ヨモギ Japanese mugwort
滋養に富み、幅広い効能をもつ日本の“ハーブの女王”
- 【学名】 Artemisia indica var. maximowiczii (Nakai) H.Hara
- 【科名】 キク科
- 【使用部位】 茎葉
- 【主要成分】 タンニン(ジカフェオイルキナ酸、クロロゲン酸)、精油(1.8-シネオール、ツヨン)、ビタミン、ミネラル、クロロフィル
- 【作用】 収れん、止血、鎮痛、抗菌、血行促進
- 【適応】 出血症状、月経過多、月経痛、月経不順、冷え、下痢、腹痛、腰痛、神経痛、かぜ、湿疹、にきび、水虫
ヨモギ(蓬)のなかまはキク科ヨモギ属の多年草で、北海道から沖縄まで日本全域に生育します。旺盛な繁殖力で日当たりのよい草地や道端などに自生し、古くから親しまれてきた日本を代表するハーブの1つです。
1.8-シネオール、ツヨンなどの揮発性成分を含み、さわやかな香りを放ち、邪気を払う禊の植物として用いられてきました。食材としても重用され、春先に芽吹いた若葉を摘んでゆで上げ、もち米と合わせた草餅や草団子は、現代の日本人にもなじみ深い食べ物です。
薬用としては、抗菌、消炎、鎮痛、収れん、止血、血行促進、免疫増強などの作用があり、ビタミンやミネラルも豊富で滋養にも優れています。漢方では葉の部分を陰干しした生薬を「艾葉」と呼び、煎じて健胃や下痢止めに服用する他、浴剤として冷え性や腰痛、神経痛、湿疹などに用います。外用では、ヨモギの葉をもんで傷口に当てて止血したり、虫刺されやかゆみ止めなどに使ったりします。幅広い効能をもつヨモギは、まさに“日本のハーブの女王”。婦人科系のトラブルにも強く、女性がもっと活用したいハーブです。
ヨモギを巡る豆知識
ヨモギは、“食べてよし、飲んでよし、香ってよし、焚いてよし”といわれるように、生活の中で様々に活用されています。そんなヨモギを巡る豆知識をご紹介。
ヨモギ摘み
ヨモギ摘みのシーズンは3~5月ですが、有毒植物のトリカブトと似ているので、間違えないように注意が必要です。見分けるポイントは、ヨモギは葉の裏が白く、茎と葉の裏に細かい毛が生えていて、光沢がなく、特有の香りがあること。
対するトリカブトは、葉がツヤツヤとして、香りはありません。トリカブトを素手で触るのは危険なので、手袋を用意し、あらかじめポイントをしっかり頭に入れて出かけましょう。
ヨモギ蒸し
韓国で600年ほども前から行われているヨモギ蒸しは、裸にガウンをまとって専用の椅子に座り、煮立たせたヨモギの蒸気を浴びる民間療法です。皮膚とデリケートゾーンの粘膜からヨモギの成分が効率的に吸収されることで、血行促進、発汗、リラックス効果をもたらし、冷え、肩こり、腰痛、肌荒れ、婦人科系の疾患、不妊など様々な悩みの改善が期待できるといわれています。
ATTENTION!
キク科植物にアレルギーのある方は使用に注意してください。
お灸のもぐさ
お灸に使うもぐさ(艾)は、ヨモギの葉を乾燥させ、細かく砕いて、葉の裏の白い線毛だけを取り出してまとめたもの。ヨモギに含まれる精油成分のため火つきがよく、熱さが少なく火持ちもよいのでお灸に最適といわれます。材料となる葉は、線毛が最も多い梅雨明けの頃に集められます。生ヨモギ1kgから取れるもぐさは、わずか5gほどで、たいへん貴重なものなのです。
芸術家をとりこにしたヨモギのお酒「アブサン」
ヨモギは日本にも多くの種があり、世界各地にキダチヨモギやオウシュウヨモギ(他にミブヨモギ、チョウセンヨモギ)などたくさんの種類のヨモギがあります。ヨーロッパで見られるニガヨモギ(学名:Artemisia absinthium L.)もその1つで、ニガヨモギの入ったリキュールは「アブサン」という名で知られています。
アブサンは美しい薄緑色をした香り高いお酒で、アルコール度数が平均70%と高く、19~20世紀にかけて主にフランスで人気を呼びました。ゴッホ、ゴーギャン、モネ、ロートレック、ピカソなどの芸術家たちもアブサンの魅力にはまり、彼らの創作活動にも影響を与えたといわれます。しかし、ニガヨモギに含まれる精油成分のツヨンは中枢神経に作用することから、連用すると幻覚や錯乱が生じ、身を持ち崩す人も出るようになりました。そのため一種の危険ドラッグと見なされ、1915年頃になるとヨーロッパの主要国では製造・販売が禁止されることになったのです。
時を経て1981年、WHO(世界保健機関)はツヨンの残存許容量が0.5µg/gであれば承認するとし、アブサンの製造が復活しました。現在日本で流通しているものは、フランスやスイスからの輸入品で、ツヨンの残存量もアルコール度数も低く改良されたものが主となっています。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第59号 2022年3月