2023.1.4

フジマメとへンズ

昭和薬科大学 薬用植物園 薬用植物資源研究室 研究員

佐竹元吉

1)フジマメ

フジマメ Dolichos lablab Linne (マメ科 Leguminosae)は一年草の蔓植物で、支柱を付けると4〜5mになる。葉は小葉が3枚、無毛である。

フジマメの花   ①紫色花

扁平な楕円形で、果実は豆果で、扁平な湾曲した楕円形、長さが3〜6cm、先端に花柱が残る。

②果実

扁平な楕円形の果実の色は、花が赤黄色では緑紫色で、花が白色では緑色である。種子の色は前者が黒色、後者は白色である。種子は扁豆である。扁豆の名は果実の形状が扁平へんずであることに由来する。

フジマメの花 ③白色花
④果実

2)扁豆

扁豆はフジマメの種子である。生薬の性状は偏楕円形~偏卵円形を呈し、長さ9~14mm、幅6~10mm、厚さ4~7mmである。外面は淡黄白色~淡黄色を呈し、平滑でやや艶がある。一辺に隆起する白色の半月形の種枕がある。質は堅い。においがほとんどなく、僅かに甘味と酸味がある。

フジマメの種子 ⑤ 紫色花の種子
フジマメの種子⑥ 白色花の種子

横切片を鏡検するとき、種皮の最外層はクチクラで覆われた1細胞層の柵状の表皮細胞からなる。表皮下は1細胞層の砂時計状の厚壁化した細胞からなり、その内側に柔組織があり、その最内部は退廃化する。種皮の内側には子葉がある。子葉の最外層は1細胞層の表皮細胞が取り巻き、その内部は主として柔組織からなり、リューロン粒、 油滴を含み、でんぷん粒を認めることがある。

ハクヘンズの原形生薬 ⑦

3)本草の記載

『図経本草』に、「扁豆には黒色と白色の二種があり、白色は性が温であり、黒色はやや冷であるため、薬には白色を用いる。」と記載され、李時珍は「種子の色は黒、白、そのほかに赤、斑などがあり、豆子の粗く丸くて白色のものだけが薬用にされる。」とある。『本草綱目啓蒙』には「薬用にする白扁豆は、苗葉は鵲豆(扁豆)と同じである。」との記載がある。

4)薬効と漢方

ヘンズには、漢方的には健脾、止渇などの効能があり、消化不良、嘔吐、下痢などに用いられる。

漢方処方では、参苓白朮散に配合され、『和剤局方』に収載されている。胃腸が弱く、やせて顔色が悪く、食欲がなく下痢が続く傾向がある方の食欲不振、慢性下痢、病後の体力低下、疲労倦怠、消化不良、慢性胃腸炎に効果がある。

5)種子以外の薬用部位

種皮は扁豆衣と呼び、中国では白扁豆と同じ作用で用いられている。花は、扁豆花と呼び、瀉下剤である。

6)フジマメの成分

フジマメの成分は、ステロイド(ドリコリド、ホモドリコリド)、(トリテルペンサポニン(ラブラドシドA~F、ラブラブサポニンI)等が含まれる。

7)学名の検討

フジマメの学名は、日本薬局方では、Dolichos lablabと記載されているが、フジマメとその近縁種の分類体系は最近再検討され見直された(Smartt,1990)。これまで、フジマメはリンネによってDolichos属に分類されていた。Verdcourtは1970年、Lablab purpureusを3亜種と分類した。

1)subsp、purpureusは栽培種フジマメでさやの大きさは100mm×40mm程度である。
2)subsp、bengalensisは他の亜種に比べて細長いさやをもつのが特徴で、その大きさは140mm×10〜25mm程度である。
3)subsp、uncinatusはフジマメの祖先野生種と考えられている亜種で、分布は主として東アフリカである。この亜種のさやの大きさは約40mm×15mmである。

8)野菜としてのフジマメ

サヤを若取りしたもので、地方によっていろいろな呼び名がつけられている。

伊勢を中心に三重や岐阜では「千石豆」、及び石川県では加賀野菜として「加賀つる豆」で、金沢では「ダラマメ」と呼ばれる。岐阜県では飛騨・美濃伝統野菜である。関西では隠元禅師が中国から持ち込んだのはこのフジマメで、愛知県では「白花千石」が愛知の伝統野菜として扱われている。


【写真提供】
①②③④⑤⑥:昭和薬科大学 薬用植物園
⑦:株式会社栃本天海堂 松島 成介氏

昭和薬科大学 薬用植物園 薬用植物資源研究室 研究員
佐竹元吉 さたけもとよし
当協会顧問。沖縄美ら島財団研究顧問。1964年東京薬科大学卒業。国立医薬品食品衛生研究所生薬部部長、お茶の水女子大学生活環境研究センター教授、富山大学和漢医薬学総合研究所・お茶の水女子大学客員教授を歴任。著書『第17改正 日本薬局方生薬等の解説書』(共著・廣川書店)他。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第62号 2022年12月