ガーデニングデザイン: 自然とつながるガーデンデザイン
少しずつ暖かい日も多くなり、ガーデニングを楽しむ大切な準備期間に入りました。
今回は、化学物質を使わず、雑草とも共存するガーデンデザインを紹介します。
Question
- 農園を借りて畑を始めることになりました。どこに何を植えたらよいですか?
- 化学農薬や化学肥料を使いたくないのですが、どうすればよいですか?
- 環境問題に興味がありますが、栽培で環境に貢献するにはどうしたらよいでしょうか?
- 草取りや水やりが大変なのですが、何かよい方法はないでしょうか?
モノカルチャーをやめて混植しよう
モノカルチャーとは
モノカルチャー(monoculture)は日本語では単一栽培や単作などと訳されます。同じ植物をまとめて植えつける栽培のことで、このモノカルチャーによって人類は効率よく農業を行ってきました。
特に植民地では、チャやコーヒー、カカオ、サトウキビ、綿花などがプランテーションで大規模にモノカルチャー生産されるようになり、先進国のための原料生産工場と化して自給自足農業を奪う結果が今も続いています。
モノカルチャーによる問題とその反省
縄文時代の狩猟採集から弥生時代のモノカルチャーによる定住型農業に移って以降に生じた問題が、草との闘い、虫との闘いです。これの問題に終止符を打つべく登場したのが化学農薬で、戦後、急激に普及し、農業は飛躍的に発展しました。
ところが、1960年代に、綿花栽培でダニに薬剤抵抗性がつき、ダニ剤が効かなくなるという現象が起こりました。これを重視した国連は1966年に予防的防除を行わず、化学物質を極力用いない「IPM(Integrated Pest Management;総合的病害虫管理)」を打ち出しました。
その後、1980年に「Sustainable Agriculture(サステイナブルアグリカルチャー、持続型農業)」という言葉が紹介されて以降、特に開発途上国でのプランテーションによるモノカルチャーをやめて、農業と森林とを組み合わせたアグロフォレストリー(agroforestry)や、森林と畜産を組み合わせたシルボパスチャー(silvopasture)などの生物多様性を重視した環境保全型農業への転換の提案、研究が盛んになります。
そんな中、農業昆虫学者の桐谷圭治氏が「害虫も益虫もただの虫も同じ虫である」とし、、「管理すべきは病害虫ではなく、生物多様性である」として2000年に「IBM(Integrated Biodiversity Management ; 総合的生物多様性管理)」という考えを提唱し病害虫との共存を訴えます。
食物連鎖などの生物同士のつながりの中で自然と病害虫も淘汰されます。生物多様性さえ維持管理しておけば、あとは生物たちが病害虫をも管理してくれるということになります。
モノカルチャーをやめて混植するのは生物多様性を維持するためです。自然とつながるガーデンでは人間も生態系の一員として生物多様性を管理することになります。
混植による病害虫との共存
現在、化学物質によって生じた環境問題や健康被害への反省から、植物と昆虫や菌類などとのつながりを利用した新しい手法が研究されている真っ最中です。その中で、家庭菜園でも取り入れられるのが作付け体系です。
作物を混在させる混作、列で交互に植える間作、周囲に植える周囲作、一作終わって違うものをローテーションする輪作といった混植による土地利用体系を作付け体系といいます。
家庭菜園でもこれらを利用して菜園の生物多様性を維持管理することで、病害虫との共存=with pestの第1歩になると考えています。
モノカルチャー的な植えつけ。左手前のキャベツはコナガとモンシロチョウの幼虫によって壊滅的な被害にあっている。
一方で、右奥のレタスは全く被害がない。キャベツを植えつける際にレタスやその他の植物と混植することで病害虫の蔓延を防ぐデザインが必要。
裸地をなくして密植しよう
裸地とは
裸地とは、植物の植わっていない地という意味で、地面(土)の見えているところを指します。ナスやバジルを植えたら、その足元は何も生えずに土が見えていませんか?そこが裸地です。
植物の植わっていない裸地では、沙漠同様、直射日光が当たって高温・乾燥状態になり、餌となる有機物の供給も少ないことから、土壌中に生物が棲みにくい環境になっています。
密植による土づくり
土壌にダンゴムシやヤスデ、ミミズ、菌類などの生物がいることで、有機物が分解されて植物の栄養がつくられ、土壌pHも弱酸性に保たれ、団粒構造がつくられて土がふかふかになり、自然に土づくりが行われます。
裸地をなくすには密植します。密植によって生物多様性が維持されるだけでなく、土壌水分の蒸発を防ぐことから、畑では灌水が不要になります。
ただし、プランターでは逆に、密植によって水不足になりがちですので注意が必要です。プランターでも土が乾きにくい工夫をしてできるだけ土が露出しない程度に密植しましょう。
コリアンダーやルッコラ、イタリアンパセリなどの一・二年草や、タイム、ペニーロイヤルミントなどの多年草など、背の低いハーブを活用するとよいでしょう。
共存する植物として、勝手に生える雑草を活用するのがおすすめです。カタバミやスベリヒユ、カラスノエンドウ、オオバコなどの食べられる雑草が生えたら、ぜひ抜かずに共存させましょう。
混植と密植のデザイン
モノカルチャーをやめるということは、まとめて植えないこと、すなわち細長い畝を作ったり、すじまきしたり、まとめ植えしないということになります(図1)。
まずは、区画をなるべく正方形にします。どこからも手が届くサイズとなると、基準は1㎡です。1㎡の正方形の中に、同じ種類のものを1つしか植えないということになります。
3個体まとめて植えてもかまいませんが、それは病害虫が発生した場合はクラスターとなりますので、3個体で1株とみなします。
正方形の中心には、背の高くなる木本や草本類、もしくはつる性植物をタワー仕立てにして配置します。その周りに、違う植物、できれば違う科の植物など、共通の病害虫をもたない植物をランダムに配置します(図2)。
うどん粉病にかかる植物は多いですが、モナルダにかかるうどん粉病菌はディルやキュウリにはかかりませんが、キュウリにかかるうどん粉病菌は同じウリ科のカボチャには感染します。多様な植物で区画を構成することがポイントです。
畝はできるだけ平畝とし、植栽面積を確保します(図3)。畝を作るというよりは通路を切る作業をします。通路は管理作業用の30㎝程度の幅の狭いものと、菜園内を通る幅の広い自然な自由曲線の通路を組み合わせるとよいでしょう(図4)。
プランターの場合も1つのプランターに土が見えなくなる程度に多様な植物を寄せ植えします。
図1. モノカルチャー的な植えつけ方。クラスターが発生して病害虫が蔓延しやすい。
図2. 混植・密植によるガーデンデザイン。右図のように1か所に数株植えつけた場合はそれらはクラスターとなるので、1株と同じ扱い。
図4. 基本的には1m四方のマスを作って植え付けるが、そこに自由曲線を使って自然な動線を作るのが理想。1m四方のマスとマスの間は作業通路で幅30cm程度の獣道。
自然とつながるということ
自然とつながる栽培というのは、化学物質を使わずに混植・密植することで、土壌の生物多様性を維持して土づくりを行い、地上の生物多様性を保全して病害虫管理を行うことです。
それによって生態系が保全され、環境が回復して生物多様性がさらに豊かになると共に、私たちの健康も増進してさらに自然とつながる栽培が進むというポジティブなスパイラルを生むと考えています。
自然とつながる栽培技術には図5に示すように他にもいろいろありますが、今回はその中で、混植と密植を取り入れたガーデンデザインを紹介しました。
図5.自然とつながる栽培の因果ループ図。このループでは生物多様性保全、生態系保全、省資材、省エネルギーにより、環境と健康に寄与し、よろこび、生きがいを得て栽培するポジティブループとなる。今回の「自然とつながるガーデンデザイン」では、「密植」と「混植」をデザインすることで、土壌中と地上の「生物多様性」を保全し、生物多様性を管理することで、生物たちが土づくりと病害虫管理を行う。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第59号 2022年3月