2021.9.12

犬・猫のハーバルケア: 動物の自然治癒力を高めるハーバルケア

株式会社ノラ・コーポレーション代表取締役

金田俊介

動物たちははるか昔から、自らの健康を守るためにハーブを取り入れてきました。
植物のもたらす恩恵を、今ひとたび愛しいペットたちと分かち合いましょう。

ハーブは動物にとって天然のサプリメント

野生動物は本能的にハーブを食べることで病気や傷を癒やし、体調を整えてきました。例えば犬や猫が頻繁に草を食べようとするなら、胃腸の調子が悪かったり、慢性的にビタミン不足で、それを補おうとしていたりする可能性があります。ハーブは犬や猫にとって、天然のサプリメント。むしろ私たち人間が、動物たちからハーブの摂り方を学んできたともいえるのです。

ハーブには医薬品のような即効性はありませんが、もともと動物がもっている自然治癒力に働きかけ、全身的に体調を整えてくれるのが最大の魅力です。また、病院で処方された薬を嫌がる動物も、ハーブなら抵抗なく受け入れてくれることもあります。

獣医学上で用いられる代表的なハーブ

▼体質改善  

身体機能を強化し、毒素や老廃物の排出を高めて体質を改善するハーブです。皮膚や被毛の疾患、リウマチ、がんなどに効果があります。

ハーブ名(学名);アルファルファMedicago sativa
適応症状:関節炎、血液障害

ハーブ名(学名);バードックArctium lappa
適応症状:脂漏症、膿皮症、リウマチ

ハーブ名(学名):レッドクローバーTrifolium pratense
適応症状:関節炎、皮膚炎、その他の炎症

ハーブ名(学名):ゴツコーラCentella asiatica
適応症状:皮膚炎

▼収れん  

皮膚や粘膜の炎症を鎮め、泌尿器や子宮の平滑筋を強化します。結膜炎、皮膚炎、下痢、過敏性腸炎、腹痛などの治療に効果があります。

ハーブ名(学名):ラズベリーリーフRubus ideaeus
適応症状: 結膜炎、皮膚炎、下痢

ハーブ名(学名):ネトルUrtica spp.
適応症状: 結膜炎、皮膚炎

ハーブ名(学名):オオバコPlantago major
適応症状: 皮膚炎、胃腸や泌尿器の炎症

ハーブ名(学名):スリッパリーエルムUlmus fulva
適応症状: 胃腸や泌尿器の炎症

▼抗炎症  

皮膚や粘膜、関節などの炎症を緩和し、炎症に伴う痛みを鎮めます。リコリスには胃潰瘍や胃炎の症状を和らげる効果もあります。

ハーブ名(学名):リコリスGlycyrrhiza glabra
適応症状: 関節炎、皮膚炎、その他の炎症

ハーブ名(学名):オレゴングレープMahonia aquifolium
適応症状: 目、口、その他の炎症

ハーブ名(学名):デビルズクロウHarpagophytum procumbens)※
適応症状: 関節炎、その他一般の炎症
※デビルズクロウは妊娠中の動物への使用は避けてください。

ハーブ名(学名):ユッカYucca schidigera
適応症状: 関節炎

▼抗菌  

細菌の増殖を抑え、各種の感染症の予防・改善に役立ちます。

ハーブ名(学名):エキナセアEchinacea spp.
適応症状: のどや泌尿器の感染症

ハーブ名(学名):オレゴングレープMahonia aquifolium
適応症状: 目、鼻、耳、のど、消化器、泌尿器の感染症

ハーブ名(学名):セージSalvia officinalis
適応症状: 皮膚や口の感染症、歯肉炎

ハーブ名(学名):マシュマロウAlthea officinalis
適応症状: 泌尿器の軽い炎症

ハーブ名(学名):ヤロウAchillea millefolium
適応症状: 外傷、消化器、呼吸器、泌尿器の感染症

▼循環器強壮  

心臓と血管を強化して血圧を正常に保ち、血液循環を促します。ヤロウは傷の癒し、消化促進、リウマチの症状緩和などにも用いられます。

ハーブ名(学名):ホーソンCrataegus spp.
適応症状: 心機能の不調、血行不良

ハーブ名(学名):イチョウGinkgo biloba
適応症状: 脳内や四肢、腎臓の血行不良

ハーブ名(学名):カイエンヌCapsicum spp.
適応症状: 末梢や四肢、関節の血行不良

ハーブ名(学名):ヤロウAchillea millefolium
適応症状: 四肢の血行不良、血管の弱化

▼腸内のガス排出  

消化機能を高めて腸内のガスや消化不良による症状を緩和し、消化管のけいれんを抑えてお腹の痛みを鎮めます。

ハーブ名(学名):フェンネルFoeniculum vulgare
適応症状: 消化不良、膨満感、疝痛

ハーブ名(学名):ディルAnethum graveolens
適応症状: 消化不良、膨満感、疝痛

ハーブ名(学名):ペパーミントMentha piperita
適応症状: 消化不良、膨満感、疝痛

ハーブ名(学名):カモミールMatricaria recutita
適応症状: 消化不良、膨満感、疝痛

▼保護  

消化器や泌尿器の働きを助けて老廃物のスムースな排出を促し、炎症によるダメージから粘膜を保護します。

ハーブ名(学名):マシュマロウAlthea officinalis
適応症状: 呼吸器、消化器、泌尿器の炎症

ハーブ名(学名):オオバコPlantago major
適応症状: 呼吸器、消化器、泌尿器の炎症

ハーブ名(学名):スリッパリーエルムUlmus fulva
適応症状: 呼吸器、消化器、泌尿器の炎症

ハーブ名(学名):イチョウGinkgo biloba
適応症状: 泌尿器の炎症

▼利尿  

尿の出をよくして老廃物の排出を促し、腎臓疾患やむくみを予防・改善します。

ハーブ名(学名):ダンディライオンの葉Taraxacum officinale
適応症状: むくみ

ハーブ名(学名):コーンシルクZea mays
適応症状: 結石

ハーブ名(学名):シェパーズパースCapsella bursa-pastoris)※
適応症状: むくみ(特にリウマチによるもの)
※シェパーズパースは日本では春の七草の1つ「ナズナ」として知られるアブラナ科の植物です。

まずはいつもの食餌にハーブをプラス

犬・猫へのハーブの使い方には、内用(内服)、外用の両方があります。初心者はまず、普段の食餌にドライハーブを混ぜたり、ハーブティーを水分として与えたりする方法が簡単でおすすめです。食餌で基本的な栄養がしっかり摂れていることが前提なので、日頃の食餌の内容を見直してからハーバルケアを始めるようにしてください。

ハーブは作用が穏やかで医薬品よりも格段に体への負担が少ないですが、使い方によっては必ずしも安全というわけではありません。人間よりも体の小さな動物に与えるならばなおさらです。使用するハーブについては、効能だけでなく、副作用や禁忌事項についても知っておくようにしましょう。

(#3安全なハーバルケアのためにを参照https://www.medicalherb.or.jp/wp-admin/post.php?post=200196&action=edit

内服で与える時は、「最初は控えめに」が原則です。犬や猫の体重に合わせて、人に用いる量の1/5くらいから始め、使用量を増やす場合は、初めの量の10%から段階的に増量し、最高でも50%増しを限度にします。

ほとんどの場合、1日に2~3回の投与が必要です。これを1週間のうち5日行い、2日は休みます。休止期間を入れることによりハーブに対する反応を見ることができ、長期使用による耐性(体の慣れ)や毒性も緩和することができます。ハーバルケアを始めたら、使用したハーブの量やペットの様子を記した観察記録を残しておくようにしましょう。

1週間続けて効果がない場合は、別のハーブに変えるか、ハーブセラピーを取り入れている獣医さんに相談してください。

イラスト = SANDER STUDIO

株式会社ノラ・コーポレーション代表取締役
金田俊介 かなだしゅんすけ
当協会監事。博士(医学)、薬剤師。順天堂大学大学院修了。米国立補完代替医療センター(NCCAM)の代替医療研究所(自己免疫疾患および炎症性疾患部門、サウスカロライナ大学医学部)研究員を経て株式会社ノラ・コーポレーション入社、現在に至る。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第57号 2021年9月