ガーデニングデザイン:はじめての土づくり ふかふかの土づくり(物理性改善)
栽培の基本は土づくりと病害虫獣雑草管理。まずは土づくりがうまくいけば失敗なく育てることができます。
土づくりって具体的には何をどうすればよいのか、そしてそれはなぜなのか、今回は、土づくりのなかでも土壌の物理性改善の基本と実際を紹介します。
Question
- 畑を耕す人と耕さない人がいますが、何が違うのですか?
- 毎回耕すのが大変なのですが、良い方法はありませんか?
- 粘土質で水はけが悪いのですがどうすればよいですか?
- 有機栽培で化学肥料を使わないのはなぜですか?
良い土とは?
良い土とは、物理性、化学性、生物性に分けて考えて、それぞれの良い土ということができます。
物理性の良い土とはふかふかの土のことであり、化学性の良い土というのは栄養豊富で適正なpHの土で、生物性の良い土というのは土壌生物の種類も数も多い土のことです。
物理性、化学性の良い土づくりのため、近代農業では、化学物質やエネルギーを駆使して、耕耘や、化学肥料・石灰の投入などを行います。
一方、生態系を大切にする自然とつながる栽培では、土づくりをすべて土壌生物にやってもらうことを考えますので、人はその生物の種類と数を増やす作業をすることになります。
このように、近代農業と生態系を大切にする栽培とでは基本的な考え方が異なりますので、自ずとその手法も変わってきます。
今回は、そのうちの物理性の良い土、すなわち、ふかふかの土づくりをご紹介します。
土壌の物理性の良いふかふかな土づくりとは?
1.土壌の物理性とは
土壌は、土壌粒子である「固相」と、隙間の空気の部分である「気相」、さらに気相に水が入ると「液相」というふうに3つの相に分けることができ、これを三相構造といいます。
この三相構造のバランスの良い土が物理性の良い土であり、具体的には気相率のある程度高い土ということになります。気相割合が低いと、根の張るスペースが少ないほか、水を蓄えらませんし、土壌生物や根に必要な酸素も少なくなってしまいます。
また、土壌生物の棲家も確保できません。気相率の高い土づくりがふかふかな土づくりになります。
2.近代農業でのふかふかな土づくり
(1)耕す
気相率を高めるために、近代農業では耕します。耕されてふかふかになった土は「雨降って地固まる」のごとく、次第に気相が崩壊して硬くなるので、毎作、耕します。
耕耘機で耕した場合、土の表面20cmくらいのところしか耕せませんので、毎回それを繰り返すと、土壌の下30cmくらいのところが知らぬ間に鎮圧されて固くなり、岩盤層になってしまいます。
その結果、地下水が毛管現象で地上に上がってくるのを遮断し、コンクリートなどの人工地盤の上に土が30cm載っているのと同じような状態になります。そうなると、畑であっても夏には灌水しないと水が足りない状態、すなわち乾きやすい畑になってしまいます。
(2)土壌改良材を投入する
土壌改良材には、土壌pHの改善などの化学性の改良や、最近では土壌の生物性を改善するための資材などもありますが、多くは、空隙を多くするための物理性改良資材です。土壌改良材には生物由来のものと鉱物由来のものがあります。
生物由来のものは、バーク堆肥や腐葉土、籾殻、炭などの分解されにくい有機物で、鉱物由来のものは、パーライトやバミキュライトなど、鉱物を焼いて発泡させ、内部に空気を多く含む多孔質なものです。
このうち、土壌改良に用いる有機物は、すぐに分解されては効果が持続しませんので、難分解性のものであり、分解されて植物栄養になることを想定しておらず、肥料扱いしていません。これらの土壌改良材は土壌生物にとって害のあるものではありません。
3.生態系を大切にする栽培でのふかふかな土づくり
(1)耕さずに生物多様性を維持する
ふかふかな土づくりは土壌生物に行ってもらいます。そのためには耕しません。耕すと、次のことがおこって生態系が崩壊してしまいます。
- 土壌生物の棲み処が荒らされて棲みにくくなる
- 土壌表面を覆う植物がいなくなって砂漠状態となり、土が乾いて土壌生物が棲みづらくなる
- 地上の生物多様性が失われる
土壌生物が行う土づくりには次の2つがあります。
①土壌の団粒構造化
団粒構造とは、土の粒子である単粒同士がくっついた状態をいいます。この団粒がいくつも積み重なって大きな隙間を作りす。団粒構造の土では、団粒内の土壌粒子間の狭いすき間に、表面張力によって、毛管水となって水がとどまって「保水性が良い」状態となります。
一方で、団粒と団粒の間の大きな隙間の水は重力水となって流れて「排水性が良い」状態となります。従って、団粒構造の土は保水性、排水性ともに良く、酸素も豊富で根も健全に生育することになります。
この団粒化を図るには単粒と単粒をくっつける接着剤が必要で、その接着剤がミミズのヌルヌルやナメクジのネバネバ、カビのベタベタといった土壌中の生物の粘液などです。
従って、土壌中の生き物の豊かな土は、粘り気があり、耕さなくてもふかふかです。
②土壌生物の移動の跡や根の跡の空洞
ミミズは地表面と深さ1mまでの間を行ったり来たりして土を耕しています。また、ミミズの通り道にはさまざまな有用菌類が棲みついて植物に栄養を供給し、植物の根はミミズの栄養分を放出していて、ミミズの耕す深さと根の張る深さに関連が見られることも明らかになっています。ミミズ以外にも土壌中に多くの生物が棲んでおり、この生物多様性の増大することが土づくりには不可欠です。
また、植物が枯れると根の跡に空洞ができます。これも土を柔らかくする要因になっています。
生物に土をふかふかにしてもらう場合、人の行うことは、土壌生物のエサとなる有機物を投入すること、土壌生物が棲みにくくなるような苦土石灰や化学物質などを使用しないこと、土を耕さないことです。
耕さずに有機物を投入するには、有機物を漉き込まずに表面に積むということが基本になります。
不耕起栽培をしているハーブ農園の圃場。雑草は抜き取らずに、根を残して地上部を刈り取る。この圃場では、刈り取った地上部をそのままその場に積んで敷きつめている。
4.耕さないもう1つの大切な理由
―カーボンファーミングと4パーミルイニシアチブ
耕さないもう1つの大切な理由として、炭素固定があります。地球温暖化防止のため、二酸化炭素を排出せずに炭素を地中に長くとどめる「カーボンファーミング」が注目を集めています。具体的には「4パーミルイニシアチブ」と言って、毎年、地表30~40cmに、炭素量を4‰(0.4%)増加させることによって、人間活動で増加する二酸化炭素量を実質ゼロにしようという取り組みを行います。
剪定枝や収穫残渣などを土に戻したり、炭を作って地中に埋めたりなどの取り組みも行われていますが、基本は畑に草を生やすこと、耕さずに草は生やしたままにすること、地上部を刈り取っても根は残すことによって、根の炭素を地中に長く留めることです。
このように、自分の育てている小さな環境でも、耕さない栽培をすることで、地球温暖化防止に貢献することができます。
5.水はけの悪い土、水持ちの悪い土の対策
①水はけの悪い土とその対策
粘土質で水はけの悪い土を水はけのよい土にするには、兎に角、有機物を投入して土壌生物の種類や数を増やすことです。畜糞堆肥や腐葉土、籾殻、剪定チップ、刈り取った草、集めた落ち葉、剪定した枝、収穫残渣など、生物由来の有機物であれば何でも構いません。土の量よりも有機物の量が多いくらいが理想です。
雑草が生えてくれば、それを抜かずに地上部だけを刈り取って、根を地中に残します。刈り取った地上部はその場に積むか土をかけておきます。それを繰り返すことで、土壌生物の豊富な土になります。
畑全体に有機物を入れるのは大変ですから、畝だけで構いません。有機物と土との混ざったものを高く積み上げて30cm以上の高畝にすることで、雨が降れば通路が運河の様に冠水しますが、高畝部分は冠水を免れます。
畝は高ければ高いほど、根が水につかって根腐れすることを防ぐことができます。できれば、通路に水がたまらず流れるよう勾配をつけると良いでしょう。
②水持ちの悪い土とその対策
砂地の畑やガラの多い園芸培養土など、水持ちの悪い土では、植物に必要な水が欠乏するだけでなく、土壌生物に必要な水もなくなって生物が棲みにくくなりますし、栄養分が水と一緒に流れ去ってしまいます。
最近よく見かける軽い園芸培養土は、持ち帰ったり、作業したりするには都合良いですが、とても水持ちが悪く、乾きやすい欠点があり、ただでさえ土が乾きやすいプランターでは特に注意が必要です。
中でもヤシガラの多く配合されている土では、土が一旦乾いてしまうと、ヤシガラが水を弾いてしまい、鉢底から水が出るまでたっぷり灌水したにも拘らず、水は土の表面だけを湿らせて、土と鉢の間から全て流れ出てしまいます。
土壌表面の湿った土をちょっと触るだけでその下はカラカラということがよくあります。このような土の場合、水持ちの良い黒土などを混ぜるのがおすすめです。
粘土質の水はけの悪い土も、砂地の水持ちの悪い土も、兎に角、有機物を投入し続け、土壌生物を殖やすことが大切です。
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初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第63号 2023年4月