クサノオウとドオウレン: その安全性と有用性
クサノオウの形態
初夏の薬草園に遠くから目立つ黄色い花がある。クサノオウである。ケシ科植物特有の茎を折ると黄色い汁が出る。
クサノオウは2年生、茎は分枝し、粉白色を帯び、多細胞の縮毛がある。高さ30〜80cm。茎や葉を折ると黄橙色の乳液が出る。葉は1〜2回羽裂、鈍頭、鋸歯か欠刻がある。長さ7〜15cm、幅5〜10cm、下葉は有柄。花序は有梗、葉腋より出て、数花、花は小梗ある。ガク片は長さ6〜8mm、2個、緑色、早落。花弁は長さ10〜12mm、4個、黄色。雄ずいは多数。蒴果は線形、無毛、長さ3〜4cm、幅は約2mm、柱頭は少しく肥厚、浅く2裂。裂開する。種子は光沢があり、小型、仮種皮は白色で、蟻が巣穴に運ぶ。開花期は4〜7月、日本の種の分布は東亜温帯である。
日本と欧州の種の違い
クサノオウの学名はChelidonium majus L. とされていた。日本に分布しているものは、少し形態が違うとして変種のvar. grandiflorum DC.と記載されていた。この違いを染色体で観察したのが長尾正人(1939)である。日本の種は欧州のもの(2n=12)と違って、2n=10であると記載した。この違いを原寛は、クサノオウでは葉の裂け方、毛の多少、花梗の長さ、花の大きさなどが、生育地で違いが見られるとした。欧州の葉に比べて、裂片が小さく、欠刻が深く、測裂片の付け根で葉片は小葉柄に流下することが少ない。葉質はごく柔らかい。葉片が深く著しく裂けた形はセリバクサノオウと呼ばれる。欧州にはない形である。
クサノオウと欧州のものとの違いは、花粉粒が完全なものが欧州のもので、クサノオウは不完全なものが多いので、種子の不稔率が高くなる。果実の中の種子数は欧州では20〜40個、クサノオウは60〜100個で、70%以上が不稔である。
日本のクサノオウを亜種として、Chelidonium majus L. subsp. asiaticum Hara(1949)と 記載されている。その後、日本の植物をまとめた大井次三郎はChelidonium majus L. var. asiaticum(H. Hara)Ohwi(1953)を記載した。
和名と学名の由来
クサノオウの名前は、植物体を傷つけると黄色の乳液を流すので「草の黄」や皮膚疾患に有効なので「瘡(くさ)の王」という説もある。地方では、イボクサ(疣草)、タムシグサ(田虫草)、ヒゼングサ(皮癬草)、チドメグサ(血止草)ともいわれている。学名の Chelidoniummajus は、ギリシャ語のchéridonツバメからChelidonium由来、母ツバメがヒナ鳥の目を黄色汁で洗い視力をつけたと伝えている。種小名のはmajusは大きい花である。英名は、 Swallow wort(ツバメ草)である。
中国では、クサノオウを白屈菜、土黄連、山黄連などと呼び、薬用に用いられ、救荒の食用にされていた。日本では、貝原益軒『大和本草』(1709)に「白屈菜クサノワウ」の記載や民間薬ではタムシグサ、イボトリグサ、クサノタマとも呼ばれ、もっぱら湿疹などの皮膚疾患の外用薬として用いられていた。アイヌ民族はオトンプイキナ(オトンプイ=肛門)−(キナ=草)と呼び、外用薬として知られている。
おわりに
2020年6月、食品衛生法の改正で、安全性の面から使用の注意を要する指定成分4種類が記載されている。プエラリア・ミリフィカ、ブラックコホシュ、コレウス・フォルスコリー及びドオウレンが挙げられている。このドオウレンがクサノオウであることから、ここにクサノオウを記した。ドオウレンの安全性は、Chelidonium majus L. の副作用情報にあるが、日本のクサレダマにも母種と同じ成分が含まれるので同様の副作用が予測される。ドイツのヴァイスの『薬物療法』(1991)には、C. majusの記載の中で、胆疾患に有効であるといわれていたが、有効性は証明されなかった。また、成分のケリドリンはパパベリンに類似しているが、鎮痛作用は弱いと記している。薬効に関する有効性を証明する文献は見当たらないとも述べている。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第52号 2020年6月