2022.12.27

2型糖尿病ラットの認知障害に対する持久力トレーニングとジャーマンカモミール花水性エタノール抽出物の改善効果

日本メディカルハーブ協会学術委員

村上志緒

糖尿病は,中枢神経系の変性に関連すると認識されており,最終的には認知障害につながることが大きく懸念されている.

いくつかの研究は,運動が糖尿病に関連する認知機能低下を改善できることを示唆しているが,2型糖尿病の認知障害に対するジャーマンカモミール(キク科Matoricaria chamomilla)花抽出物を伴う持久力トレーニング(ET)の潜在的な効果はよくわかっていない.

本研究では,糖尿病モデルラットを対象に認知機能に対して,運動とジャーマンカモミールがどのように症状改善効果を示すかを明らかにすることを目的とした.

方法を以下に示す.

  1. 40匹の雄ウィスターラットをランダムに8匹ずつ,以下の5グループに分けた.
    • a)健康で運動をしない(H-sed)
    • b)糖尿病で運動をしない(D-sed)
    • c)糖尿病で運動をする持久力トレーニング(D-ET)
    • d)糖尿病でカモミール抽出物を摂取する(D- M.ch)
    • e)糖尿病-運動をし,カモミール抽出物を摂取する(D-ET-M.ch)
  2. ニコチンアミド(110 mg / kg,i.p.)とストレプトゾトシン(65 mg / kg,i.p.)を投与することにより,2型糖尿病のモデルマウスを作成した.
  3. 持久運動(5日/週)とカモミール摂取(200mg / kg体重/日)については12週間施行した.
  4. 実験の12週間後,認知機能はモリス水迷路テストとシャトルボックスデバイスを使用した受動的回避学習の行動を評価した.
  5. その後,クリスタルバイオレット染色を使用して,海馬のCA3領域でニューロンの壊死を調べた.

結果は,以下の通りであった.

  1. 糖尿病ラットは,海馬組織の領域CA3の壊死細胞数の増加に続いて認知障害を示した.
  2. 糖尿病ラットは血清の脂質過酸化レベルを増加させ,血清および海馬組織の総抗酸化能を低下させた.
  3. 糖尿病ラットでの持久運動とカモミール抽出物投与併用は,海馬組織のニューロンの壊死を防いだ.
  4. 糖尿病ラットでの持久運動とカモミール抽出物投与併用では,海馬組織および血清抗酸化酵素レベルのアップレギュレーションに続いて,回避学習の効果が見られた.

これらの結果より,持久運動とカモミール抽出物投与により,糖尿病ラットの記憶学習効果が確認された.これより,持久運動とカモミール摂取は,糖尿病によって引き起こされる海馬ニューロンの壊死とそれによると考えられる認知障害に関する新しい治療となり得る可能性があることが示唆された.

文献

Heidarianpour A. et.al., Ameliorative effects of endurance training and Matricaria chamomilla flowers hydroethanolic extract on cognitive deficit in type 2 diabetes rats. Biomed Pharmacother. 2021 Mar;135:111230. DOI: 10.1016/j.biopha.2021.111230. Epub 2021 Feb 1.