南の島の植物 今に生きる薬用植物
沖縄のお婆たちは古くから野山の植物を薬用として利用していました。お婆たちに聞くと様々な植物の名が効能と共に浮かび上がってきます。そんな中で現在でも利用されている植物に目を向けてみましょう。
まず、沖縄三大薬草といわれるグアバ・ウコン・クミスクチンからご紹介していきます。
●グアバ(蕃石榴)
石垣島は「石垣牛」でも名を上げています。島内には多くの牧場があり、緑の草原に放し飼いの黒毛和牛の姿を多く見ることができます。そんな牧場の中に草丈1〜2m程度の野生のグアバの木が点在するのを見ることができます。
石垣島では「ばんしるー」と称されるこの野生のグアバは、栽培している品種とは異なり小ぶりですが、ピンク色の果肉はとても甘く芳醇な香りをもっています。小さく硬い種子をたくさん含んでおり、チョット食べにくいですが、種を濾してジュースにしたりジャムなどに使われます。
葉に含まれるポリフェノールは、マルターゼによるデンプンの分解を抑制し、糖の吸収をおだやかにし、血糖値の上昇を抑制する作用があるとされ、糖尿病に効果のあるグアバ茶として愛飲されています。年寄りは果実も乾燥させ、茶葉に混ぜることで天然の甘みのあるお茶として飲んでいます。
●ウコン(鬱金)
沖縄で栽培されているウコンは数種類あります。一般的にウコンと呼ばれるのは秋ウコンで、クルクミンと呼ばれている黄色い色素を最も多く含み、スパイスの「ターメリック」としても知られています。
利用するのはミネラルや食物繊維を豊富に含んでいる根茎で、肝臓の機能を強化し、胆汁の分泌を促します。また食欲を増進させる効果や血流改善の効果などももち合わせています。
春ウコンは精油の含有量が最も多く、酸化防止、抗炎症、抗菌、健胃などの効果があるといわれますが、強い苦みと辛みがありスパイスとしては使いません。
紫ウコン(ガジュツ)は、胃液や胆汁の分泌を促進する健胃作用があり、同時に殺菌・防腐作用もあり、漢方薬の成分として使われています。その他に黒ウコンやバリウコンなども栽培されています。
●ネコヒゲソウ(猫髭草)
シソ科の宿根草のネコヒゲソウは、白い唇型の花冠から数本の蘂が長く突き出し、猫の髭のように見えます。沖縄では「クミスクチン」と呼ばれていますが、インドネシアでも同じ名で呼ばれています。
東南アジア原産で、観賞用としても人気がありますが、古くから沖縄では薬草茶として飲まれています。葉にカリウムが多く含まれ、利尿効果が高く血圧降下作用や高血圧予防などにも効能があるとされています。
●モロコシソウ(唐土草)
モロコシソウは関東以南に分布する日本の固有種で、沖縄では、「ヤマクニブー(山九年母)」と呼ばれています。
モロコシソウは蒸すと独特の香りを発するため、蒸したモロコシソウは、衣服の香りづけや香料として昔から使われてきたといわれ、琉球王朝時代から女官たちに愛用されていたそうです。
収穫から加工までの期間は梅雨が明けた時期の3週間と短く、蒸すことにより独特の揮発芳香成分が出ます。数日間陰干しにすると緑色から茶色に変わり、独特の強い香りを放つようになります。蒸す時に泡盛で蒸すとより香りが強く出るともいわれます。
沖縄ではタンスなどに入れ虫除けとして使われていますが、最近は香り袋などに入れる製品も出始めています。この独特の香りは観葉植物で知られるポリシャス(タイワンモミジ)でも同様の香りが得られます。
●ニトベギク(皇帝向日葵)
明治時代末期に、新渡戸稲造が日本に導入したことでついた名前のニトベギクは、沖縄では野生化して高さは4m以上、10cmを越す大きな黄色い花を秋~冬と初夏に咲かせます。
花期には、丘一面が黄色に染まる美しい景観を呈します。葉には多くのポリフェノールや機能性成分が含まれており、沖縄では、地域の特産品としてニトベ茶があり、糖尿病に効果があるとされています。
●ニシヨモギ(フーチバー)
沖縄でよく食べられている山羊汁や牛汁などの臭みを軽減させて食べやすくしてくれるのが「フーチバー」です。沖縄そば、フーチバージューシーなど様々な料理に欠かせない、パクチーのような使い方をされる野菜としても扱われます。
フーチバーとは、沖縄の古い言葉で「病気」や「薬」を意味する「フーチ」と「葉」を意味する「バー」を合わせた言葉で、文字通り「薬草」という意味があります。
フーチバーはニシヨモギというヨモギの一種ですが、一般的なヨモギとは違い、独特のさわやかな香りがあり、苦みが少なく葉が大きいのが特徴です。
タンパク質、食物繊維が多く、ミネラルやビタミンが豊富で、成分の中の「クロロフィル」には消臭効果や殺菌作用、体内の悪玉コレステロールなどの有害物を除去する効果があるといわれています。どこの家の庭でも育てられており、食材や民間薬として使われています。
●ハナショウガ(シャンプージンジャー)
インド原産の「ハナショウガ」も古くから石垣島で栽培されています。イノシシ(ウムザ)が好んで食べることから「ウムザヌウキン」とも呼ばれます。
特徴的な松かさ状の緑の苞は成長と共に赤茶色になり、白い花がこの苞から咲きます。苞を搾ると香りのよいやや粘質の液が採れ、あせもや傷などに塗ります。
白檀に似た清々しい、爽やかな香りがあり、トリートメント効果や殺菌効果をもち、ハワイでは髪や体に塗り香りを楽しんだことからシャンプージンジャーとも呼ばれます。
●オオイタビ
石垣島では民家のブロック塀をびっしりと緑の葉で覆っている光景がよく見られます。これはオオイタビという葛状の植物です。
八重山では葉を煎じたお茶が腎臓病や糖尿病、関節の腫れや痛みによいと伝承され、古くから利用されてきました。
雌雄異株で、花は近縁のイチジク(無花果)と同じように花嚢の中に咲きます。雄の花嚢の中にはコバチの卵があり、これが内部で孵化すると花粉を着けて飛び立ち、雌の花嚢に入ることで受粉されます。
その後雌の花嚢は果嚢へと変わり丸い実になります。雄株にも実ができますが固くて食べられません。雌株の実は甘くて食べられます。台湾で寒天のようなデザートして知られる愛玉子はこの仲間です。
ここで紹介した物はごく一部ですが、野山の植物の多くが薬効があるとして利用されてきました。ただ、その知識をもった年寄りが伝承することもなく減っていくのが危惧されます。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第51号 2020年3月