2022.10.10

メディカルハーブの科学論文を読む 第二回:介入研究・リサーチクエスチョンの構造化

日本メディカルハーブ協会学術委員

村上志緒

メディカルハーブについての理解を深め、より効果的で安全なハーブの活用につなげるためには、研究により導き出されたエビデンス(科学的根拠)を正しく捉えることはとても重要です。

前回は、まずメディカルハーブの研究や研究情報の現状の把握や、行われている研究が内容によってどのように分類されるかといった研究デザインの種類についてお伝えしました。

今回からはそれらの研究デザインのうち、ヒトを対象とした臨床研究にスポットを当てて、その中でもエビデンスレベルの高い「介入研究」について説明いたします。

介入研究

前号で記したとおり、研究のエビデンスレベルを6段階に分類したとき、Level6は基礎研究、そしてLevel5以上は臨床研究となります。その中でLevel2のランダム化比較試験(RCT))とLevel3の非ランダム化比較試験は、被験者にハーブを内服するなどといった「介入」を行って進めるので「介入研究」といわれます。前回述べたように、これらは「介入」と「対照」に分けて比較していくといったデザインで行われ、被験者をランダム(無作為)に選ぶ場合がランダム化比較試験(RCT)であり、そうでないものよりエビデンスレベルが高いとされています。

これらの研究の遂行には、必ずある仮説を設定し、その仮説にどのように、どれだけ追随するのかをみて行くことが必要であるため「仮説検証型」の「量的研究」であるといった性質を持つことになります。

リサーチクエスチョンの構造化:PICO/PECO

介入研究では、研究者自身が調べたいことを仮説として設定して、それを理想的な条件のもと、どのような効果や影響が現れるのかを検証していくことになります。研究者が調べたいことの仮説が「リサーチクエスチョン」であり、より良い研究とするためには、研究そのものの骨組みがしっかりと設定されていることが大切です。つまりリサーチクエスチョンがいかに適切に設定されるかはとても重要で、それにはリサーチクエスチョンの構造化が大きな決め手となってきます。

ではリサーチクエスチョンの構造化で必要な要素について考えていきましょう。この仮説の検証におけるリサーチクエスチョンの構造化では、以下の4つの項目について明確にすることが重要であると考えられています。

1)研究の「対象者」は誰か Patients
2)どのような「介入」をするのか Intervention
3)介入と「比較」するものは何か Comparison
4)どのような「結果」となるのか Outcomes 

リサーチクエスチョンの構造化は、上記の「Patients」「Intervention」「Comparison」「Outcomes」それぞれの頭文字をとって「PICO」と表します。また、分析研究を含めた臨床研究全般を範囲とした場合、構造化は「PECO」としてとらえます。この場合「PICO」の「Intervention」が「Exposure」となり、調べたいことがどのような要因で起こるのかといった観点になります。

PICOのそれぞれの項目についてみていきましょう。

1)Patients 対象者/ここでの対象者の設定は、研究の結果(アウトカム)に大きく反映します。立てた仮説の実証のために、より適切な対象を客観的で現実的な視点から設定することが大切です。

2)Intervention 介入/どのような介入をするのかは、研究者が調べたいテーマが、そのまま反映されます。この介入は「介入群」に対して試行され、これがアウトカムとどのように関わるのかが調べられていくこととなります。

3)Comparison 比較/介入の影響をより明確に示すためには、介入を行わないものと比較することが大切です。この比較は「対照群」に対して試行され、「コントロール」と表されます。
ここで設定した対照群では、仮説のアウトカムとして設定した事象が、起こらないものであり、どのように異なったかが実証できると、より信頼性の高い研究として成り立つことに繋がりますし、介入群との差異が明確でない場合は、この仮説は正しくなかったと考察することに繋がります。

4)Outcomes 結果/仮説においてのアウトカムは、研究者によるその研究のテーマにおいての仮説を一番表すものとなります。全体を通して言えることですが、ここでの設定は、現実的にどのように研究を進めるのか、試験方法が具体的でありなおかつ、正確性を持つのかといったこともとても大切になります。

では、具体的に一つの論文を取り上げながら、みていきましょう。今回以降、以下の論文を取り上げ、理解を深めていきます。この論文は、独立行政法人経済産業研究所(RIETI)におけるプロジェクト「エビデンスに基づく医療に立脚した医療費適正化策や健康経営のあり方の探求」の成果の一部として公開されているものです。

アロマセラピーは、健常高齢者の認知機能改善に効果があるか?

―ランダム化比較試験による検証―
宗未来 他著、RIETI Discussion Papeers
Series 21-J-003

論文のタイトルには、研究者がその研究の成果として明らかにしたいこと、またはその研究で成果として明らかとなったことを反映していることが多いです。この研究の場合、研究者のリサーチクエスチョンをそのまま表しています。
今号では、PICOを理解するために、まずはこのタイトルからPICOそれぞれの設定がどのようであるかみてみましょう。

◉リサーチクエスチョン/アロマセラピーは、健常高齢者の認知機能改善の効果があるか?

1)Patients 対象者 → 「健常高齢者」
2)Intervention 介入 → アロマセラピーの実施
3)Comparison 比較 → 「対照群」
4)Outcomes 結果 → 健常高齢者の認知機能
          改善に効果がある

対照群については、アロマの代わりにエタノールを用いる「プラセボ群」が設定されています。

次回は、この論文をさらに読み解きます。なお、この論文は、以下からダウンロードが可能です。お読みいただいている皆さん、より理解を深めるために、ぜひお手元に持ちながら、ご一緒に読み進めていきましょう。

https://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/21010006.html

※「google」で、「アロマセラピー RIETI」で検索すると、上記のサイトをピックアップ、容易にアクセスできます。

日本メディカルハーブ協会学術委員
村上志緒 むらかみしほ
株式会社トトラボ代表。薬学博士・理学修士。早稲田大学及び大学院理工学研究科修了。東邦大学大学院薬学研究科修了。植物療法学(民俗薬草文化、作用機序、特に向精神作用)を研究。日本、ネイティブアメリカン、そして南太平洋フィジーのハーブが研究テーマ。ハーブやアロマテラピーといった植物療法について、自然・生活文化・科学の観点から学ぶ講座を「トトラボ植物療法の学校」にて展開。東邦大学薬学部訪問研究員。東京都市大学など非常勤講師。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第61号 2022年9月