織物製品に色をそえる植物
八重山の伝統工芸品といえば木綿のミンサー織りや苧麻(カラムシ)を使った八重山上布、イトバショウで織った芭蕉布などがあります。今回はそんな織物製品に色をそえる植物を巡ってみましょう。
南の島の植物 #工芸
竹富町を中心に作られていたミンサー織りは、現在では石垣島でも織られています。素材には、藍染の木綿糸が用いられ、かつては紺一色でした。絣模様は手括りで作られ、紺と白の鮮やかな対比が特徴的です。現在は色も豊富で、芭蕉や苧麻、絹など様々な糸が使われたものもあります。
★各写真の下のカラーチャートが染色見本です。
染色素材
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●リュウキュウアイ(琉球藍)
染めの代表的な植物はリュウキュウアイ。夏から秋に枝の先に淡い紅紫色の花をつけ、葉に青色の色素のインディゴを含みます。
九州南部からインドシナ半島にまで自生するキツネノマゴ科の植物で、沖縄では青色の泥を作り染色に使います。生の葉を数日間水に浸し発酵させ強くかき混ぜると、色素が沈殿して泥状になるのでこれを集めて使います。やや赤味のある深い藍色が特徴です。また、この葉を十分ほど煮て、そこに布を入れると、綺麗なふじ色も染めることができます。
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●フクギ(福木)
沖縄からフィリピンにかけて見られる高木です。成長は大変遅いですがとても頑丈な樹で、台風の多い沖縄では防風林・防潮林として植栽されています。マンゴスチンと同じ属に当たるためマンゴスチンとの接ぎ木の試験なども行われています。
フクギの樹皮や割いた木片を煮詰めて作られた染料を使います。染料として煮出されたフクギは淡い黄色をしています。媒染剤を使い分けるとオレンジや芥子色にもなります。また、福木で染めた黄色を藍でさらに染めることにより緑色の糸も可能になります。
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●ソメモノイモ(紅露=クール)
ソメモノイモは石垣島からインドネシアに分布するヤマイモ科の植物で、10m近い蔓を伸ばし地中に暗赤色の60㎝以上もある大きな塊根をつくります。
割ってみると中は真っ赤な塊根で、これを大根おろしのようなシリシリという器具で細長くおろし、乾燥させて煮出して染色します。赤みの強い褐色系の色が出せます。八重山上布に多く利用します。
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●ガジュマル(榕樹)
種子島以南、熱帯から亜熱帯にかけて広く分布するクワ科の高木です。沖縄ではキジムナーという妖精が棲む樹として知られ、各地に大木が残っています。枝や幹からは大小の気根を出し一本でも鬱蒼とした森を感じさせます。
地面に着くとやがて太い支持根になりますが、染色には葉や細い気根を煮出して利用します。気根はオレンジピンクから淡い紫色に、葉や枝はピンクから濃褐色に染まります。
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●サトウキビ(砂糖黍、甘蔗)
黒糖や砂糖の原料であるサトウキビは沖縄県では年間70万トン以上が生産されていました。
搾った後の茎や葉はバガスとして肥料などに利用されていましたが、近年沖縄本島の「むらおこし事業」でウージ染めとして開発されました。染色には、葉と穂の部分を細かく切り、煮出して染液を作ります。つける時間で若草色や萌葱色などの グリーン系から黄金色などの落ち着いたイエロー系まで実に様々な色に変化します。また、葉を刈り取る季節によっても変化し、夏の時期には黄色が強くなり冬には渋みがかった色に染まります。
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●クワディーサー(モモタマナ)
太平洋諸島に広く分布する樹木です。横に水平に枝を伸ばした広い葉をもつこの木は、日陰をつくるのに最適で公園や街路樹として利用されています。
30㎝近い大きな葉を染色に使いますが、幹や枝でも異なった色が楽しめます。色は黄土色~鉄色系まで多岐にわたります。モモタマナの葉は水質改善機能が高く熱帯魚などの水槽の水質改善にドクターリーフとしても利用されます。
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●ゲッキツ(月橘)
奄美大島から東南アジアにかけて分布するミカン科の小高木です。石垣島では隆起珊瑚礁の海岸に多く見られます。ミカンに似た白い花は柑橘系の甘酸っぱい香りがよく、内地ではシルクジャスミンとも呼ばれ観葉植物として流通しています。同属のカレーリーフ(オオバゲッキツ)は、葉にスパイシーな香りがあり、インドやスリランカではカレーなどの料理の香りつけに用いられます。
ゲッキツの枝と葉で染めると若草色に染まります。緑色に染まる植物は少ないようです。
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●ヤエヤマキアイ(ナンバンコマツナギ・インド藍)
インド・東南アジアを中心とする熱帯・亜熱帯原産のマメ科の植物。
布を藍色に染めるインディゴ染料が得られる植物の一つで、インディゴが化学合成されるまでは主要な染料植物でした。木から採取できる藍で(木藍)と呼ばれます。染めは藍の葉を発酵させ泥藍を作ります。
インディゴは水に溶けない性質をもっているため、灰汁と混ぜることによって水に溶解させ、繊維に浸染した後に、空気に触れさせると酸化し藍色に染まります。
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●ゲットウ(月桃・サンニン)
九州南部から亜熱帯アジア・熱帯に分布するショウガ科の植物。抗菌効果が高く古くから薬草として使われていました。現在でも餅を葉で包んで蒸す料理などに使われます。近年では優れた防虫効果を利用して畳材としても利用されています。
月桃の葉で染色した布は抗菌・防虫・消臭効果のある淡いピンク色から黄土色に染まります。
私事になりますが今まで描きためた野生ランの絵の個展を行います。
企画展「石垣島から花便り −野生ランと橋爪雅彦−」
[場所]練馬区立牧野記念庭園記念館
[期日]2022年1月15日〜3月27日(休館日:火曜日)
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東京大学名誉教授故前川文夫著『原色日本のラン』の続刊として描いたものですが、出版社の事情と執筆者が他界されたため発刊しておりません。関係者の間では日本のランの幻の植物画といわれています。主に小笠原・南西諸島の野生ランを描いたものですが、すでに絶滅した「ツシマラン」もあり、このようなご時世ではありますが、機会がありましたらぜひご鑑賞ください。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第57号 2021年9月