シナモン樹皮とブドウの搾りかすによるメタボリックシンドロームの症状改善と腸内環境
ポリフェノールがメタボリックシンドロームに関連する危険因子の予防と治療に大きな可能性を秘めていることを示唆するエビデンスが増えている。
シナモン(クスノキ科Cinnamomum verum)やブドウ(ブドウ科Vitis vinifera)がポリフェノールを含むことはよく知られており、肥満,糖尿病,高脂肪といったメタボリックシンドロームの症状改善や予防に大きく期待されている。
今回の研究では、高脂肪食摂取による肥満、糖尿病、脂肪肝に対して、シナモン樹皮とブドウの搾りかすがどのように影響を与えるかを評価したものである。そしてさらに、これらの有効性が、腸内細菌叢とどのように関連があり,そのメカニズムに触れた点が重要なポイントである。
C57BL / 6Jマウスを対象に。8週間高脂肪食(HFD)を与えて,高脂肪食マウスとし,対照群シナモン樹皮からのポリフェノール含有抽出物を摂取する群(シナモン群)、ブドウ搾りかすからのポリフェノール抽出物を摂取する群(ブドウ群)の3つのグループに分けた。そして、これらの群での、肥満、糖尿病、脂肪肝に関与する物質の代謝がどのように変化するのかを検討、さらにこれらの群での腸内細菌叢がどのように変化するかといった影響をみた。
その結果,以下のことが確認された。
- シナモン及びブドウはどちらも、食物摂取量を減らすことなく、高脂肪食マウスの脂肪量の増加と脂肪組織の炎症を減少させた。
- シナモン、ブドウの摂取により、耐糖能の向上とインスリン抵抗性指数の低下により、ブドウ糖ホメオスタシスに対する有益な効果も観察された。
- シナモンよりもブドウの方が腸内細菌叢の組成に大きな影響を与えた。
- ペプトコッカスはシナモン群で減少した。
- ブドウ群では、高脂肪食の摂取による状態の改善、代謝への効果、および腸管バリアの完全性と関連していることが判明している腸内細菌叢のいくつかの主要な属が影響を受け、アロバキュラムとローズブリアが増加したのに対して,デスルホビブリオ,ラクトコッカスは減少した。
- いくつかの抗菌ペプチドとタイトジャンクションタンパク質の発現は、シナモン樹皮、ブドウの絞りかすの摂取により増加し、腸のバリア機能の改善を示した。
これらの結果より、シナモン樹皮とブドウの絞りかすからのポリフェノール抽出物が腸内細菌叢に影響を与え、腸のバリア機能の改善により,高脂肪食を摂取したマウスの代謝を全体的に改善できることが示唆された。
抗菌ペプチドとは、菌を菌の細胞膜を直接攻撃することで殺菌作用を発揮するもので、ヒトでは,皮膚や口腔、消化器、泌尿器など、外部と接触するあらゆる部位で産生され、菌の増殖を抑制することで腸内細菌叢を正常に整え,生体と菌との共生関係にも大きく関係している。
タイトジャンクションとは腸管などの上皮細胞に局在し、上皮細胞同士を機械的に繋ぐことでバリアを形成し、腸内細菌や病原菌、毒素といった外来異物の侵入を防いだり調整したりすることに重要な役割を担っている。
これらがシナモン、ブドウの搾りかすで影響を受けることは興味深く、さらなるメカニズムの解明を期待したい。
〔文献〕
Van Hul M et.al., Reduced obesity, diabetes, and steatosis upon cinnamon and grape pomace are associated with changes in gut microbiota and markers of gut barrier. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2018 Apr 1;314(4):E334-E352.
(1/31/2022 報告:村上志緒 学術委員)