ヒノキ葉抽出物の抗炎症作用のメカニズム
ヒノキ(ヒノキ科ヒノキ属 檜 Chamaecyparis obtusa)は日本の森に多く見られ、その木材はヒノキの家やヒノキ風呂など大いに活用されている。また暮らしの中では、魚や果物などを葉の上に載せて抗菌作用を活かし、食材の品質保持にも使われている。
今回紹介する研究は、ヒノキの枝葉が東アジアの民間療法で使用されており、炎症性疾患の症状を緩和することが報告されていることから、培養細胞を用いてその作用メカニズムを探るという目的のものである。
方法は以下の通りである。
- ヒノキ葉抽出物を付加した場合の細胞生存率については、MTTとクリスタルバイオレット染色法によって検討した。
- グリス試薬を用いて、RAW264.7細胞の培養上清中のNO産生を測定した。
- 培養細胞系での上清の溶解物をイムノブロッティングおよびRT-qPCRによって分析した。
- 分泌されたサイトカインは、ELISAキットとサイトカインアレイキットを使用して分析された。
- mRNA発現については、GSE9632データベースセットを元に検討,視覚化された。
結果として以下を得た。
- さまざまな抽出方法で得られたヒノキ葉の抽出物のうち、99%エタノール葉抽出物は,リポ多糖(LPS)誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)およびシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の発現を強く阻害した。
- ヒノキ葉99%エタノール抽出物は、LPS誘導性IL-1β,IL-6,IL-27,およびCCL-1 (CCモチーフケモカインリガンド)の産生を強力に阻害した。
- ヒノキ葉99%エタノール抽出物は、RAW264.7細胞におけるLPS誘導性JAK / STATリン酸化を直接阻害した。
これらの結果は、ヒノキ葉99%エタノール抽出物が JAK / STAT の系を阻害することにより、LPS誘発性のマクロファージ活性化を有意に阻害することが示唆された。ヒノキ葉 99% エタノール抽出物は抗炎症作用を持ち、炎症性の症状改善に対するアプローチの一つとしての可能性を示した。
参考
LPS(Lipopolysaccharide リポ多糖):
主としてグラム陰性菌の外膜に存在する多糖のこと。病原因子として知られ、体内に侵入したグラム陰性菌の死滅や破壊により、遊離したリポ多糖のリピッドA部分が免疫反応を過剰に亢進し、連続的あるいは同時多発的に重要臓器の機能不全を引き起すことから、内毒素(エンドトキシン)とも言う。
RAW264.7細胞:
マウスマクロファージ様細胞。一酸化窒素によりアポトーシスが誘導される。
JAK-STAT(ジャック-スタット)シグナル伝達経路:
細胞外からの化学シグナルを、細胞核に伝え、DNAの 転写と発現を起こす情報伝達系。 免疫,増殖, 分化,アポトーシス、発癌などに関与する。 JAK-STATシグナルカスケードは,細胞表面の受容体、 Janus kinase (JAK)、2つの信号トランスデューサおよび転写活性化(STAT)タンパク質といった主に3つの構成要素からなる。JAK-STAT機能が制御できないと、自己免疫疾患, 免疫不全症候群や悪性腫瘍などを引き起こされることがある。
〔文献〕
Kwon YJ, Chamaecyparis obtusa (Siebold & Zucc.) Endl. leaf extracts prevent inflammatory responses via inhibition of the JAK/STAT axis in RAW264.7 cells. J Ethnopharmacol. 2022 Jan 10;282:114493.
〔関連文献〕
Raha S, et.al., Essential oil from Korean Chamaecyparis obtusa leaf ameliorates respiratory activity in Sprague-Dawley rats and exhibits protection from NF-kappaB-induced inflammation in WI38 fibroblast cells. Int J Mol Med. 2019 Jan;43(1):393-403.
(12/28/2021 報告:村上志緒 学術委員)