ハマゴウとチェストツリー
ハマゴウ類との出会い
筑波の薬草園に赴任して、園内で見かけた植物にニンジンボクがあった。葉がチョウセンニンジンに似ているので、ニンジンボクの名前がついたが、地中海産の植物にセイヨウニンジンボク(チェストツリー)がある。鎌倉の海岸には匍匐低木の植物にハマゴウがあった。この果実は蔓荊子として薬用であると知った。フィリピンの薬局で売っているラグンドという咳止めの薬があり、フィリピン薬局方に収載した。この植物がタイワンニンジンボクである。
ハマゴウ Vitex rotundifolia と ミツバハマゴウ Vitex trifolia
ハマゴウは落葉か半常緑の匍匐低木で、枝は4稜 、葉は単葉で、対生する。葉身は楕円形から広卵形で、長さ3〜6cm、幅2〜4cm、縁は全縁、裏面は白い毛で被われる。葉柄は長さ55〜10mmになる。花序は集散花序で、枝先に円錐状に集まる。萼は鐘形になり5歯がある。花 冠は紫色、筒状漏斗形で5裂し、長さ12〜16mm、下側の裂片は他の4裂片よりはるかに大きい。果実は核果で球形になる。種子島の海岸には、小葉が3個のミツバハマゴウが生えている。ミツバハマゴウの裏面は白色短毛がある。ミツバハマゴウは九州以南に分布する。
両種の果実は蔓荊子と呼び、鎮痛・鎮静や風邪に漢方処方に配合され、日本薬局方に収載されている。
ニンジンボク類
ハマゴウ属で葉が掌状複葉で、落葉低木に、ニンジンボク、セイヨウニンジンボクとタイワンニンジンボクの3種がある。
①ニンジンボク Vitex negundo var. cannabifolia 小葉は3〜5枚、荒い鋸歯あり、頂小葉は長さ5〜12cm、幅1.5〜4cmの広披針形、葉裏は淡緑色である。ニンジンボクは、花は淡紫色の小さい唇形花で、長さ約20cmの円錐、4個の雄しべは花冠から長く出る。果実は径5mm、倒卵形で黒色。中国大陸に分布する。漢名ではニンジンボクは牡荊、果実を牡荊子という。牡荊子は、鎮咳、鎮痛、健胃、止瀉剤として喘息、感冒、胃病、消化不良、腸炎などの治療に用いる。中国では葉、茎、根もほぼ果実と同様に用いる。
②セイヨウニンジンボク Vitex agnus-castus 小葉5〜7枚、葉縁は全縁で、ニンジンボクに比べ葉身が細い、頂小葉は5〜10cmの広披針形、葉裏は灰白色でる。高さ約3m、花は青紫色。芳香があり、葉にも香りがある。果実はチェストベリーと呼ばれ、月経痛や月経不順、月経過多、子宮筋腫、子宮内膜症、更年期障害などに用いられる。南ヨーロッパから中央アジアに分布 する。
③タイワンニンジンボク Vitex negundo 小葉3〜5枚、葉縁は全縁、楕円状卵形または披針形で、葉裏は灰白色ある。高さ3〜5m、淡紫色の小さい唇形花が長さ20cmほどの円錐花序をなして階段状に集まって咲く。果実は径5mm、倒卵形で黒色。葉は東南アジアで薬用にされている。フィリピン薬局方のネグンドである。琉球、台湾、中国、東南アジア、インド、マダガスカル島、アフリカに分布する。漢名では黄荊といい、前種と同様に用いる。インドでの薬用としての利用もほぼ同様である。
ハマゴウの仲間は洋の東西で、古くから薬用 にされている植物で、薬用には果実と葉が知ら れているが、果実を用いているハマゴウ、ミツバハマゴウとセイヨウニンジンボクの薬効は異なり、 前二者は消痰、鎮静、鎮痛に対して後者は婦 人病の治療に用いられている。
フィリピンのタイワンニジンボクと、ミャンマーのミツバハマゴウの葉は薬用に用いられている。