2023.5.2

スイカズラ花抽出物の酸化ストレス阻害による好中球性炎症の軽減

日本メディカルハーブ協会学術委員

村上志緒

スイカズラ(スイカズラ科 Lonicera japonica)は、日本にも自生する植物で、初夏のころに甘い香りを漂わせ、夏に向かう季節を感じさせてくれる。アジアの伝統的なハーブでもあり、熱を取り除き、喉の渇きを癒すために、お茶やドリンク、栄養補助食品として用いられている。

今回紹介する論文では、日本をはじめアジアで親しまれているスイカズラの花の伝統的な活用から、新型コロナウィルス感染症での炎症に対する効果を期待して検討された研究である。

新型コロナウィルス感染症では、活性化されたヒト好中球による肺の炎症と呼吸不全の悪化により予後不良がみられることがあるが、スイカズラ花のこれらに対する影響について検討した報告はないことから、これらの症状に影響を与えるか否かについて検討するために、fMLF(N-ホルミル-メチオニル-ロイシル-フェニルアラニン)によって活性化されたヒト好中球に対するスイカズラ花のエタノール抽出物の抗炎症効果を評価したものである。

以下を、結果として得た。

  1. スイカズラ花抽出物での処理により、酸化、炎症に関与するfMLFでの活性化によるスーパーオキサイドアニオンの生成、CD11b の発現、細胞接着と移動、ヒト好中球における好中球細胞外トラップの形成を抑制した。
  2. スイカズラ花抽出物による前処理は、Ca2+ クリアランスを促進するが、活性化ヒト好中球におけるMAPK(マイトジェン活性化プロテインキナーゼ)およびAkt(プロテインキナーゼB)のリン酸化には影響しなかった。
  3. スイカズラ花抽出物は用量依存的に活性酸素種(ROS)スカベンジャー活性を示し、抗炎症作用を示した。
  4. バイオアッセイと組み合わせたクロマトグラフィーから、クロロゲン酸がスイカズラ花の抗炎症作用の要因であることが示唆された。
  5. スイカズラ花抽出物は、新型コロナウィルス感染時に起こるスパイクタンパク質 (SARS-CoV-2-Spike)とアンギオテンシン変換酵素 2 (ACE2) の結合を阻害する作用を示した。

これらの結果は、スイカズラ花の伝統的な活用について支持するだけでなく、感染症への対処として日常のヘルスケアへ活用することの有用性を示唆している。

本研究で注目している好中球は、感染に対する生体防御の最前線ではたらく炎症細胞で、主に急性の炎症に関与すると考えられている。血中の好中球が炎症局所に滲出、遊走、組織中に存在するマクロファージや血管内皮細胞は様々な炎症性サイトカインを産生、それが過度になることによる重篤化は大きな問題であり、スイカズラ花抽出物が奏効する可能性が期待されるのは良いニュースといえるだろう。

〔文献〕

Kuei-Hung Lai et.al., Lonicerae Japonicae Flos Attenuates Neutrophilic Inflammation by Inhibiting Oxidative Stress. Antioxidants. 2022 Sep 9;11(9):1781.

〔参考〕

fMLF:formyl-methionyl-leucyl-phenylalanine
別名N-ホルミル-L-メチオニル-L-ロイシル-L-フェニルアラニン、fMLPといわれる走化性ペプチドである。強力な多形核白血球走化性因子であり、マクロファージ活性化因子でもある。

CD11b:
分子量170,000の糖タンパクで、単球、顆粒球、NK細胞、活性化B細胞などの表面にみられるマーカー、分子構造は補体不活性型第3成分B(C3bI)のレセプターCR3であり、食細胞運動に関与している。CD11bは末梢血単球および顆粒球に存在するが、NK細胞,CD8陽性細胞の一部にも発現している。

MAPK:Mitogen-activated Protein Kinase
MAP キナーゼ、分裂促進因子活性化プロテインキナーゼと言われる。代謝、増殖、分裂、運動、アポトーシスなど、細胞のさまざまな機能に関与するセリン/トレオニン・キナーゼ(Ser/Thr kinase)。

Akt:serine/threonine kinase 1
セリン/スレオニンキナーゼAkt(プロテインキナーゼBとも呼ばれる。アポトーシス促進タンパク質の直接阻害、または転写因子によって産生されるアポトーシス促進シグナルの阻害を介して、細胞の生存へ作用する主要なメディエーターである。