2022.5.15

菊花

昭和薬科大学 薬用植物園 薬用植物資源研究室 研究員

佐竹元吉

リュウノウギク ①

身の回りの野生のキクには、リュウノウギク(写真①)が代表される。リュウノウギクは、生薬の竜脳のボルネオールの香りに類似していることから名前が付けられた。野生のキクは地域特異な種が多い。以前調査訪問した北海道から九州の太平洋側の野生地における種は、コハマギク、ハマギク、イソギク(写真②)、シオギク、キノクニイソギク、ノジギク、アシズリノジギク、サツマギク等がある。関西以西の内陸には、シマカンギク(写真③)がある。

イソギク ②

薬用のキクは、栽培されている菊とシマカンギクで、2021年6月に第18改正日本薬局方にキクカが収載されている。

シマカンギク ③

キクカは、キク/Chrysanthemum morifolium Ramatuelle)

又はシマカンギク/Chrysanthemum indicum Linnéの頭花であるとされている。

1. キク Chrysanthemum morifolium Ramatuelle

キクは、3,000年前から薬として使用されてきた。日本には平安時代に遣唐使によって持ち込まれたとされている。中国からもたらされたキクは、江戸時代に園芸品種として改良され、江戸菊、佐賀菊、肥後菊等が知られている。明治11年、宮中の観菊会が開催され、その後、全国に栽培が普及した。この観菊会は、戦争の中断を経て新宿御苑に受け継がれ、現在でも毎年11月上旬に展示されている。

キクは、多年生草本で、栽培品種には大菊、中菊、小菊の別がある。茎はやや木質で、高さは1m前後、葉は柄があり、互生する。卵形で羽裂し、裂片は欠刻及び鋸歯がある、葉の基部は心形を呈する。茎の上部に頭花を付ける。頭花の周辺小花は舌状花で、いろいろな色がある。中心小花は黄色の管状花である。多種の園芸品種が存在する。

菊花(キク) ④

生薬のキクに由来する頭花(写真④)は、径15~40㎜で、総ほうは3~4列の総ほう片からなり、総ほうにはしばしば柄を伴う。総ほう外片は線形~ひ針形、内片は狭卵形~卵形を呈する。舌状花は多数で、類白色~黄色、管状花は少数で淡黄褐色を呈し、ときに退化して欠くことがある。総ほうの外面は緑褐色~褐色を呈する。産地は中国の安徽、浙江、河南、湖南省などである。

2. シマカンギクChrysanthemum indicum Linné

多年生草本で、茎は高さ30~60㎝、細長い。通常紫黒色を帯びる。葉は深い緑色で、互生し、葉柄がある。円卵形で、通常五羽裂し、裂片には鋸歯がある。黄色の頭状花を散房状。頭花の周辺は一列の舌状花を有し、中心には多数の管状花がある。花径は2㎝である。関西以西に野生する。

複合花序は緩い頂生の頭部が平らな集散花序。頭花は多数又は少数。総苞片は5列、縁が広く薄膜質、白色又は褐色、先は鈍形又は円形、外総苞片は卵形又は卵状三角形、長さ2.5~3㎜。中間の総苞片は卵形、長さ6~8㎜。内総苞片は楕円形、長さ約1.1㎝。周辺小花の花弁は黄色、長さ1~1.3㎝、先は全縁又は3歯。痩果は長さ1.5~1.8㎝。本州(近畿地方以南)、九州、朝鮮、中国、台湾、ロシア、インド、ブータンに分布する。

野菊花(シマカンギク) ⑤

生薬のシマカンギク(写真⑤)は径3~10㎜の花頭で、総ほうは3~5列の総ほう片からなり、総ほうにはしばしば柄を伴う。総ほう外片は線形~ひ針形、内片は狭卵形~卵形を呈する。舌状花は一輪で、黄色~淡黄褐色、管状花は多数で淡黄褐色を呈する。総ほうの外面は黄褐色~褐色を呈する。シマカンギクの頭花は中国では野菊花として取り扱われている。

菊花の薬効は、解熱・鎮痛・鎮静・明目作用があり、眼疾患・精神疾患を改善する薬方に配合される。釣藤散ちょうとうさんは、菊花・釣藤鈎の組み合わせにより、高血圧症やイライラしやすい人の頭痛・頭重感を改善する。清上蠲痛湯せいじょうけんつうとうは、菊花・川芎・白芷・羌活・独活・防風の組み合わせにより、目からの頭痛に用いられる。

おわりに

キクの原産地は中国で3,000年余の歴史があり、日本には中国で改良されたものが奈良時代中期に遣唐使などによってもたらされたと言われている。 
 
北村四郎氏によると、中国のチョウセンノジギク/Chrysanthemum naktongense Nakai(n=18)と中国の南方のハイシマカンギク(n=9)Chrysanthemum indicum var. procumbens (Lour.) Nakai が交雑し、2n=27ができ、その倍数体2n=54となって現代の菊の原形ができたと述べている。当学内薬草園のコウキクカ(写真⑥)は、筑波の薬草園の北沢さんから送られた植物。

コウキクカ ⑥

国内の薬草園で見かけるハイシマカンギク(写真⑦)は、中国原産で、木村康一博士が上海から日本には導入されたものであろう。

ハイシマカンギク ⑦


【写真提供】

①②③:元昭和大学 薬学部 磯田 進氏
④⑤:株式会社栃本天海堂 松島 成介氏
⑥⑦:昭和薬科大学 薬用植物園 中野 美央氏

昭和薬科大学 薬用植物園 薬用植物資源研究室 研究員
佐竹元吉 さたけもとよし
当協会顧問。沖縄美ら島財団研究顧問。1964年東京薬科大学卒業。国立医薬品食品衛生研究所生薬部部長、お茶の水女子大学生活環境研究センター教授、富山大学和漢医薬学総合研究所・お茶の水女子大学客員教授を歴任。著書『第17改正 日本薬局方生薬等の解説書』(共著・廣川書店)他。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第59号 2022年3月