2023.2.28

ポリフェノールと腸内細菌叢、またその健康増進効果について

日本メディカルハーブ協会学術委員

河野加奈恵

ハーブやスパイスに含まれるポリフェノールは我々の生活の中で最も身近な抗酸化物質だ。

ポリフェノールはベンゼン環に複数の水酸基が結合した化合物の総称で、アントシアニン、カテキン、およびクエルセチンなどのフラボノイド類、カフェ酸、クロロゲン酸、およびクルクミンなどのフェノール類、エラジタンニンなどの加水分解型タンニン類、およびプロアントシアニジンなどの縮合型タンニン類などに分類される。

植物が自らを病原菌や紫外線などから守るために作り出したポリフェノールの抗菌および抗酸化作用に人の健康増進に貢献する生理活性作用があるとして注目されている。

食事由来ポリフェノールの総摂取量は成人一人1日当たり1gに達し、ビタミンC摂取量の約10倍、ビタミンEやカロテノイドの摂取量の100 倍にも値するが、食事から摂取したポリフェノールが小腸で吸収されるのは総量のおよそ5~10%にあたる低分子ポリフェノールのみで、総量の90~ 95%にあたる大部分の高分子ポリフェノールは消化されずに大腸に移動し、腸内微生物叢によって代謝されて初めて体内に吸収される。

過去数十年間、ポリフェノールの抗酸化作用、抗炎症作用、抗菌作用、抗脂肪生成作用、および神経保護作用など、その健康増進効果に関連する膨大な研究成果が発表されており、その健康に対する有用性は明らかなものの、その具体的なメカニズムに関しては未だほとんど明らかにされていない。

ポリフェノールとその代謝に重要な役割を担う腸内細菌叢およびその健康増進の効果に関して、主に in vitro および in vivo の研究でこれまで判明しているポリフェノールの作用のメカニズム、腸内細菌叢への影響、およびポリフェノールと腸内細菌叢による調節機能について紹介する。

抗酸化特性

  • ポリフェノールはラジカル捕捉型抗酸化物質で、自身の水素原子や電子をフリーラジカルへ与えてラジカルを中和して除去をしたり、フリーラジカルやその前駆体の形成を阻害したり、酸化速度を低下させるなどし、フリーラジカルの生成を抑制する。その他、以下に挙げる特異的な働きによりその特性を発揮することも判明した。
  • チャ(Camellia sinensis)のエピガロカテキンガレート(EGCG)の肝癌細胞(HepG2)に対する抗酸化作用は、抗酸化遺伝子の発現を調節する転写因子Nrf2 (Nrf2) を細胞の核内へ移行させることにより発現する。
  • レスベラトロールは、カタラーゼ (CAT)、スーパーオキシドジスムターゼ (SOD)、グルタチオンペルオキシダーゼ (GPx)、およびグルタチオン-S-トランスフェラーゼ (GST) などの抗酸化酵素の活性を高めることにより、膵臓組織の抗酸化力を高める。

抗炎症特性

  • 酸化ストレスにより誘発される炎症は、炎症に関わる遺伝子のスイッチをオンにする転写因子(核内因子κB (NF-kB)およびAP-1など)が活性化され、その結果、インターロイキン-1β (IL-1β)、インターロイキン-6(IL-6)、および腫瘍壊死因子α (TNF-α)などの炎症性サイトカインが発生して起こる。正確なメカニズムは不明だが、ポリフェノールはこれら炎症性サイトカインの調整に効果がある。
  • プロアントシアニジンから生成されるジヒドロキシル化フェノール酸は、臨床試験で健康な人のTNF-α、IL-1β、および IL-6 などの炎症性サイトカインの分泌を低下させた。
  • マウスの実験ではケルセチンの補給によりインターフェロン-γ、IL-1α、および IL-4 が減少した。
  • 10 mg/kgのケルセチン投与で、肥満ラットの脂肪組織における血漿NOx濃度とTNF-α産生も減少し、抗炎症効果が認められた。

抗菌特性

  • ポリフェノールは、グラム陽性菌とグラム陰性菌の両方に働く天然の抗菌剤である。
  • EGCGなどのチャのポリフェノールは、黄色ブドウ球菌のペプチドグリカン層からなる細胞壁に直接結合して浸透圧保護を破壊、また、セラチア菌の細胞質内膜を損傷してその透過性を高めるなどの作用を介し、抗菌効果をもたらす。
  • クランベリー(Vaccinium macrocarpon)のプロアントシアニジンは、細菌の運動性、特にスウォーミング(細菌が群れとなって遊走する運動)を制限し、緑膿菌のバイオフィルム(細菌などの集合体が形成する膜)形成を減少させた。このように、ポリフェノールは、抗バイオフィルム作用を伴いながら、抗菌活性を示すことも可能である。
  • しかし、各種ポリフェノールの構造が多様なため、それらの抗菌活性のメカニズムはまだ完全には解明されていない。

抗脂肪生成特性

  • エネルギー消費を増加させるベージュ脂肪細胞を発達させることが、肥満解消や代謝調節を改善するのに役立つことがわかっているが、ポリフェノールは脂肪組織の褐色化を効果的に活性化し、肥満を改善する。
  • カテキンが豊富な飲み物を毎日摂取すると、健康な若い女性の褐色脂肪生成が促進され、褐色脂肪が増加する。
  • 高エネルギー食を与えられたマウスでは、バニリン酸が褐色脂肪組織で熱発生とミトコンドリア合成を促進する。
  • レスベラトロールは、脂肪生成に関わる遺伝子(ACC、PPAR-γ、SREBP-1)の発現を抑制して中性脂肪の蓄積を減少させる。

神経保護特性

  • 現在のところポリフェノールと神経学的効果の直接的な関連は確立されてはいないが、ポリフェノールが神経変性および加齢に伴う神経認知能力の低下を改善する可能性があることが示唆され、近年、ポリフェノールの神経保護効果がかなりの注目を集めている。
  • 動物実験では、ブルーベリー(Vaccinium sect. Cyanococcus)がラットの加齢に伴う空間作業記憶の欠損を逆転させるのに効果的であることを示した。
  • (−)-エピカテキンがマウスの空間記憶保持を強化し、神経栄養因子の合成に影響を与える可能性があることがわかった。
  • クルクミンが歪んだ神経突起を部分的に修復する可能性や、レスベラトロールが海馬細胞におけるアミロイドβ(Aβ)凝集を予防する可能性が認められた。

ポリフェノールが腸内細菌叢に与える影響

近年、食事、プロバイオティクス、およびプレバイオティクスによる腸内細菌叢の変化や腸内細菌叢と様々な疾患との関連については十分にエビデンスが確立されている。ポリフェノールと腸内細菌叢との関連はまだ明確ではない点が多いが、ポリフェノールが腸内微生物叢を直接調節する可能性があることを示す証拠が増えてきている。

in vitroやin vivo研究では、ポリフェノールが有益な微生物の増加と有害な微生物の減少を促し、腸内微生物叢を調節できることが示された。

  • ビフィズス菌の増殖を促進するポリフェノール:ザクロ(Punica granatum)のエラジタンニン、ショウガ(Zingiber officinale)のジンゲロール、ブドウ(Vitis spp.)のポリフェノール、試験管内で発酵させたマンゴー(Mangifera indica)の皮、およびタカキビ(Sorghum bicolor)のプロアントシアニジン
  • 乳酸菌を増殖するポリフェノール:ラズベリー(Rubus idaeus)ジュースに含まれるエラグ酸とアントシアニン、グレープシード(Vitis vinifera)、チャ、ザクロ、マンゴーの皮、およびタカキビ
  • その組成バランスが重要であるバクテロイデス属、ルミノコッカス属、クロストリジウム属、および病原菌などの増殖を阻害するポリフェノール:赤ワイン、ラズベリー、ブドウのポリフェノール、タルトチェリー(Prunus cerasus)、チャ、タカキビ
  • 動物実験において、クランベリーおよびケルセチンとレスベラトロールの組み合わせが肥満に関連している細菌類を減少させた。
  • ブドウがサルモネラ菌、大腸菌、および赤痢菌などを減少させた。
  • しかし、ある in vitro 研究では、赤ワインに含まれるアントシアニンとチャのカテキンがビフィズス菌の量を減らすなどの結果も出ており、各種ポリフェノールがそれぞれ腸内細菌叢に選択的に働く可能性を示している。

臨床研究でも、人の腸内微生物に対するポリフェノールの調節効果が確認されている。

  • ブルーベリーのアントシアニン、アーモンドとアーモンドの皮、赤ワインが、ビフィズス菌と乳酸菌を増加した。
  • 肥満になるとファーミキューテス属が増殖し、バクテロイデス属が減少するが、クランベリーのプロアントシアニジン、ルチン、ケルセチン、クロロゲン酸、およびカフェイン酸がその比率を低下させ改善した。
  • タルトチェリージュースを摂取した後、バクテロイデス属が多い被験者において、バクテロイデス属とビフィズス菌が減少し、ルミノコッカス属などその他細菌グループが増加、また反対に、低バクテロイデスの被験者においては、バクテロイデスとビフィズス菌の増加と、ルミノコッカス属などその他細菌グループが減少するなど、腸内細菌叢の組成の調整機能が認められた。
  • 様々なポリフェノールがクロストリジウム属を減少させるが、特にチャにおいて最も有効であることがわかった。しかし、チャのポリフェノールが、ファーミキューテス属対バクテロイデス属の比率を増加させるなど、一部異なる結果を示した。

ポリフェノールと腸内微生物叢が人の健康に影響を与えるメカニズム

ポリフェノールが腸内細菌叢の組成バランスを調節するだけでなく、同時に腸内微生物叢がポリフェノールを生物学的に利用可能な代謝産物に変換し、そのバイオアベイラビリティを向上させるなど、ポリフェノールと腸内細菌は相互に働きかけて人の健康増進に貢献する。

ポリフェノールの腸内微生物叢の多様性への影響

  • すでに上述通り、様々な研究でポリフェノールが腸内微生物叢の組成バランスを調整することがわかっているが、システマティックレビューにおいても、ポリフェノールは乳酸菌とビフィズス菌の成長を促進し(乳酸菌は220%、ビフィズス菌は56%増加)、クロストリジウム属などの有害な微生物叢の増殖を阻害し、胃腸障害の改善、下痢や便秘の緩和、乳糖不耐症の緩和、過敏性腸症候群や炎症性腸疾患の緩和や予防に重要な働きをもたらすことがわかった。

ポリフェノールの腸内微生物叢の代謝物への影響

  • 腸内細菌叢の重要な役割の一つに短鎖脂肪酸(SCFA)の産生がある。SCFAは酢酸、プロピオン酸、および酪酸などの有機酸で、大腸に消化されずに届いた食物繊維や難消化性糖類などを腸内細菌叢が発酵分解することにより生成される。SCFAは腸上皮細胞の最も重要なエネルギー源であり、抗炎症作用など優れた生理効果がある。
  • in vivo において、EGCGがSCFAを産生する細菌、特にアッカーマンシア属の数を大幅に増加させ、全てのSCFAの産生を促進し、それによって抗炎症効果と結腸バリア機能の完全性を高めて腸炎を軽減、また、高脂肪食によって誘発される代謝異常と脂肪肝を、糞便中の胆汁酸、コレステロール、および脂質の排泄を増加させることにより軽減するなどがわかった。
  • アントシアニンが豊富なラズベリーの摂取により、回腸ストーマ(回腸に作られた便や尿の排泄の出口)保有者の胆汁酸の濃度が大幅に変化し適正化され、コール酸およびデオキシコール酸のグリシンおよびタウリン誘導体が増加することを発見された。

ポリフェノールの細菌細胞膜に与える影響

  • 研究によると、ポリフェノールの抗菌効果は細胞膜を持たないグラム陽性菌に対してより効果的であることが示されているが、薄い細胞壁の外側に細胞外膜を持つグラム陰性菌に対しても、細胞膜に結合して膜の細胞質透過性を高めたり、細胞膜や細胞内の機能障害をもたらすなど、病原菌株の増殖を抑制する可能性があることがわかっている。
  • チャのカテキンなどは細胞膜の脂質二重層に強い親和性を持ち、細胞膜の中に浸透し、抗菌、抗癌、およびその他の有益な効果を発揮することがわかった。特にEGCGは、ブドウ球菌の細胞膜を損傷し、粘液産生の減少、およびバイオフィルム形成の阻害などを介してその抗菌活性を示す。

腸内細菌叢によるポリフェノールの生体内変化

  • 食事由来ポリフェノールは、その複雑な構造と高分子量のためにバイオアベイラビリティが低く、大部分が小腸で吸収されずに移動し、大腸で腸内細菌叢を介して生理活性のある低分子量フェノール代謝産物に代謝される。
  • マルベリー(Morus alba)のアントシアニンについて、研究では、ビフィズス菌や乳酸菌がアントシアニンをプロトカテク酸、バニリン酸、p-クマル酸 シリンギン酸、および没食子酸など低分子量の代謝物に分解することが発見された。これら腸内細菌叢は、腸管上皮への付着や栄養素の摂取を病原体と競合し、人の免疫系を調節して細菌毒素の産生を阻害するなどのプロバイオティクス効果を持つ。
  • 大豆イソフラボンは、嫌気性細菌によって、ジヒドロダイゼインやジヒドロゲニステインなどに変換される。
  • バイオアベイラビリティが低いザクロとブドウに含まれるエラジタンニンは腸内微生物によって代謝されて、抗酸化活性と癌、糖尿病、心血管、および神経変性などの予防効果を持つウロリチンに変換される。
  • このように、フラボノイドは腸内細菌により低分子量の代謝物に分解されることによって初めてその効果を発揮する。

ポリフェノールは人の消化器において非常に吸収されにくい成分にも関わらず、人の健康に明らかな有用性があるが、その種類は8000種類以上存在するといわれ、多様で複雑な構造であるため、各種成分の生理活性のメカニズムはまだ完全には解明されていない。今後、その代謝経路と生理活性のメカニズムの解明が明らかになり、ハーブやスパイスの健康増進のエビデンスが確立されるとともに、その効果的な活用方法が明確になることが期待される。

〔文献〕

Wang X, Qi Y, Zheng H. Dietary Polyphenol, Gut Microbiota, and Health Benefits. Antioxidants (Basel). 2022 Jun 20;11(6):1212. https://doi.org/10.3390/antiox11061212.