ガーデニングデザイン: 失敗しないタネまき
発芽に必要な条件をクリアしよう #17
梅雨どきはタネまき時でもあります。
今回は、失敗しないタネまきのための発芽にまつわる秘密を紹介します。
発芽で失敗しないコツは、発芽に必要な条件を知って、それをクリアすることです。
Question
- タネまきがいつも失敗してしまいます。失敗しないコツは何ですか?
- タネまき前にタネを水に浸してからまいたほうがよいのでしょうか?
- 好光性種子とはどういう種子ですか?
- タネの寿命はどれくらいですか?
発芽とは?
発芽とは種子から根が出る瞬間をいいます。芽を発すると書きますが最初に出るのは芽ではなく根ですので、本来は発根です。
発芽に対し、地表面から芽が出てくることを出芽といって区別します。出芽は発芽から1日程度遅れるはずです。
ただし、一般には地面から顔を出すことも含めて発芽と呼んでいます。
発芽:左から2番目の種子から根が現れた状態。
出芽:左から4番目の土壌表面に芽が現れた状態。
発芽の失敗は左から2番目の状態に至らないトラブル。
発芽に必要な条件
発芽に必要な条件には、環境条件として温度と水と酸素があり、植物によっては光が影響します。また、休眠や寿命など、種子そのものも影響します。
タネまきがうまくいかない大きな原因の1つとして、発芽は問題ないのに、「発芽後、光が弱いために徒長してひょろひょろになってしまう問題」があります。これは発芽直後からの光の問題です。タネまきがうまくいかない原因が、発芽なのか発芽後の初期生育なのかを見極めて対処しましょう。
1.温度
ほとんどの植物の種子の発芽適温は20~25℃です。植物の生育温度が氷点下50~50℃、耐寒性のないもので5~50℃と幅があるのに対し、発芽適温は極めて狭い温度域です。
これは、最も快適な生育温度でないと発芽しない仕組みにすることで、発芽後の幼植物を過酷な温度環境から守るための生存戦略でしょう。
発芽適温から外れるほど発芽が1週間~数カ月と著しく遅れます。この間に種子が乾くと枯死してしまいますので、適温下でタネまきし、最短で発芽させることが大切です。タネまきや植えつけの適期は、昔から、遅霜の心配のなくなる八十八夜(5月2日頃)の頃とされてきました。
最高気温が20℃を超えるようになってからタネまきするのが季節的には旬といえるでしょう。この発芽適温は、我々人間にとっての快適温度でもあります。旬の季節以外は室内で発芽させ、発芽後に屋外に出すとよいでしょう。
畑に直まきした場合など、タネまき後にこまめに灌水に行かれない場合には、手元でセルトレーを用いてタネまきし、発芽してから植えつけることで発芽の失敗は防ぐことができる。
2.水
発芽適温でもタネまきが失敗する場合、その原因の多くは水です。土は、タネのある表面から乾いていくことが問題です。1週間に1度しか畑に行かれない場合は、直まきして1週間後に見に行っても乾燥でほぼ枯死してしまうでしょう。
播種直後だけ何とか通ってこまめに灌水するか、梅雨や穀雨、秋雨などの長雨時期に播種するか、毎日目の届く所でセルトレーなどを用いて発芽させ、苗を植えつけるなどしましょう。
種子を事前に吸水させてからまくと出芽までの日数は短くなります。ただし、タネが濡れて手にくっついてまきづらくなりますし、播種日を変更できない面倒も起こります。
事前に吸水するほうが有利なものとしては、アボカドやクリ、ドングリなど、種子が大きくて種皮や果皮が硬いものや、発芽までの日数の長いもの、籾殻を取り除いた玄米など抗菌力の高い果皮や種皮を取り除いてカビやすくなったものなどがあります。
これらは、タネまき前に数日間、こまめに水を取り替えながら吸水させ、発根直後に播種します。
3.酸素
酸素はほとんどの植物で必要ですが土壌中に十分存在しますし、イネなどの水生植物は低酸素で発芽できますので、栽培で問題になることはまずありません。
ただし、水生植物のアメリカマコモ(ワイルドライス)では酸素があると発芽が抑制されることが知られています。
4.光
(1)光発芽種子と暗発芽種子
雑草や野草には発芽に光の関与するものが多くあります。光の当たっているほうが発芽率のよいものを「光発芽種子(好光性種子)」といい、光が当たっていると発芽率の悪くなるものを「暗発芽種子(嫌光性種子)」といいます。
雑草や野草は種子を落としても覆土されないため、光の有無で生育適地かどうか見分ける生存戦略です。
好光性を有する植物は「光が当たらない」=「暗くて生育に適さない環境」と判断して、光の当たるところに移動するまで発芽を抑制します。
一方、嫌光性の植物は「光が当たる」=「乾燥して生育に適さない環境」と判断して発芽を抑制します。
ドイツの研究では野生植物の7割が好光性で、残りの3割近くが嫌光性との報告があります。
栽培植物では好光性はセリ科やキク科などで、嫌光性はウリ科やナス科、ネギ属などで品種によって若干の発芽の遅れがみられるものがありますが、栽培に影響するほどではありません。
人とのかかわりの深い植物ほど、人為的な快適な環境で進化してきたため、好光性や嫌好性などの性質は失われていったと考えられます。
したがって、しっかり覆土をして種子の乾燥を防ぐことを優先すべきでしょう。
(2)発芽後の光
どの植物も、発芽後の初期生育期間には強い光が必要です。発芽が順調でも、発芽後に光が弱いために徒長してカイワレダイコンのようにひょろひょろになってしまうことが、室内やベランダで播種した時に起こりがちです。
一粒でも発芽したらすぐに直射日光に半日以上当てましょう。なお高温や多灌水は徒長を助長しますので、できるだけ温度の低い場所に移動しましょう。
徒長してしまっても、その後の処置によって苗はある程度回復します。
直ちに強い光に十分当てて、低い温度で乾燥気味に育てて回復させましょう。光が足りない室内では、日が陰ってから蛍光灯を高さ20㎝くらいに設置して、アルミホイルで覆って数時間補光するとよいでしょう。
室内で直射日光に十分に当てられない場合、蛍光灯による補光が有効。その際、アルミホイルなどで周りを覆って光を強める。
発芽後の生育に光が十分でなかったために徒長してしまったナスタチウム。この後、外に出して、直射日光に半日以上当て、低い温度で乾燥気味に育てることでその後の生育に影響のないまでに回復可能。
5.休眠
発芽に必要な環境条件が揃っているにもかかわらず発芽しない状態を、種子休眠といい、自発休眠(内生休眠、一次休眠)と他発休眠(強制休眠、二次休眠)があります。
自発休眠とは、種子が親から離れた時点で休眠している状態で、未熟種子に見られます。未熟種子が発芽可能になることを後熟といいます。
また、種皮や果皮の硬い硬実種子や、発芽抑制物質をもっている種子も自発休眠となります。発芽抑制物質をもつものは発芽までに時間を要するもののいずれは抑制物質がなくなって発芽します。
他発休眠とは、発芽に必要な環境がある期間得られない場合に深い休眠状態となるもので、栽培上、とても厄介です。休眠打破には一定期間の低温などの処理が必要になります。発芽に低温を要する種子を低温要求種子といい、寒い冬を種子でやり過ごす植物の生存戦略です。
これらは、自発休眠の後に他発休眠となるパターンで、秋までのこぼれダネが寒い冬の途中でたまたま暖かい日にうっかり発芽しない仕組みです。
このような低温要求はラベンダーで顕著に見られ、発芽率を向上させるには、水を含ませたコットンなどと共にビニール袋などに入れて密閉し、種子を吸水させた状態のまま冷蔵庫に数カ月置いてから播種します。ラベンダー以外では、バラ、リンゴ、ナシなどのバラ科や、サクラソウ、ハナミズキ、ユリノキ、マツ、カエデなど、樹木類に多い傾向があります。
逆に、オーストラリアやカリフォルニアなど、山火事多発地帯の植物(特にフトモモ科)や、焼き畑直後に播種して作り続けられてきた山形のカブの品種などには、90℃以上の高温に遭遇することで発芽率が向上するように進化しているものもあります。
6.種子の寿命
種子は乾燥している時には静止状態にあり、水を吸うことで生命活動を開始します。乾燥して静止状態の種子は、活性酸素が次第に蓄積して酸化することで老化・劣化し、ある一定量に達すると発芽能力を失います。
したがって、種子の寿命を延ばすには酸化による老化・劣化を防ぐことです。活性酸素の蓄積を防ぐには脱気することと低温におくことです。
脱気して-1℃で湿度30%に貯蔵した場合の推定種子寿命は、短いエゴマでも12年、多くは20~40年、長いものではキュウリの127年というデータがあります。
常温保存では、冷凍保存の10分の1以下の寿命でしょうか、短いシソやエゴマ、ミントなどで1年、ネギ属植物で1~2年、多くの植物で3~5年、長いキュウリやスイスチャードで10年といわれています。
このように、植物によって寿命に差があるものの低温にするほど種子の寿命を延ばすことができます。タネまきの時期にまき切れずに余った種子は、脱気して冷凍庫か冷蔵庫で保存します。なお、自家採種して乾燥が十分でなかったり、種子が未熟であったりした場合は、完熟させて十分に乾燥させてから保存します。
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初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第60号 2022年6月