2021.3.19

ハーブ療法の母・聖ヒルデガルトの自然学(7) スパイスとワイン

国際ヒルデガルド会 DanielaDumann 認定 ヒルデガルトヘルスケアアドバイザー

長谷川弘江

ヨーロッパで愛されたスパイスワイン

ドイツのクリスマスマーケットの素敵な陶器の飲み物はグリューワインと呼ばれるスパイス(ハーブ)ワインで、シナモン・クローブ・オレンジとレモンの皮などを漬け込んだワインを温めたものです。器を持って行くとそこに入れてくれたり、容器代を返してくれたりするのはエコかと。また5月1日に「メイワイン」といって辛口の白ワイン1本にクルマバソウの葉と枝12本、オレンジの薄切り5枚、蜂蜜大さじ1杯漬け込んだワインを飲むそうです。

ヒルデガルト修道院のワインびん

ヨーロッパでは古くから、ワインや林檎で作る発泡酒(シードル)等に医療効果があると信じられていました。デンマークの青銅器時代の古墳にはハチミツを水で発酵させた蜂蜜酒(ミード)をカバの木のバケツに入れ、マートルやクランベリーの香りをつけたものが。古代ローマの美食家が書いた『アピキウスの料理帖』には、前菜と共にワインもしくはグレープジュース1リットルに蜂蜜250ccを溶かした「ムルスム」を夏は冷やして、冬は温めたものを飲んだとあります。他にも消化によいワインとして、適量のバラの花びらをワインに7日間漬け込み、新しいものに換えること3回のローズワインや、同じ工程のすみれワインも飲まれたと。中世及びルネサンス期には「貴族の食卓に、ヒポクラテスの袖と呼ばれたスパイス入りの赤ワインがのっていた」と文献にも残っています。レシピは、「赤ワイン1リットルに生姜小さじ1/2・シナモンスティック4本・カルダモン4粒・砂糖1/2カップ・着色に青いヘリオトロープの花を4個程」。

ルデガルト治療院のエリクサーの展示

聖ヒルデガルトのワインレシピとスパイス

聖ヒルデガルトの「自然学」にもハーブスパイスワインのレシピがあり、彼女がグリューワインを広めたという説もあります。

❶フェンネルとヒソップのワイン

肝臓と胃に。白ワイン1リットルにフェンネルシード・シナモン粉末・ヒソップを3gずつ入れて2、3日置いたものを、飲む前に蜂蜜を少々入れて朝食の後と寝る前に飲むとよい。

❷ラベンダー花を少々入れたワイン

脳をすっきりさせる。

❸愛とハートのワイン

心臓や代謝によい。パセリの葉8〜10本、大さじ2杯のワインビネガーを、1リットルの赤ワインで5分煮て、カップ1/3の蜂蜜を加え5分煮る。

❹ガランガル少々を入れて2〜3分煮込んだワイン

腰痛やリューマチ、筋肉の痛みに。

聖ヒルデガルトの愛したスパイスをご紹介します。

●シナモン (Zimit /クスノキ科)有効成分

精油(桂アルデヒド、オイゲノール)、タンニン、オリゴメリックプロシアジンなど。樹皮。「大変な温で強い力をもっている。常食するとよい体液になり、痛風、熱にはワインに入れたものを飲むとよい。粉末にし、パンにつけて食べると鈍くなった頭をすっきりさせる」。

最古のスパイスとして今もお菓子やスパイス茶、甘いものにも辛いものにも合うスパイスです。食べると、足りない体液のバランスをとり、治癒力がある体液を作るとされ、中世、エリキシル(万能薬)にたくさんのシナモンが使われています。

●ナツメグ (Muskatnuss /ニクズク科)有効成分

桂皮酸、精油成分(カンフェン、ピネン、ミリスチシン、オレオジンなど)、ナツメグバター。実。ナツメグは、桃の種に近い形です。ハンバーグやお菓子に。聖ヒルデガルトは、ナツメグは万能神経安定薬と。心が広がり、五感が鋭くなり、天才的なひらめきをもたらすと。幸運、金運、健康そして恋人を誘惑から守るお守りとしたり、お香にしたりします。

●クローブ丁子(Nelken /フトモモ科)有効成分

フラボノイド、フィトエストロゲン(β – シトステロール、スチグマステロールなど)、没食子酸、タンニン、精油成分(オイゲノールなど)。つぼみ。「大変な温で蜂蜜のような甘い水をもつ。頭が重い人、腸がふくらんで水腫がある人、関節に激痛が走る人は常に食べなさい。しゃっくりが出たらかみなさい」。古来、薬として使われ、中世のペストの蔓延と共に価値が上がりました。古代中国で口臭消しに、今でもお経を唱える前に口に含んでからとか。守護、悪魔祓い、愛、金運にお香やお守りとして。

●ガランガル 高良姜コウリョウキョウ(Galgant/ショウガ科)有効成分

精油(1,8- シネオール)、ガランゴール、タンニン、フラボノイドなど。根茎。漢方生薬として、芳香性健胃、発汗、解熱、鎮痛、整腸、駆風、収斂作用から、出血、吐血、月経不順など血液にかかわる症状に使います。胸が苦しくて気分が落ち着かず眠れない時にも。エスニック料理のスパイス(カー)として、購入できます。トムヤムクンやカレーに。古代エジプトのお香でキフィという名香にも。ドイツでは、「完全な温で、緑の力に満ち溢れています。高熱には、粉末にしたガランガルを湧水に溶いて飲みなさい。背中やわき腹のリンパの痛みには、温めたワインに入れて飲みなさい。心臓のトラブルには、これをよくとりなさい」という聖ヒルデガルトの言葉から、料理のスパイス、粉末の錠剤・チンキ剤を薬局で買うことができます。

この冬、聖ヒルデガルトが愛したスパイスでヘルスケア。感謝と共に、安寧を祈ります。

櫃教会の聖ヒルデガルト像

修道院で作られる【聖ヒルデガルトの喜びのクッキー】レシピ

スペルト小麦粉 500g
ベーキングパウダー 小さじ2
砂糖 200g
レモン汁 小さじ1/4
バター 250g
アーモンド(刻みか粉) 100g

スパイスミックス(ナツメグ45%、シナモン45%、クローブ10%)30g

全て混ぜて200°Cのオーブンで15分焼く。1日2、3枚食べるとよいと。おいしいので食べ過ぎ注意とも。

国際ヒルデガルド会 DanielaDumann 認定 ヒルデガルトヘルスケアアドバイザー
長谷川弘江 はせがわひろえ
ヒルデガルトフォーラム・ジャパン副代表。英国ハーブ医学校通信課程修了。ハーブ医学とヒポクラテス、ディオスコリデス、プリニウス、パラケルスス研究の大槻真一郎氏、ドイツハイルプラクティカー連盟(BDH)副会長・民族医療協会"Gyu zhi"主宰ペーター・ゲルマン氏に師事。伝承と身近な植物のルネサンスをテーマに活動中。『ヒルデガルトの宝石論―神秘の宝石療法(ヒーリング錬金術)』大槻真一郎著(コスモスライブラリー)で解説を執筆する他、著書多数。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第54号 2020年12月