2022.8.20

ベチバーによる汚染水中の重金属除去のためのファイトレメディエーション

学術委員

村上志緒

ファイトレメディエーション (phytoremediation) とは,環境の修復のために,植物を用いることをいう。植物が気孔や根から水分や養分を吸収する能力を利用して,土壌や地下水,大気の汚染物質を吸収,分解する技術であり,生物を用いる環境修復であるバイオレメディエーションの一種である。

環境の問題は,土壌,水,大気が対象としてあげられ,今回のファイトレメディエーションでは,汚染水を含む土壌が対象となっている。

植物利用による土壌汚染や水汚染の修復の対象は,今回紹介する研究でのニッケルやクロムや,カドミウム,鉛など重金属による汚染や石油による汚染などが主な対象である。

この研究では,例えば電気メッキ産業などにおいて,水の生態系を汚染する可能性のあるさまざまな重金属を含む廃水を生成する場合があり,また,従来利用可能でよく知られている廃水処理は,高価で効果の低い方法と見なされていて,代替案が望まれることから,解決策としてファイトレメディエーションに注目して行われたものである。

ベチバー(イネ科 Chrysopogon zizanoides )は,香りによる鎮静作用や抗菌,防虫作用などからアロマテラピーなど植物療法に活用されてきた。また,アジア,オセアニアの国々では,その根の状態などから土留めとして植えられて活用されてきた歴史がある。

この研究では,ベチバーによる金属汚染水での重金属の取り込みと除去率を評価することを目的とした。

方法は以下の通りである。

  1. ベチバーは,さまざまなレベル (低,中,高) のクロム (Cr) とニッケル (Ni) を含む人工電気めっき廃水に植えられた。
  2. 原子吸光分析 (AAS) を使用して Cr と Ni の含有量を決定するために,水,根,および新芽を定期的に収集して調べた。
  3. 金属の蓄積と除去率,生物濃縮係数 (BCF),生物学的吸収係数 (BAC),および移行係数 (TF) を計算して,重金属の除去プロセスにおける植物の有効性を評価した。

以下を結果として得た。

  1. ベチバーを植えることにより,金属汚染水から 61.10% の Cr と 95.65% の Ni が除去されたことを確認した。
  2. Cr と Ni の最高摂取率はそれぞれ 127.21 mg/kg/日と 15.60 mg/kg/日ですが,Cr と Ni の排出率はそれぞれ 1.09 mg/kg/日と 12.24 mg/kg/日と遅くなる傾向があった。
  3. ベチバーの生物濃縮係数 (BCF),生物学的吸収係数 (BAC),および移行係数 (TF)の値は,Cr および Ni 汚染水で 1 を超えていた。これは,ベチバーが植物での抽出および植物での安定化を通じて金属を処理することを示している。

これらより,ベチバーが,重金属耐性であり、根から地上部に吸い上げる能力の高い高蓄積植物であることが示唆され,ファイトレメディエーションのための植物として有望であることが示された。

ファイトレメディエーションに活用される土壌浄化植物として望まれる性質としては,以下が考えられている。

  1. 根系が良く発達し,土壌中から広く有害物質を吸収する。
  2. 地上部へ汚染物質を転流する。
  3. 地上部に高濃度で無毒な形で蓄積する。

現在,この研究でのベチバーのみならず,アブラナ科のセイヨウカラシナなども対象となり,一部で実用化,また研究が進められている。

私たちの健康のみならず,地球の健康に植物の潜在機能が寄与する。これまでも生態系の中でおこなわれただろうこの営みに,期待するところは大きい。

〔文献〕

Nugroho, A.P., Butar, E.S.B., Priantoro, E.A. et al. Phytoremediation of electroplating wastewater by vetiver grass (Chrysopogon zizanoides L.). Sci Rep 11, 14482 (2021). https://doi.org/10.1038/s41598-021-93923-0