2022.1.1

植物たちが秘める“健康力”#07 「お医者さんを遠ざける」といわれる野菜や果物

甲南大学特別客員教授

田中修

今年7月、厚生労働省により、「日本人の女性の平均寿命は87.74歳で世界一、男性は過去最高の81.64歳」と発表され、平均寿命の延びが話題になりました。近年は、平均寿命とともに、健康寿命が大切と認識されています。そこで、今回は、お医者さんを遠ざけて、私たちの健康を守ってくれる野菜や果物を紹介します。

「赤くなると、お医者さんが青くなる」といわれる野菜と果物

「果実がよく熟すると健康を促すので、患者さんの数が減り、お医者さんの顔色が青くなる」といわれる野菜と果物があります。トマトとカキです。

赤いトマトが健康を促す理由は、主に、二つの健康によい赤い物質が多く含まれるからです。「カロテン」と「リコペン」とよばれる色素です。これらの色素は、「抗酸化物質」であり、老化やガン、白内障の原因になる有害な活性酸素を消去する作用をもちます。

「トマトのある家には、胃病なし」といわれます。また、トマトは、フランスやイギリスでは「愛のリンゴ」、イタリアでは「黄金のリンゴ」、ドイツでは「天国のリンゴ」とよばれます。ヨーロッパには、健康によく価値が高い果実を“リンゴ”とよぶ習慣があるのです。

日本では、カキが「赤くなると、お医者さんが青くなる」といわれる果実です。カキは、抗酸化物質であるビタミンCを多く含みます。その含有量は、意外にも、「ビタミンCの王様」とよばれるイチゴや、「ビタミンCの女王様」といわれるレモンに匹敵します。

カキの黄色は、抗酸化物質であるカロテンとβ-クリプトキサンチンによるものです。また、渋みの成分であるタンニンも抗酸化力をもち、糖尿病の予防効果が期待されています。

その他、昔から、カキは「二日酔いに効果がある」といわれます。その一つの理由は、カリウムの含有量が多いためです。カリウムが多いと、利尿効果があります。多く排尿することで、体内からアルコール分をなくし、二日酔いの解消に効果があるのです。

「一日一個で、医者いらず」といわれる果物と野菜

英語のことわざに、「An apple a day keeps the doctor away.」というのがあります。日本語では、「一日一個のリンゴは、医者を遠ざける」と訳されます。「一日に一個のリンゴを食べていれば、お医者さんの世話になることはない」という意味です。

リンゴには、抗酸化物質であるポリフェノールが多く含まれるので、老化や生活習慣病の原因となる活性酸素を消去します。また、「多く含まれるカリウムが余分な塩分の排出を促し、血圧を下げる効果がある」といわれます。

果皮の近くにある食物繊維であるペクチンには、腸の調子をよくし、便秘を予防する効果があります。リンゴは、「よく洗ったあと、皮を剥かずに、皮ごと食べたほうがよい」といわれます。この理由は、ペクチンが果皮の近くに多くあるためです。果肉には、「リンゴ酸」という物質が豊富に含まれます。これには、疲労回復効果のあることが知られています。

「一日一個で、医者を遠ざける」といわれる野菜は、タマネギです。これには、ポリフェノールの一種であるクエルセチンが、ミネラルやビタミンなどとともに含まれています。

「健康を守ってくれる」という“ありがたみ”を感じてではありませんが、この野菜を切り刻んでいると涙が出てきます。涙を出させる効果をもつ催涙成分が放出されるからです。催涙成分は、涙を出させるだけでなく、タマネギの辛味を感じさせる物質です。

タマネギは、「切り刻んで、枕もとに置いておくと、早く眠りにつける」といわれることがあります。しかし、その効果については、個人差があり、真偽は定かではありません。

「貧者の医者」といわれる野菜

1990年、アメリカの国立ガン研究所を中心に、植物がつくり出す成分によるガンを予防する研究が開始されました。その折、約40種類の野菜を中心とした食材を、ガン予防に効果が期待できる順に、ピラミッド型に並べた「デザイナーフーズ・ピラミッド」が提示されました。その頂点はニンニクでしたが、そのすぐ下の群に、キャベツが位置しました。

キャベツは、ヨーロッパでは、「貧者の医者」といわれます。価格が比較的安く、ビタミンCやビタミンKなどを豊富に含み健康によいからです。特に、この葉から発見された「キャベジン」という物質には、抗潰瘍効果があります。日本では、「キャベジン」という名前は商品名になっていますが、本来は、物質の名前です。

キャベジンは、ビタミンUとよばれることもあります。この「U」は、英語で「潰瘍」を意味する「アルサー(Ulcer)」の頭文字が使われています。この物質は、発見された当時、動物が成長し、命を保つために不可欠な物質で、ビタミンと考えられていました。しかし、その後、キャベジンは、健康に貢献するが、動物が成長し命を保つのに不可欠なものではないとされ、ビタミンとよばれなくなりました。

甲南大学特別客員教授
田中修 たなかおさむ
京都大学農学部卒、同大学院博士課程修了(農学博士)。米国スミソニアン研究所博士研究員などを経て、現職。近著に、令和の四季の花々を楽しむ『日本の花を愛おしむ』(中央公論新社)、食材植物の話題を解説した『植物はおいしい』(ちくま新書)、草・木・花のしたたかな生存戦略 を紹介した『植物はなぜ毒があるのか』(幻冬舎新書)など。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第58号 2021年12月