージャムが大好物で毎日パンにつけて食べていたイギリス空軍のパイロットが、夜間飛行の最中に「薄明かりの中でもはっきりと物が見えた!」といった話が有名になり、イタリアやフランスで研究が行われるようになりました。そして研究が進むにつれ、ベリーに含まれるアントシアニンの働きがわかってきたといいます。しかし、現在はこのエピソード自体疑わしいという説が有力です。
当時、イギリスはドイツ空軍との空戦で連日連勝。この戦果は主に、戦闘機に最先端技術のレーダーが搭載されていたことによるものでした。しかし、戦いを有利に運びたいイギリス情報部は、この事実を隠すために特殊能力をもつヒーローの話を作り上げたというのです。しかも当初の宣伝では、パイロットが食べた物はブルーベリージャムではなく、ニンジンだったといいます。いつ、どのような経緯でニンジンがブルーベリーに入れ替わってしまったのかは、いまだ謎のまま。デマから始まったブルーベリー伝説と聞けばがっかりですが、これをきっかけにアントシアニンの研究が進んだことは幸いなのかもしれませんね。
ボタニカルアート = 田中 沙織
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第51号 2020年3月