バクモントウとジャノヒゲ
風邪で咳が出て、顔が赤くなったことがあった。薦められた漢方薬が麦門冬湯であった。早速自分で調剤して自分で飲んだところ、咳は止まり顔も赤味がなくなった。麦門冬湯の構成生薬は、麦門冬、半夏、人参、粳米、大棗、甘草の6種で、緩和な生薬が配合されているだけで、劇的に効くことが不思議であった。
麦門冬湯の代表的生薬の麦門冬(バクモントウ)を記載してみる。麦門冬は、日本と中国の薬局方に記載されている生薬で、ジャノヒゲの紡錘形の根が基原である。
根が肥大したものにサツマイモがある。根が栄養の貯蔵器官であることの証明である。根は放射中心柱であり、中央部分に維管束が存在する。
①ジャノヒゲの根
生薬のバクモントウを調製するのに芯抜きが行われていた。芯を抜くことで、柔らかい生薬が生産されていた。この方法は、河内長野市で、大和の生薬づくりとして受け継がれていた。
麦門冬は、ジャノヒゲの根の紡錘形の部分を採取し、乾燥させたものである。表面に細かなしわがあり、淡黄白色あるいは灰色がかった淡褐色である。これをさらに加熱して柔らかくし中の芯を抜いたものが良品である。大型で、質が柔らかく香気があり、味が甘く、噛むと粘るものが良品とする。
ヤブランも麦門冬にされることがある。
②麦門冬
ジャノヒゲはユリ科植物で、類似した植物にヤブランがある。この類は、線条の葉をもち、叢生し、花は総状に咲く。この違いとして、ジャノヒゲ属は、子房は半下位、花糸は短く、葯は鋭頭。果皮は剥がれやすく種子は裸出する。種子は藍青色である。ヤブラン属は房上位で、花糸は明で、葯は長楕円形で鈍頭、種子は紫黒色である。
③ジャノヒゲ属:ジャノヒゲ(左)ノシラン(右)ヤブラン属:ヤブラン(中央)
④ジャノヒゲの花
⑤ジャノヒゲの果実
ジャノヒゲ属は、太く短い根茎あり。
細い匍匐枝を出す。
葉は又は広線形、革質、叢生。
花茎は葉を欠き、花序は総状、頂生、花は小形、淡紫色から白色、広釣鐘形、通常点頭、小梗は中部または花の下に関節ある。
花被片は6個、雄ずいは6個、花糸は甚だ短い、葯は披針形で、鋭頭、子房は半下位、3室、各室に2個の卵子ある。
花柱は柱状、柱頭は小形。
種子は早期に裸出し、成熟して球形、通常、藍碧色である。
ジャノヒゲ属は国内に4種分布しており、
- ノシラン:葉の幅10〜15mm、長さ30〜80cm、小梗は長さ1〜2cm、匍匐枝を欠く。
- オオバジャノヒゲ:葉は幅4〜6mm、長さ30〜50cm、小梗は長さ4〜10mm。根茎に匍匐枝なし。
- ジャノヒゲ:葉は幅2〜4mm、葉は長さ10〜20cm。根茎は通常匍匐枝あり。小梗は短い。
- ナガバジャノヒゲ:葉は幅0.5〜2.5mm、長さ30〜40cm。著しく叢生。根茎は通常匍匐枝を欠く。
⑥ノシランの果実
ヤブラン属は、太く短い根茎あり、細い匍匐枝を出す。
葉は線形で、叢生。
花茎は葉を欠き、花序は総状、頂生、花は小形、関節ある短い小梗あり、半球形、淡紫色、梗の基部に苞及び小苞あり。
花序は総状、頂生。花被片は6個、離生、同形、斜上、膜質で宿存する。
雄ずいは6個、花糸は太く糸状、葯は長楕円形。離生、同形、斜上、膜質にてやや宿存する。
雌ずいの花柱は小形、子房は上位、3室、各室に2個の卵子あり。
果皮は膜質にして早く脱落する。
早期に種子を露出。
種子は1個または数個、球形、やや肉質の種皮あり。紫栗色である。
ヤブラン属は国内に3種分布する。
- ヒメヤブラン:葉の幅2〜3mm、花茎は高さ10〜15cm、根茎は匍匐枝がある。
- コヤブラン:葉の幅4〜7mm、花茎は高さ30〜50m、花は少ない。茎は匍匐枝がある。
- ヤブラン:葉の幅8〜12mm、花茎は高さ25〜40cm、多数の花をつける。根茎は匍匐枝を出さない。
⑦ヤブランの花
⑧ヤブランの果実
【写真提供】
①②:株式会社栃本天海堂 松島 成介氏
③⑥:昭和薬科大学 薬用植物園 中野 美央氏
④⑤⑦⑧:元昭和大学薬学部 磯田 進氏
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第64号 2023年6月