南の島の植物の不思議
今回は内地と異なった島の植物の不思議を紹介します。
●南下する桜前線?
沖縄の桜の開花は本土とは逆に沖縄本島の北部から始まり、南下します。サクラは夏に花芽を形成し、そのまま休眠状態で年を越します。休眠から覚めるには、低温にさらされる必要があります。その気温がソメイヨシノの場合5℃前後のため、沖縄ではソメイヨシノは咲きません。沖縄の「ヒカンザクラ」だと15℃前後。沖縄県は南北に500キロ以上もあり、北部のほうが南部よりも早く気温が下がり、花芽が分化し始めます。そのため桜前線は北部から次第に南下します。本島北部では正月から花が見られることもあり、1月の20日頃から各地で「桜祭り」が始まり南端の八重山では2月の中旬に開花します。
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●板根?
八重山で山中に入ると多くの木に板状になって四方に広がる根を見かけます。これは「板根」といい、熱帯雨林に多く見られます。なぜ、このような根が発達したのでしょう。熱帯雨林は多くの植物が繁茂していますが、実際には薄い表土しかありません。落ち葉や枯れ木の分解速度が早いため、栄養素はすぐに植物に吸収され、腐葉土のような土壌は形成されません。表土壌が薄いので根は下ではなく水平方向に広がります。しかし、地上部は大きいため、板状の根を四方に出して支えることになります。この板根で船の舵を作ったり、熱帯地方ではテーブルなどの家具にも利用されるそうです。ちなみに石垣島では台風襲来の度に傷めつけられるため、山中の谷間以外に巨木を見かけることはありません。
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●森の火祭り?
石垣島の石灰岩地域の海岸線に点在する原生林の中に、春先に一斉に姿を現す森の小人と呼ばれる植物があります。「リュウキュウツチトリモチ」です。高さは5~7㎝、赤やピンク、黄色など様々な色で、坊主頭のようなオレンジ色の部分は雌花の集合体、つけ根の苞にある白い粒が雄花です。原生林の中の木の根に寄生する「寄生性の一年生草本」です。見所はその数の多さで幾つかの場所では、数万ものオレンジ色の坊主頭が足の踏み場もないように顔を出し、さながら森の火祭りのような景観を呈します。
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●塩を溜める植物?
島の河口や広がる干潟には「マングローブ」の仲間が多く見られます。「ヤエヤマヒルギ、オヒルギ、メヒルギ、ヒルギダマシ」など満潮時には1m以上も塩に浸かりながら生育しています。なぜ、塩水の中で生きていけるのでしょう?マングローブの根には塩分濾過機能があります。それでも濾過しきれない塩分は植物体内に上がっていきます。その塩分を古い葉に溜め込みます。塩分濃度が上がると葉は黄色く変色し、やがて落ちていきます。この葉を「犠牲の葉」といいます。マングローブは鮮やかなこの黄色い葉がたくさんついています。もちろんこの黄色い葉をなめると塩辛く渋いのです。
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●古代からの植物?
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八重山の山中の渓流沿いを歩いていると巨大なシダの葉を見ることがあります。「ナンヨウリュウビンタイ」は、中生代に生えていたシダ類の生き残りとされています。シダ類の中では最も大きな種といわれており、一枚の葉の長さは5m以上、根元に黒く固まる塊茎は経70㎝以上にもなり、その名も塊茎が竜の鱗に似ているからといわれています。また、山中に多く見られる「ヒカゲヘゴ」は、高さが10m以上にも達する常緑木生のシダです。その大きさから古生代に栄えた大型シダ植物をほうふつさせるものであり、このシダ類に出会うと、陰から恐竜がヌッと顔を出すような雰囲気に包まれます。
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●風が見える樹?
島の海岸沿いには一見松の木のような細い葉の大木が数多く見られます。「モクマオウ」という名前で古くから防風防潮林として植えられていました。経1㎜程のトクサのような葉で針葉樹と思っていましたが、これが広葉樹であるとのこと。針葉樹と広葉樹の植物学的相違点は、針葉樹類は裸子植物類で広葉樹類は被子植物類に分類されるそうで、葉の細い広いではないようです。モクマオウは被子植物=広葉樹、ちなみにソテツとイチョウの木は裸子植物類なので、針葉樹に当てはまるそうですが、この二種は例外になるようです。モクマオウは成長が早く防潮林としては有効ですが、大木になると木肌が荒れて樹姿が悪くなり、非常に硬いので国内ではあまり利用されません。ただ、原産地のオーストラリアでは鉄道の枕木に使用されるそうです。あまり評価の高くない木ですが、この木の下の砂浜で寝転んでいると細い葉の間を通る風の音が心地よく、目を閉じていると風の動きが見えてきます。
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●ヤシも覆い尽くす巨大な葉?
観光客が一様に驚かれるのが観葉植物で普通に見られる「ポトス」です。ポトスは登攀性という変わった性質があり、登上させると葉が成長し、下層に垂らすと葉が縮小する性質をもっています。植物体は不溶性シュウ酸カルシウムという毒性物質を含んでおり、獣や害虫の食害、病気になることもほとんどありません。そのため、ソロモン諸島の原産といわれますが、生育環境の合った沖縄では野良植物化し、いたるところで山中の林床を覆い尽くします。林床の時は葉の大きさも10㎝程度ですが、気根を使い樹木や電柱などに這い上がれば一枚の葉が50㎝を超えるサイズにまで肥大し幹を覆い尽くします。
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●ジャックと豆の木?
八重山の海岸に近い山中の沢沿いには、巨大な蛇がうねったような太い蔓が幾本も地面から高い樹木へ這い上がっているのを見ることができます。見上げると長さ1m、幅10㎝以上もあるような巨大な豆の莢が下がっています。中には直径5㎝程もある大きな豆が入っています。「モダマ」は世界最大の豆として、ジャックと豆の木のモデルにもなったといわれる、熱帯と亜熱帯に自生する蔓性のマメ科常緑植物です。落ちた種は川から海に流れ、海流に乗って遠くの海岸に漂着します。漂着した種子を海草の種子と間違え「藻玉」と名づけられました。大きな硬い豆は出会いをもたらす「幸福の豆」としてお守りやアクセサリーなどに利用されています。
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亜熱帯の気候で植物が一年中活性化する南の島ならではの植物の不思議。目の当たりにするときっと驚かれることでしょう。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第56号 2021年6月