2021.6.3

クサスギカズラ

昭和薬科大学 薬用植物園 薬用植物資源研究室 研究員

佐竹元吉

クサスギカズラは根が天門冬(テンモンドウ)と呼ばれる生薬です。学名はAsparagus cochinchinensisで、科名はクサスギカズラ科に変わった。多くの図鑑で使われてきたのは、ユリ科の植物であったが、APG(Angiospem Phylogeny Group)体系は、1998年に公表された被子植物の新しい分類体系のキジカクシ科とした。旧い分類法の新エングラー体系やクロンキスト体系が形態的な特徴で区分されていたが、近年、ゲノム解析が進んだので、APG体系ができあがった。

旧来のユリ科では、ユリ科に残ったものは11属のみで、その他は8科に分けられ、クサスギカズラ科が新設された。科の特徴は、葉が鱗片状に退化し、代わりに茎が仮葉となった種類で、ゲノム解析とも一致している。

クサスギカズラの仲間は、葉が退化して鱗片様になり、代わりに枝か葉のようになっている。

1. クサスギカズラの形態 

つる性の多年草。短い根茎に、紡錘形に肥大した多数の塊茎が束生する。茎は下部が木化し、上部はつる性となって他物に巻きつく。分枝がきわめて多く、葉のように見えるのは葉状枝である。細枝に付く葉は広卵形、膜質で小さく、太枝に付く葉は外曲するトゲに変化している。葉腋に淡黄色の小花を2〜3個ずつ付ける。花は雌雄異株、広鐘形で長さ2〜3㎜、淡黄緑色。果実は小球形で、汚れた白色、中に黒い種子が1個ある。

クサスギカズラ地上茎(【写真提供】株式会社栃本天海堂 松島 成介氏)
雄花(【写真提供】株式会社栃本天海堂 松島 成介氏)
葉が変形したトゲ(【写真提供】昭和薬科大学 中野 美央氏)

類似した植物にキジカクシAsparagus schoberioidesがある。この二種類の区別として、クサスギカズラの花梗は中央付近に関節あり。葉状枝は1〜2個束生し、やや湾曲し、光沢がある扁平な、三凌形、短芒におわる鋭尖頭、根は紡錘状に肥厚し、花は、長さ約2.5㎜、果実は汚白色。キジカクシは、花梗の直下に関節あり。根は紡錘状にならない。葉状枝は3〜7個束生し、三凌形にして鋭尖短芒端、ゆるく湾曲し、果実は赤色。

根が紡錘形に膨らむものに、タチテンモンドウ Asparagus cochinchinensis var. pygmaeusがある。茎は直立して、高さ15〜30㎝、葉はクサスギカズラと同様。花は咲かない。

タチテンモンドウ(【写真提供】昭和薬科大学 中野 美央氏)
タチテンモンドウの根(【写真提供】昭和薬科大学 中野 美央氏)

2. テンモンドウ(天門冬)

天門冬は『神農本草経』の上品の薬である。効能が麦門冬と同じであることから天門冬とした説もある。漢方処方中では、麦門冬と一緒に配合されるものが多く、「二膏冬」「甘露飲」「滋飲降火湯」「清肺湯」などがある。元代の『食物本草』や明代の『救荒本草』では食用として滋養があり、強精強壮効果も期待されたとの記載もある。天門冬は、蒸して皮を除き、その後、日に晒すか、火で炙って乾燥させると記載がある。成分はアスパラサポニン(asparasaponin I, protodioscin, officinalisnin II, Aspacochinoside N, O, P)などである。

生薬天門冬(【写真提供】株式会社栃本天海堂 松島 成介氏)

3. アスパラガス

食用にされているアスパラガスは、Asparagus officinalisの学名が示すofficinalisは薬用の意味があることから、ヨーロッパで古くから薬用として扱われていたようである。品種改良で、野菜としての流通が世界的に広がった。アスパラガスに類似した食用植物である、同じクサスギカズラ科のワイルド・アスパラガス(Ornithogalum pyrenaicumの花芽)は、「アスパラソバージュ」の名で知られる。日本の野生植物にアスパラガスに似た味のシオデ Smilax ripariaがある。シオデもユリ科からサルトリイバラ科に分類されている植物で、葉は互生し、長さ5〜15㎝の卵状長楕円形で5〜7脈があり、やや厚くて光沢がある。葉柄は長さ1〜2.5㎝で、基部に托葉の変形した巻ひげがあり、これで絡みつく。葉腋から散形花序を出し、淡黄緑色の小さな花をつける。雌雄異株。

シオデの花(【写真提供】昭和薬科大学 中野 美央氏)
昭和薬科大学 薬用植物園 薬用植物資源研究室 研究員
佐竹元吉 さたけもとよし
当協会顧問。沖縄美ら島財団研究顧問。1964年東京薬科大学卒業。国立医薬品食品衛生研究所生薬部部長、お茶の水女子大学生活環境研究センター教授、富山大学和漢医薬学総合研究所・お茶の水女子大学客員教授を歴任。著書『第17改正 日本薬局方生薬等の解説書』(共著・廣川書店)他。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第54号 2020年12月