2022.9.7

全身の健康は口の健康から歯周病ケア最前線

いりたに内科クリニック院長

入谷栄一

「歯磨きしているから」、「症状がないから大丈夫」と思っていませんか?
成人の多くが歯周病、またはその予備軍といわれます。
全身の健康維持に重要な歯周病ケアについて知り、毎日の生活で実践していきましょう。

歯茎が炎症を起こす歯周病は成人が歯を失う最大の原因

歯周病は、プラーク(歯垢)内の細菌の感染によって起こる炎症性疾患です。プラークは食べ物の残りかすや糖分と口の中の細菌によってつくられる物質で、その中の歯周病菌が歯と歯肉(歯茎)のすき間に侵入して炎症を引き起こします。

歯周病の進行

健康な歯
歯肉炎
歯周炎




健康な歯 ➡ 歯肉炎(プラークが歯と歯肉のすき間に侵入して炎症が起こり、歯肉が腫れる) ➡ 歯周炎(歯周ポケットができ、炎症がより広がる。さらに進行すると歯槽骨が歯を支えられなくなり、最終的には抜け落ちたり、歯を抜かなければならなくなる)

歯茎の縁の部分が炎症を起こす「歯肉炎」から始まり、歯と歯茎の間に歯周ポケットというすき間ができ、プラークがたまって炎症がさらに広まる「歯周炎」へと進行していきます。この段階になると、腫れ、出血、膿、口臭などが現れ、やがて歯を支える歯槽骨が溶けて歯がぐらつき、最終的には歯を抜かなければならなくなってしまいます。歯周病は成人が歯を失う最大の原因ですが、多くの場合、初めのうちは自覚症状が乏しく、気づかないうちに進行してしまうため注意が必要です。

Check List 以下の項目に1つでも当てはまる場合は、歯周病が進行している可能性があります。

□ 歯磨きの時、歯茎から出血する
□ 歯茎が腫れている
□ 歯茎がブヨブヨしている
□ 歯茎が下がってきた
□ 歯と歯のすき間が開いてきた
□ 食べ物が歯に詰まりやすい
□ 歯がグラグラ動く
□ 口臭がする

全身の健康を維持するために歯周病ケアが大切なわけ

歯周病があることは、口の中で常に炎症が続いていることを意味します。近年の研究で、その際につくり出される毒性物質や歯周病菌が歯肉の毛細血管を介して全身に運ばれ、様々な病気を引き起こすリスクを高めることが分かってきました。現在、歯周病との関連が指摘されている病気には、次のようなものがあります。

歯周病と関係が深い全身疾患

●糖尿病…歯周病の病巣から放出される物質が血糖値を下げるインスリンの働きを悪くし、糖尿病が悪化しやすいことが分かっています。また、糖尿病があると歯周組織の抵抗力や口腔内の自浄作用が低下するため歯周病が重症化しやすく、歯周病と糖尿病は相互に影響し合う関係にあります。

●心臓・脳・血管の病気…血管内に歯周病菌を含むプラーク(粥状の沈着物)ができて血液の流れが悪くなり、動脈硬化を悪化させます。プラークがはがれると血管を詰まらせ、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞などの発症リスクが高まります。歯周病をもつ人は、脳梗塞のリスクが2.8倍になるといわれます。

●早産(低出生体重児)…妊娠している女性が歯周病に罹患していると、低出生体重児や早産のリスクが高くなることが分かっています。歯周病菌が血中に入り、胎盤を通して胎児に感染するのではないかと考えられており、低出生体重児や早産のリスクは7倍にものぼるといわれています。

●誤嚥性肺炎…細菌が食べ物や唾液と一緒に気管や肺に入ると、肺炎を起こすリスクが高まります。高齢者に多い誤嚥性肺炎は、死亡の原因ともなります。

これらの他にも、呼吸器疾患、関節リウマチ、骨粗鬆症、がん、認知症など様々な病気と歯周病との関連が報告されています。こうした病気を予防するためにも、歯周病ケアはとても大切な要素なのです。

歯周病の人の割合

※中等度の歯周病:歯周ポケット4~6㎜ 重症の歯周病:歯周ポケット6㎜以上
        平成28(2016)年 歯科疾患実態調査(厚生労働省)

中等度以上の歯周病の人の割合は、45歳を超えると過半数を占めるようになります。初期の歯周病の人を含めると、成人の3人に2人は歯周病といわれています。

いりたに内科クリニック院長
入谷栄一 いりたにえいいち
総合内科専門医、呼吸器専門医、アレルギー専門医。東京女子医科大学呼吸器内科非常勤講師。在宅診療や地域医療に力を入れる他、補完代替医療やハーブ、アロマに造詣が深く、全国各地で積極的に講演活動も行う。著書に『病気が消える習慣』、『キレイをつくるハーブ習慣』(経済界)など。当協会顧問。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第61号 2022年9月