2021.1.8

ハマゴウとチェストツリー

昭和薬科大学 薬用植物園薬用植物資源研究室 研究員

佐竹元吉

ハマゴウ類との出会い

筑波の薬草園に赴任して、園内で見かけた植物にニンジンボクがあった。葉がチョウセンニンジンに似ているので、ニンジンボクの名前がついたが、地中海産の植物にセイヨウニンジンボク(チェストツリー)がある。鎌倉の海岸には匍匐低木の植物にハマゴウがあった。この果実は蔓荊子マンケイシとして薬用であると知った。フィリピンの薬局で売っているラグンドという咳止めの薬があり、フィリピン薬局方に収載した。この植物がタイワンニンジンボクである。

ハマゴウ Vitex rotundifolia と ミツバハマゴウ Vitex trifolia

ハマゴウは落葉か半常緑の匍匐低木で、枝は4稜 、葉は単葉で、対生する。葉身は楕円形から広卵形で、長さ3〜6cm、幅2〜4cm、縁は全縁、裏面は白い毛で被われる。葉柄は長さ55〜10mmになる。花序は集散花序で、枝先に円錐状に集まる。萼は鐘形になり5歯がある。花 冠は紫色、筒状漏斗形で5裂し、長さ12〜16mm、下側の裂片は他の4裂片よりはるかに大きい。果実は核果で球形になる。種子島の海岸には、小葉が3個のミツバハマゴウが生えている。ミツバハマゴウの裏面は白色短毛がある。ミツバハマゴウは九州以南に分布する。

両種の果実は蔓荊子と呼び、鎮痛・鎮静や風邪に漢方処方に配合され、日本薬局方に収載されている。

1)ハマゴウ(写真提供:松島 成介氏 株式会社栃本天海堂)
2)ミツバハマゴウ(写真提供:松島 成介氏 株式会社栃本天海堂)
3)蔓荊子(写真提供:松島 成介氏 株式会社栃本天海堂)

ニンジンボク類

ハマゴウ属で葉が掌状複葉で、落葉低木に、ニンジンボク、セイヨウニンジンボクとタイワンニンジンボクの3種がある。

①ニンジンボク Vitex negundo var. cannabifolia 小葉は3〜5枚、荒い鋸歯あり、頂小葉は長さ5〜12cm、幅1.5〜4cmの広披針形、葉裏は淡緑色である。ニンジンボクは、花は淡紫色の小さい唇形花で、長さ約20cmの円錐、4個の雄しべは花冠から長く出る。果実は径5mm、倒卵形で黒色。中国大陸に分布する。漢名ではニンジンボクは牡荊ボケイ、果実を牡荊子ボケイシという。牡荊子は、鎮咳、鎮痛、健胃、止瀉剤として喘息、感冒、胃病、消化不良、腸炎などの治療に用いる。中国では葉、茎、根もほぼ果実と同様に用いる。

②セイヨウニンジンボク Vitex agnus-castus 小葉5〜7枚、葉縁は全縁で、ニンジンボクに比べ葉身が細い、頂小葉は5〜10cmの広披針形、葉裏は灰白色でる。高さ約3m、花は青紫色。芳香があり、葉にも香りがある。果実はチェストベリーと呼ばれ、月経痛や月経不順、月経過多、子宮筋腫、子宮内膜症、更年期障害などに用いられる。南ヨーロッパから中央アジアに分布 する。

③タイワンニンジンボク Vitex negundo 小葉3〜5枚、葉縁は全縁、楕円状卵形または披針形で、葉裏は灰白色ある。高さ3〜5m、淡紫色の小さい唇形花が長さ20cmほどの円錐花序をなして階段状に集まって咲く。果実は径5mm、倒卵形で黒色。葉は東南アジアで薬用にされている。フィリピン薬局方のネグンドである。琉球、台湾、中国、東南アジア、インド、マダガスカル島、アフリカに分布する。漢名では黄荊といい、前種と同様に用いる。インドでの薬用としての利用もほぼ同様である。

4)ニンジンボク(写真提供:磯田 進氏 元昭和大学薬学部)
5)セイヨウニンジンボク(写真提供:磯田 進氏 元昭和大学薬学部)
6)タイワンニンジンボク(写真提供:山崎 和男氏 フィリピン大学農学部)

ハマゴウの仲間は洋の東西で、古くから薬用 にされている植物で、薬用には果実と葉が知ら れているが、果実を用いているハマゴウ、ミツバハマゴウとセイヨウニンジンボクの薬効は異なり、 前二者は消痰、鎮静、鎮痛に対して後者は婦 人病の治療に用いられている。

フィリピンのタイワンニジンボクと、ミャンマーのミツバハマゴウの葉は薬用に用いられている。

昭和薬科大学 薬用植物園薬用植物資源研究室 研究員
佐竹元吉 さたけもとよし
当協会顧問。沖縄美ら島財団研究顧問。1964年東京薬科大学卒業。国立医薬品食品衛生研究所生薬部部長、お茶の水女子大学生活環境研究センター教授、富山大学和漢医薬学総合研究所・お茶の水女子大学客員教授を歴任。著書『第17改正日本薬局方生薬等の解説書』(共著・廣川書店)他。