ケンゴシとトシシ
アサガオのツルの巻いた鉢植えを孫が小学校から持ち帰った。15年前からこの鉢を使って、市販の種を植えて育てている。アサガオが教材として使われている理由は、ツルの巻き方を観察し、自然の複雑さを教えることだったのだろう。現在は人工衛星で旅した種が、遺伝的に変異するこの観察を課題とする学校もある。
アサガオの種子はケンゴシと呼ばれる生薬で、同じヒルガオ科のネナシカズラの種子もトシシと呼ばれる生薬である。
1)アサガオとケンゴシ
アサガオはつる性で、葉は広三尖形で細毛を有する。花は5枚の漏斗状、花弁は融合する。花の色は原種に近いものは水色である。子房は3室で、各室には2個の種子をもつ。種子はケンゴシとして下剤に用いられている。
江戸時代に園芸用に品種改良が盛んに行われ、花の色、大きさ、花の切れ込み、覆輪化などが注目された。花の色は、赤、紫、白色などの品種が開発された。また矮性の品種なども開発された。江戸系統や熊本の肥後朝顔など開発を競い合った。品種改良で現在も残っているのが浅草の朝顔市である。
ケンゴシはアサガオの種子で、黒色の黒ケンゴシと白色の白ケンゴシが知られている。
日本で見られるアサガオには、類似したアサガオの種類がある。日本古来の観賞用のものは、学名では、Pharbitis nil Choisyであるが、紀伊半島の海岸や沖縄で見たアサガオはノアサガオIpomoea indicaで葉が丸く常緑である。花が小ぶりなものに、アメリカアサガオPharbitis hederacea、Ipomoea hederaceaがある。アメリカアサガオは全国で野生化しているので、外来危険植物とされている。
薬としては、牽牛子は『名医別録』の下品に、「味苦寒、有毒。気を下し、脚満、水腫を療治し、風毒を除き、小便を利す。」と記載されていた。日本薬局方に下剤として家庭薬や漢方処方に配合されている。
アサガオの和名は、平安時代に深江輔仁の『本草和名』(918年)、及び源順の『倭名類聚抄』(934年)の牽牛子に「和名阿佐加保」と記してある。
2)ネナシカズラとトシシ
ネナシカズラ属 Cuscuta、世界に約170〜220種がある。ネナシカズラCuscuta japonicaは、1年生寄生植物で、種子をトシシと称して、薬に用いられている。
種子は地上に落ちて発芽し、茎は小物の茎に巻きつき、ふつう紫褐色の斑点がある。葉は三角形、長さ2㎜以下の鱗片状で、花は白色の釣り鐘状、長さ3~3.5㎜、先は5裂する。花柱は1個、蒴果は長球形、長さ4~5㎜、のちに下部で開裂する。内部に3個の種子を含む。長さ約3.5㎜。
ネナシカズラの和名は、深江輔仁が『本草和名』(918年)に菟絲子に、「和名禰奈之久佐」と小野蘭山は、『本草綱目啓蒙』(1806年)に「ネナシカヅラ」の名がある。
莵絲子は、『神農本草経』の上品に収載され、気力を益し健康に肥らせる」とあり、古来、強精強壮薬として利用されてきた。
ネナシカズラは丘陵や山地に生え、萼が短く、萼の中央は隆起しない。花柱が1個、柱頭は2裂。果実が楕円形。
アメリカネナシカズラ:花冠は約3㎜、花柱は2本、雄しべは花冠より長い、ツルは淡黄色~淡黄赤色、朔果は球形。
【写真提供】
①:昭和薬科大学 高野 昭人氏
②:株式会社栃本天海堂 松島 成介氏
③④⑤:元昭和大学 薬学部 磯田 進氏
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第61号 2022年9月