サイシンとアリストロキア酸
日本で副作用を起こした試料の分析結果
細辛(サイシン)は、ウスバサイシンの全草を乾燥したものであった。1992年、ベルギーでアリストロキア酸の腎臓障害が報告されたので、ウマノスズクサ科植物の成分が分析され、ウスバサイシンの地上部の葉と葉柄にアリストロキア酸が含有されていると判明したので、日本薬局方では地上部を除いた地下部の根茎と根が規定された。
1992年のランセットの記載では、痩身用の薬用植物で腎臓障害を起こしたという報道であった。この植物は、Stephania tetrandra 粉防已とMagnolia officinalis 厚朴であった。これらの植物にはアリストロキア酸が含まれていないが、製剤過程で材料を間違え、アリストロキア酸を含むAristolochia fangchi 広防已を混入させてしまった。服用した人はアリストロキア酸による腎臓障害を起こした。
日本では、1996~97年に関西で関木通キダチウマノスズクサAristolochia manshuriensisとよばれる中国製生薬を配合した健康食品を摂取した人に腎臓障害が報告された。この検体にアリストロキア酸が検出され、当時行った分析結果をHPLCチャートで示す。
アリストロキア酸が検出された植物は、ウマノスズクサ科の植物である。
学名 / 漢字名 和名 等
Aristolochia cinnabarina / 朱砂蓮(シュサレン)
Aristolochia clematis / ヨーロッパウマノスズクサ
Aristolochia contorta / 北馬兜鈴(ホクバトレイ)
Aristolochia debilis / 馬兜鈴(バトレイ)ウマノスズクサ
Aristolochia manshuriensis / 关木通(カンモクツウ)
Aristolochia moupinensis / 淮通(ワイツウ)、南木香(ナンモッコウ)
Aristolochia yunnanensis / 青木香(セイモッコウ)
Asiasarum heterotropoides var. mandshuricum / 细辛 鶏林細辛 ケイリンサイシン
Asiasarum sieboldii / 薄葉細辛 ウスバサイシン
1)サイシン
日本薬局方の基原植物の全草であったが、アリストロキア酸の含有の問題があってから、地上部が除去され、根、及び根茎であると記載された。基原植物は、ケイリンサイシンAsiasarum heterotropoides var. mandshuricum またはウスバサイシンAsiasarum sieboldii (Aristolochiaceae ウマノスズクサ科)である。
生薬の性状では、本品はほぼ円柱形の根茎に多くの細長い根を付けたものである。外面は淡褐色~暗褐色を呈する。根は長さ約15cm、径0.1 cm、浅い縦じわがあり、折れやすい。根茎は長さ2 ~4cm、径0.2~0.3cm、しばしば分枝し、縦じわがある。節間は短く、各節には僅かに葉柄や花柄の残基及び数本の細長い根を付ける。
本品は特異なにおいがあり、味は辛く舌をやや麻痺させる。確認試験は薄層クロマトグラフィーで、アサリニンのスポットと色調及びRf値が等しいこと。純度試験は地上部を含まないこととアリストロキア酸Ⅰを液体クロマトグラフィーで測定し、ピーク面積の相対標準偏差は5.0%以下であることを規定している。
2)国産が渇望される防已(オオツヅラフジ)
オオツヅラフジは、学名 Sinomenium acutum(ツヅラフジ科)で、落葉性のつる植物である。薬局方の防已は茎及び根茎で、通例、横切したものである。
オオツヅラフジの採集は、四国の吉野川上流の深山で野生植物が採集されているが、近年はさらなる奥地で採集されている。国内の新しい産地として、四国と類似した環境の神奈川県大山や山梨県南部の渓流沿いが候補地となった。山梨で採集したものは、太く、品質のよいものであった。
高野研究室では、野生地の探索と栽培も試みられている。
【写真提供】
①⑩:昭和薬科大学 薬用植物園 中野 美央氏
②:昭和薬科大学 薬用植物園 佐竹 元吉
③④⑤⑥:株式会社栃本天海堂 松島 成介氏
⑦⑧⑨:昭和薬科大学 薬用植物園 高野 昭人氏
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第63号 2023年4月