ハッカクレン
ハッカクレンはメギ科植物である。メギ科植物は木本性のメギの他に花の形の異なった植物がある。薬用で代表的なものがイカリソウである。ガク片が突起して錨のようになる。山地性のサンカヨウ、トガクシショウマ、ルイヨウボタン、ナンブソウなどがある。寺林 進博士は花の形の変異を研究し、花の維管束の違いで、メギ科の系統性を明らかにした。
1. ポドフィルム Podophyllum peltatum L. アメリカハッカクレン
大学の薬草園ではハスの葉のようなポドフィルムの名札が見られる。ポドフィルムは、Podophyllum peltatumの属名で、北米とカナダの東海岸に野生する宿根草である。根茎は横走する。草丈50㎝で、1本の花茎から左右に2枚の葉を頂生する。葉は楯状円形で5~7中裂し裂片はさらに先端が2つに浅く裂ける。花は大きな葉の下に白い大きな花を1つ咲かせる。実は漿果になる。
2. ハッカクレン Podophyllum hexandrum Royle ヒマラヤポドフィルム
メギ科の多年草。地下茎がよく発達する。地上茎の基部には数枚の鱗片葉がある。葉は通常2枚で、楯状、6~8浅裂し、こまかい鋸歯で縁取られる。2枚の葉の間から集散花序が出る。花はすべて垂れ下がっている。ガク片9枚、花弁は暗紫色で6~9枚、4~6本のおしべの葯は縦裂開し、めしべは1本1室で多数の胚珠がある。果実は赤紫色の漿果に熟す。
ポドフィルム属植物は、北アメリカ東海岸とアジアに隔離分布する。ポドフィルム根は、アメリカの先住民が瀉下薬(下剤)、駆虫薬として使用していた。同様のことが、ヒマラヤ山地に自生するPodophyllum hexandrumにも見られ、根は薬用に使われていた。パキスタンではユナニーの治療薬であり、インドのアユルベーダでも薬用にされていた。中国の種はミヤオソウPodophyllum pleianthumとされ、蛇毒の治療薬に用いられ、『神農本草経』に鬼臼として文献もある。
Podophyllum peltatumとPodophyllum hexandrumの成分は、ポドフィロトキシン(リグナン)、フラボノイド、リグニンの配糖体である。
ポドフィルム根のアルコール浸出液は水を加えると結晶ができ、これをポドフィルム脂と呼び、アルカロイドのポドフィロトキシンとポドフィロフィリンの立体異性体が発見された。これらから抗悪性腫瘍薬であるエトポシドが開発された。
Podophyllum hexandrum(PH)およびP. peltatum(PP)の根茎を基原とし、リグナン誘導体(-)-ポドフィロトキシンを含む。(-)-ポドフィロトキシンは抗悪性腫瘍薬のエトポシドの製造原料の安定供給を目指した生合成経路の解明研究が進められてきた。19世紀より論議され続けてきたポドフィルム属植物のアルカロイド産生能については決定的な成分分析成果はなく、加えてアルカロイドの骨格形成に関わる酵素遺伝子は未同定であったが、近年の急速な分析技術により、オミクス解析で、植物の代謝研究は新たな展開を見せ始めている。
ポドフィルム属植物は毒性植物として取り扱われるが、これは根茎を食すと腸出血を起こすことによるのであろう。
【写真提供】
1) 2) : 元昭和大学薬学部 磯田進氏
3) 4) 5) 6) : 昭和薬科大学 中野美央氏
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第57号 2021年9月