NRF2活性化を介したNLRP3インフラマソーム活性阻害に起因する、ローズマリー由来カルノシン酸のアルツハイマー病・パーキンソン病およびLong COVIDの予防や治療に対しての有効性
ローズマリー (シソ科Rosmarinus officinalis ) は、容易に入手でき、なおかつ美味しさで人気のあるハーブであり、多くの国で伝統的な薬用植物として用いられている。
ローズマリーにはカルノシン酸とカルノソールといったアビエタン型フェノール性ジテルペンが含まれており、これらがその生物学的および薬理学的作用の要因となっているが、ロスマリン酸の寄与も主張されている。
今回紹介するレビューは、NLRP3インフラマソームの阻害を介して、アルツハイマー病、パーキンソン病、およびSARS-CoV-2感染症(新型コロナウィルス症、COVID-19)に対する カルノシン酸およびカルノソールの作用を調べることに焦点を当てたものであり、以下の報告があった。
1)カルノシン酸は、KEAP1/NRF2 転写経路の活性化によって開始されるフェーズ 2 酵素誘導を介して、抗酸化、抗炎症、および神経保護効果を発揮し、NLRP3 活性化を減衰させる。
2)カルノシン酸関連化合物は、肺上皮細胞および血管内細胞内およびその周囲の炎症の結果として、マクロファージから発生するサイトカインストームに起因する「Long COVID」と呼ばれるSARS-CoV-2感染の脳関連後遺症に対する治療薬として役立つ可能性がある。
不安や「ブレインフォグ」などの神経学的後遺症は、パンデミックとパンデミック後の両方の期間で大きな問題になりつつあり、多くの報告では、制御されないNLRP3 インフラマソームの活性化が、COVID-19 の重症度とその余波に寄与している可能性があるとされていることから、NLRP3インフラマソーム活性の抑制は、急性肺疾患と慢性神経学的後遺症の両方に対して有効である可能性がある。
カルノシン酸は全身的に作用するだけでなく、血液脳関門を通過して脳に到達し、神経保護効果を発揮することが示唆されているため、カルノシン酸またはカルノシン酸を含むローズマリー抽出物が、新型コロナウィルス感染によって引き起こされる急性および慢性の両方の病理学的事象、ならびにアルツハイマー病およびパーキンソン病を含む他の慢性神経変性疾患に対する効果的な対策となる可能性があり、期待されるところである。
〔文献〕
Satoh T, Trudler D, Oh CK, Lipton SA. Potential Therapeutic Use of the Rosemary Diterpene Carnosic Acid for Alzheimer’s Disease, Parkinson’s Disease, and Long-COVID through NRF2 Activation to Counteract the NLRP3 Inflammasome. Antioxidants (Basel). 2022 Jan 6;11(1):124.
〔参考〕
インフラマソーム:
炎症反応を惹起するための細胞内タンパク質複合体で、脳における生理的機能や病態において炎症が重要な役割を持つ。インフラマソームを構成するタンパク質の1つであるパターン認識受容体が、病原体の感染や組織傷害を感知して活性化されることにより、インフラマソームの活性化(インフラマソーム複合体を形成)のトリガーとなる。インフラマソーム複合体は最終的にカスパーゼ-1を活性化し、炎症性サイトカインIL-1β/IL-18を放出させて炎症を惹起するほか、パイロトーシスと呼ばれる細胞膜の崩壊を伴うプログラム細胞死を誘導して、神経病態に関与することが確認されている。
NLRP3:Nucleotide-binding oligomerization domain-like receptor family, pyrin domain-containing
樹状細胞、単球、マクロファージ等の抗原提示細胞に発現するタンパク質である。その発現は、炎症性シグナルによって誘導され、自然免疫とT細胞のプライミングに重要なメディエーターであり、NLRP3インフラマソームの形成に関与している。
NRF2: NF-E2-related factor 2
細胞核内に蓄積し転写因子としての機能を発揮するとともに、酸化ストレスへの応答として、抗酸化タンパク質や解毒のための酵素を産生し、体内で重要な抗酸化物質であるグルタチオンの合成を促すことにより細胞をストレスから守る。
さらにNRF2は、増殖中の細胞でも重要な役割を果たしている。細胞が分裂後も機能し続けるには、分裂前の細胞が持っていた資源を2倍に増やす必要がある。DNA(デオキシリボ核酸)は細胞のなかでも特に重要な部品で、NRF2は、DNAをつくる材料となる「核酸」の合成を活性化する。このように、NRF2は、私たちの細胞が正常に機能するよう見守る番人であり守護者であると言える。