オタネニンジンの植物学と栽培
今回は、オタネニンジンの特徴や栽培方法などを、植物学の視点で解説します。
分類・名称
分類
オタネニンジン(Panax ginseng C.A.Mey.)はウコギ科(Araliaceae)パナクス(トチバニンジン)属(Panax)の多年草です。
ウコギ科には43属1,813種が知られています(※1)。パナクス属(32種)以外に、シュフレラ(カポック)、ブラッサイアなどフカノキ属(Schefflera;539種)、エゾウコギやヒメウコギ、ヤマウコギ、ウラジロウコギ、オカウコギなどのエレウテロコックス(ウコギ)属(Eleutherococcus; 37種)、ウドやタラノキなどアラリア(タラノキ)属(Aralia;102種)、ヘデラ・カナリエンシス(オカメヅタ)やヘデラ・ヘリックス(アイビー)、キヅタ(フユヅタ)などのヘデラ(キヅタ)属(Hedera;30種)のほか、コシアブラ属(Chengiopanax;2種)、ハリギリ属(Kalopanax;2種)、カクレミノ属(Dendropanax;104種)、チドメグサ属(Hydrocotyle;184種)、タカノツメ属(Gamblea;4種)、ヤツデ属(Fatsia;3種)などがあります。
ウコギ科には、メディカルハーブや野菜、山菜、観賞植物などが熱帯を中心に世界中に分布し、日本に自生するものも多い特徴があります。
パナクス属の32種は主として東アジアに分布し、ベトナムや北米にも見られ、日本にはトチバニンジンが固有種として自生しています(下記:主要なPanax(パナクス属)植物参照)。
(※1)World Flora Online:The Plant Listを引き継ぐかたちで、ミズーリ植物園、ニューヨーク植物園、王立植物園エジンバラ、王立植物園キューの4植物園によって2012年に立ち上げられ2020年から公開されている植物リストのオープンアクセスデータベース。
情報は日々アップデートされており、今回の数字は2023年8月1日現在のもの。53属掲載されているものの、そのうちの10属は未調査でアクセプトされていない。
名称
属名のPanax(パナクス)は、古代ギリシャ語で「all」を意味する「πᾶν (pân)」と「cure」、「remedy」を意味する「ἄκος (ákos)」の合成語で「万病を治す」、「万能薬」を意味し、オタネニンジンが中国医薬で広範囲に利用されていることからリンネが名付けたとされています。
ちなみに「万能薬」を意味する英語のpanaceaはギリシャ神話の癒しの女神パナケイア(Panakeia)(ローマ神話ではパナケア(Panacea))に由来し、パナクスと同じ語源とされています。
種小名のginseng(ギンセング)は中国語の「人参(人蔘)」の泉漳語の発音「jîn-sim」から来ているという説と古代中国での呼び名の「常参(xiangshen)」から来ているなどの説があります。
なお、中国名の「人参」はもともと「人薓」と、「浸」の古字で表記され、根が浸漸(次第に浸み込むこと、ゆっくり状態が進むこと)して人の形になることに由来するとされています。
和名の人参も、もともとPanax ginseng C.A.Mey.(オタネニンジン)を指していました。ところが、西洋からセリ科の野菜のニンジン(Daucus carota subsp. sativus (Hoffm.) Arcang.)が伝わると、野菜のニンジンは当初、オタネニンジンの根に似ることから芹人参と称されていましたが、江戸時代に普及して単に人参と称されるようになり、逆に、オタネニンジンの方が、野菜のニンジンと区別するために)御種人参と称されるようになりました。
御種人参は、江戸幕府が各藩に種子を分け与えて栽培を奨励したことに由来します。和名はほかに、チョウセンニンジン(朝鮮人参)やコウライニンジン(高麗人参)、ヤクヨウニンジン(薬用人参)などと呼ばれます。
英名はginsengやAsian ginsengで、産地によってChinese ginseng、Korean ginseng、Japanese ginsengとも呼ばれます。
人とのかかわりの歴史
中国では、最古の本草書である『神農本草経』(200頃までに成立か)の上品に「人参」が収載されています。しかし、この人参はオタネニンジンではなく、キキョウ科の「細葉沙参(Adenophora triphylla (Thunb.) A.DC.)」とする説があります(倪ら、2012)。
この論文では、オタネニンジンは朝鮮から伝来したものの中国には自生しておらず、根の形が似ていた細葉沙参を代用していた可能性が高いと考察しています。一方、『中薬大辞典』では『神農本草経』の人参はキキョウ科の「党参(ヒカゲツルニンジンCodonopsis pilosula Nannf.)」としています。
韓国の文献では『三国史記』(1145年)の記載が初出とされていますが、中国の文献からは、韓国ではかなり古くから野生のものを採集して利用していたことがうかがえます。18世紀初頭には韓国で初めて栽培に成功しました。韓国では薬用以外に、古くからインサムチャ(人参茶)で飲用されるほか、1960年代以降、サムゲタン(参鶏湯)が普及しました。
日本では、739年に渤海国から生薬として進呈されたのが最初の渡来の記録とされ(川島、1993)、正倉院にも保存されています。
その後、江戸時代初期に対馬藩から幕府に種子もしくは生根が献上され、幕府の御薬園で、韓国よりも早く、世界で初めて栽培化に成功、各藩に種子を配布して栽培を奨励しました。
現在では、福島、島根、長野、山形で生産されていますが生産量はごく僅かです。日本は古くから韓国からの輸入に頼っていましたが、韓国からの輸入量は1987年をピークに減少、1989年以降は中国産の比率が高くなり、現在はほとんどが中国産となっています(柴田敏郎、2016)。
オタネニンジンは、加工法の違いによって分類されます。皮を剥き、根を天日で乾燥させたものを「白参」、皮を剥かずに蒸して乾燥させたものを「紅参」と呼びます。日本薬局方では白参を「ニンジン(人参)」(粉末は「ニンジン末」)、紅参を「コウジン(紅参)」と呼んでいます。白参はさらに、乾燥時の太い側根の曲げ方によって、「直参」、「曲参」、「半曲参」に分類されます。
このほか、皮つきで天日乾燥したものを「生干」といいます。また、細根を取って皮つきのまま軽く湯通し(85℃で10分程度)して乾燥させたものを「湯通し」とよび、そのうち天日乾燥のものを「信州製」、火力で加熱乾燥させたものを「雲州製」と呼びます。
紅参は、2~4時間蒸して70℃程度で6時間加熱乾燥後さらに加熱もしくは天日乾燥させ、日本産のものは細根をつけたまま蒸して乾燥させますが、中国、韓国産のものは細根を取り除いて蒸して乾燥させます。
このほか、ひげ根を乾燥させたものや、1、2年生の間引き根を乾燥させたものなどが、虎、白芯、切干、尾参、束毛、毛などに細分されて「雑参」として無駄なく利用されています。そのほか、根は人参エキスや、砂糖漬の「糖参」、蜜漬、人参酒、人参茶などに加工利用されます。
果実はジンセンベリーと呼ばれ、ティーやサプリメントなどに加工されています。
1968年にブレクマン博士らによってアダプトゲンが定義されて以降は、無毒で、ストレス緩和や、免疫系・内分泌系の正常化、滋養強壮、抗酸化などの働きがあるとして注目されています。
中薬利用
中薬大辞典(1988)によると、中薬では、オタネニンジンの根を「人参」と呼び、そのうち自国で栽培されるものを園参、野生のものを野山参(山参)、野山参を畑に移植もしくは園参を山野に移植したものを移山参、朝鮮半島産のものを朝鮮人参、日本産のものを東洋参と呼んでいます。
また、加工法によって「紅参類」、「糖参類」、「生晒参類」、「その他」に分けられます。
「人参」(根)には、大いに元気を補う、脱を固め津液を生じる、精神を安らかにする効能があり、癆傷虚損、小食、倦怠、反胃吐食、虚咳喘促、眩暈頭痛、頻尿、消渇、婦女崩漏、小児ひきつけなどを治すとされています。
また、細い側根やひげ根を「人参鬚」と呼び、加工方法によって紅直鬚、白直鬚、紅湾鬚、白湾鬚などがあり、咳による吐血や口の渇き、胃虚嘔吐などに用います。
根の上部にある根茎を「人参蘆」と呼び、吐剤として、根茎から出る不定根を「人参条」と呼び、止渇や気を補うのに用いられます。このほか、乾燥させた葉を「人参葉」と呼び、肺や胃の疾患に用いられるほか、ホジキン病の治療にも用いられています。
しかし、現在では市販品のほとんどがトチバニンジン(大葉三七)の葉で代用されています。さらに、花を「人参花」と呼び、紅糖漬けしたものを茶で服用して興奮作用を得るのに、果実を「人参子」と呼び、発疹の出ない痘に病像を出現させ水疱を作るのに用いられます。
オタネニンジン以外にもパナクス属には中薬利用されるものがあり、表に示しました。
形態・成分
セリ目に属するウコギ科では、精油を油管に含有するなどセリ科との共通点が見られます。パナクス属には、ジンセノサイド(ギンセノシド、パナクソサイド)を含有するなどの共通点が見られます。
オタネニンジンは草丈60cmの多年草で、栽培する場合は播種から4~6年で収穫されます。主な利用部位は根で、「胴体」とも呼ばれる主根が肥大し、「足」とも呼ばれる太い側根(支根)と、「尾」とも呼ばれる細根からなり、かつては人の形に見えるほど高品質とされました。
また、肥大根の頂部には、「脳頭」とも呼ばれる小さなこぶ状の根茎(地下茎)を有し、根茎から地上に1~数本の茎(地上茎)を伸長させます。地上茎は円柱形で無毛、茎頂に5枚の小葉を基本(3、7枚の場合あり)とする5出掌状複葉を輪生します。葉数は株の年齢に依存し、1年生株で3出複葉を1枚、2年生株で5出複葉を1~2枚、3年生株で5出複葉を2~3枚と年々葉数が増え、4年生以上の株で5出複葉を最大で5~6枚着けます。
花は、葉の輪生している茎頂からさらに花茎を10~20cm伸長させた先端に着生し、最大40個程の小花からなる散形花序を形成します。小花は直径2~3mmで、5枚の白色の花弁、5裂する緑色の萼、5個の雄しべ、1個の雌しべからなります。
果実は、直径5~10mmの扁球形の核果で赤熟し、中に直径5mm程度の種子を2個含有します。
オタネニンジンに特有の成分としては、配糖体のニンジンサポニンがあり、主根に5%、細根に12%、葉に10%、蕾に26%、果肉に22%程度含有し、その中でも主根や細根などの根にはジンセノサイドRb1、Rc、Rg1が、蕾と花、果実にはジンセノサイドReが特に多く含まれています。
このうち、果実(ジンセンベリー)にはジンセノサイドReが根の30倍含有されているほか、抗炎症作用のあるシリンガレシノールも含有し、皮膚の老化防止を軽減することが報告されています(Choi et.al. 2022)。
また、根には精油を0.05%含有し、β-エレメンなどが特有の香り成分になっています。
性状と栽培
朝鮮半島、中国原産で、中国東北部、朝鮮半島、ロシア沿海州の山林に、直射日光の当たらない下草として自生しており、寒さに強く、暑さと直射日光を嫌います。
かつては「野参」(中国では野山参、韓国では山参)と呼ばれる野生のものを採集していましたが、現在は林間栽培もしくは畑で日覆栽培されます。林間栽培されるものを韓国では「山養参」と呼びます(大隅、1984)。
繁殖は種子で行います。種子休眠があり、自然状態では夏に結実してこぼれたタネが発芽するのは2年後の春ともいわれています。したがって、発芽を促進するためにいくつかの処理を行います。
まず、果実には発芽抑制物質がありますので、果実収穫後によく水洗いして果肉を完全に取り除きます。次に、種子休眠を打破します。種子休眠は自発的休眠で2段階に分けられています。
第1段階は胚の未熟が原因で起こる形態的休眠で、湿らせた無菌状態にして一定期間置いて打破します。一般には、砂:種子を6:4に混ぜ、湿らせた状態でまず25℃に1カ月おき、その後15℃に3カ月置きます。これにより、種皮が割れて胚が見えるようになり、これを「芽切り」といいます。
休眠打破の第1段階は芽切り処理であり、芽切りを確認したら、第2段階の休眠打破に移ります。
第2段階は一定の低温に一定期間置かないと発芽しない生理的休眠です。生理的休眠打破のためには、湿らせた状態で5℃に3カ月以上置く低温処理をします。以上のように、合計7カ月かけて芽切り処理と低温処理の2段階の発芽促進処理を行うことで休眠が打破され、これにより発芽までの日数を3カ月以上短縮できるとされています(川嶋ら、2021)。
芽切り処理だけをした場合は秋播きして自然に低温に遭遇させて春の発芽を待ちます。一方、芽切り処理と低温処理の両方を済ませた場合には春播きをするのが一般的です。直播きして2年目以降に間引きをしながら収穫していく方法と、育苗して2~3年目に移植をする方法があり、育苗して移植するほうがよいとされています。
直射日光を嫌うため、日覆が必須で、90~95%遮光する必要があります。
秋には地上部が枯死しますが、根を掘り上げたりせず、冬期も植えっぱなしで翌春の萌芽を待ちます。
根は年数の経つほど肥大して良品になりますが、植付けから7年以降では根の腐敗率が高く、木化して品質の低下することから、6年以内に収穫します。
花は3年生株から着き始めます。ただし、結実させると根の成長の妨げになることから早期に摘花し、4~6年生株に1度だけ果実を着生させて採種します。種子は脱気して密閉し冷蔵もしくは冷凍することで2年間は保存可能です。
オタネニンジンは連作障害が激しく、一度栽培した畑には二度と栽培できないと言われてきました。連作障害の原因はアレロパシーのような自滅物質ではなく、根腐病やネグサレセンチュウといった病害虫ですので、フレンチマリーゴールドなどの対抗植物の混植や土壌消毒することで連作が可能です。
引用文献
Choi, W., Kim, H. S., Park, S. H., Kim, D., Hong, Y. D., Kim, J. H., Cho, J. Y. 2022. Syringaresinol derived from Panax ginseng berry attenuatesoxidative stress-induced skin aging via autophagy. Journal of Ginseng Research. 46(4). 536-542.
中薬大辞典. 1988. 上海科学技術出版社・小学館編. 東京.
五十嵐裕二.2019.オタネニジンの新しい「国産化」生物工学会誌.97(4).236-238.
川嶋浩樹(研究代表).2021.薬用作物栽培の手引き~薬用作物の国内生産拡大に向けて~オタネニンジン編.薬用作物コンソーシアム.
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/Otaneninjin_warc_man2021.3.15.pdf
川島祐次.1993.朝鮮人参秘史.p.18.八坂書房.東京.
倪欺然、坂本郁穂、御影雅幸.2012.漢方生薬「人参」の原植物に関する史的考察.薬史学雑誌.47(2).127-
133.
大隅敏夫.1984.オタネニンジン.財団法人日本公定書協会編.新しい薬用植物栽培法.p.77-87.廣川書店.東京.
柴田敏郎.2016.薬用作物の栽培技術について .薬用作物産地支援栽培技術研修資料.国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所薬用植物資源研究センター.
https://www.jadea.org/houkokusho/yakuyoudocuments/H28yakuyou_touhoku_2.pdf
World Flora Online. 2022.
http://www.worldfloraonline.org/
図1.オタネニンジンの全草。この図では茎頂から葉(5出掌状複葉)が2枚出て、更に花茎が伸びて果実が着いている。葉の枚数は生育年数に依存し、葉が2枚出るのは2~3年生株。葉は1年ごとに1枚ずつ増え、同じ茎頂にリング状に輪生する。充実した果実の形成は、一般には葉が茎頂に4~5枚輪生する4年目以降。
図2.オタネニンジンの葉。1枚の葉は5枚の小葉(リーフレット)からなり、5出掌状複葉と呼ばれる。もともと丸葉で単葉だったものが5本の葉脈を残して欠刻が深くなり、小葉が島状に取り残されたかたち。
図3.オタネニンジンの地下部。主な利用部位は根で、「胴体」とも呼ばれる肥大した主根、「足」とも呼ばれる側根、「尾」とも呼ばれる細根からなる。根の上部に「脳頭」とも呼ばれる根茎(茎)がある。
主要なPanax(パナクス属)植物。 学名はWorld Flora Online(WFO)に従った。
Panax bipinnatifidus Seem.
学名:Panax bipinnatifidus Seem.
学名のラテン語読み:パナクス・ビピンナティフィドゥス
種名の意味:2回羽状中裂の
主なニシノム
Aralia bipinnatifida (Seem.) C.B.Clarke, Panax japonicus var. bipinnatifidus (Seem.) C.Y.Wu & Feng, Panax major (Burkill) K.C.Ting ex C.Pei & Y.L.Chou, Panax pseudoginseng subsp. himalaicus H.Hara
一般名(ない場合は学名のラテン語読み):
ウヨウサンシチニンジン(羽葉三七人参)、ヒマラヤニンジン、珠子參
原産・分布
ネパール、インド北部、ミャンマー、タイ、ブータン、中国中南部に分布
特徴・利用
本種をヒマラヤニンジンと称することがあるため、別種のヒマラヤニンジン(P. pseudoginseng Wall.)との間に混乱が見られる。多年草。草丈70cm。地下茎が匍匐し、各節に根茎が肥大し、節から細根を出す。掌状複葉を3~5枚輪生する。中薬では、根茎を「羽葉三七」と呼び、乾燥させて止血や打撲傷、鼻血、吐血、肺結核患者の疲労、労傷腰痛などの治療に用いる。ヒマラヤニンジンと共に、乳がんや胃がんの原因ともなるチロシンキナーゼ阻害物質の研究が行われている。本種には2変種が知られており、P. bipinnatifidus var. angustifolius (Burkill) J.Wenはインドシッキムや中国四川、貴州に自生し、四川では根茎を「竹節七(チクセツシチ)」と呼び、「竹節三七」同様に中薬利用する。また、P. bipinnatifidus var. bipinnatifidusは「秀麗仮人参(シュウレイカニンジン)」と呼ばれ、「人参三七」同様に用いる。
Panax ginseng C.A.Mey.
学名:Panax ginseng C.A.Mey.
学名のラテン語読み:パナクス・ギンセング
種名の意味:人参の支那名
主なシノニム:Aralia ginseng (C.A.Mey.) Baill., Panax verus Oken
一般名(ない場合は学名のラテン語読み)
オタネニンジン(御種人参)、チョウセンニンジン(朝鮮人参)、コウライニンジン(高麗人参)、ヤクヨウニンジン(薬用人参)、人参(ニンジン)、ジンセン、ginseng, Asian ginseng
原産・分布
朝鮮半島、中国原産。中国東北部、朝鮮半島、ロシア沿海州に自生。
特徴・利用
多年草。草丈60cm。葉は5出掌状複葉で茎頂に3~5枚輪生する。茎頂から花茎が伸長して開花、果実は赤熟する。主な利用部位は根で、主根が肥大し、又根や側根などで人の形に見えることが人参の名の由来。ニンジンは本来、本種を指し、セリ科のニンジンはかつてセリニンジンと称した。「御種人参」の名は江戸幕府が各藩に種子を配って栽培を奨励したことに由来。サムゲタンやインサムチャなどで食用にするほか、伝統的に胃腸虚弱や食欲不振、病後の回復、疲労回復、滋養強壮などに用いられる。ジンセノサイドなどのニンジンサポニンを含有し、ストレスに対する適応能力を高めるアダプトゲンとされる。良品の根を収穫するには5~6年を要する。韓国、中国、台湾、日本、ロシアで生産。
Panax ginseng C.A.Mey.
学名:Panax ginseng C.A.Mey.
学名のラテン語読み:パナクス・ヤポニクス
種名の意味:日本の
主なシノニム
Aralia japonica (T.Nees) Makino, P. ginsen var. japonicus (Nees) Makino, P. pseudoginseng var. japonicus (C.A.Mey.) G.Hoo & C.J.Tseng
一般名(ない場合は学名のラテン語読み)
トチバニンジン(栃葉人参)、チクセツニンジン(竹節人参)、大葉三七(オオバサンシチ)竹節參、Japanese ginseng
原産・分布
日本原産。北海道~九州に自生
特徴・利用
多年草。草丈60~80cm。横に広がる地下茎が根茎のように肥大し、竹のように節を作ることから竹節人参とも呼ばれる。葉は掌状複葉で茎頂に3~5枚着く。小葉は5枚。果実は赤熟する。「トチバニンジン」の名は葉がトチノキに似ていることに由来。根茎にチクセツサポニンを含有。江戸時代初期に薩摩領内でオタネニンジンの代用として使用したのが始まりで、以後根茎を生薬に。中薬では根茎を「竹節三七」と呼び、鎮咳や去痰、鎮止血、健胃作用があるほか、吐血や気管支炎、打撲にも利用。
Panax notoginseng (Burkill) F.H.Chen.
学名:Panax notoginseng (Burkill) F.H.Chen.
学名のラテン語読み:パナクス・ノトギンセング
種名の意味:南のginseng種の
主なシノニム
Panax pseudoginseng var. notoginseng (Burkill) G.Hoo & C.L.Tseng
一般名(ない場合は学名のラテン語読み)
サンシチニンジン(三七人参)、デンシチニンジン(田七人参)、キンフカン(金不換)、サンシツ(山漆)、人参三七(ニンジンサンシチ)、pseudoginseng, Chinese ginseng, notoginseng, three-seven root, mountain plant
原産・分布
中国南部原産。雲南省~広西チワン族自治区が産地
特徴・利用
多年草。草丈60cm。根は肥大し長さ2~5cm、直径1~3cm。葉は掌状複葉で茎頂に3~4枚を輪生、小葉は3~7枚。果実は赤熟する。「サンシチニンジン」の名は収穫まで3~7年かかることに由来。16世紀の『本草綱目』に初出し、止血や活血などの血流改善に用いられる。中薬では、根を「三七」と呼び、止血、腫れ、鎮痛などに、葉を「三七葉(サンシチヨウ)」と呼び、止血、打撲などに、花を「三七花(サンシチカ)」と呼び、高血圧、耳鳴り、急性咽喉炎などに用いられる。ジンセノサイドなどのサポニンを含有。近年では肝・腎機能改善、抗心血管疾患、抗炎症、抗がん、免疫賦活、鎮痛など多くの作用が研究されている。
Panax pseudoginseng Wall.
学名:Panax pseudoginseng Wall.
学名のラテン語読み:パナクス・プセウドギンセング
種名の意味:ginseng種に似た
主なシノニム
Aralia pseudoginseng (Wall.) Benth. ex C.B.Clarke
一般名(ない場合は学名のラテン語読み)
ヒマラヤニンジン、ネパールニンジン、喜馬拉雅參、pseudoginseng, Nepal ginseng, Himalayan ginseng
原産・分布
ヒマラヤ山脈のチベット南部~ネパールに分布
特徴・利用
Panax bipinnatifidus Seem.との混同が見られるので注意。止血や鎮痛作用があるとされるほか、高コレステロールや高血圧、前立腺がんなどへの適用も試みられている。
Panax quinquefolius L.
学名:Panax quinquefolius L.
学名のラテン語読み:パナクス・クインクエフォリウス
種名の意味:5葉の
主なシノニム:Panax americanus (Raf.) Raf.
一般名(ない場合は学名のラテン語読み)
アメリカニンジン(亜米利加人蔘)、American ginseng、西洋参(セイヨウジン)、西洋人参(セイヨウニンジン)、花旗參(カキジン)
原産・分布
北米東部原産
特徴・利用
多年草。草丈40cm。無毛。根は肥大して紡錘形となり、又根になることもある。茎は円柱形で25cmの円柱形で、筋または稜がある。茎頂に掌状複葉を3~4枚輪生する。小葉は5枚が基本。果実は赤熟する。ジンセノサイドなどのサポニンを含有。根にアメリカンインディアンは根と葉を薬用とした。中国でも栽培されており、中薬では「西洋参」などと呼び肺疾患などに用いる。
Panax stipuleanatus H.T.Tsai & K.M.Feng
学名:Panax stipuleanatus H.T.Tsai & K.M.Feng
学名のラテン語読み:パナクス・スティプレアナトゥス
種名の意味:托葉のない
一般名(ない場合は学名のラテン語読み)
ビョウブサンシチニンジン(屏邊三七人参)
原産・分布
雲南省南東部~ベトナム北部原産
特徴・利用
多年草。草丈45~55cm。葉は5出掌状複葉で、茎頂の先端に3枚輪生する。葉柄基部には托葉はない。果実は赤熟。三七人参の代用として薬用に供される。乱獲により絶滅危惧種に指定。
Panax trifolius L.
学名:Panax trifolius L.
学名のラテン語読み:パナクス・トゥリフォリウス
種名の意味:3葉の
主なシノニム:Aralia trifolia (L.) Decne. & Planch.
一般名(ない場合は学名のラテン語読み)
ミツバニンジン(三葉人参)、三葉參、dwarf ginseng, ground nut
原産・分布:北米東部原産
特徴・利用
多年草。草丈20cmと小型。掌状複葉。種小名は小葉3枚に由来するが5枚も見られる。果実は黄色。根を茹でて食用に。冷めるとナッツの味がする。サポニンを含有し、薬用とされる。
Panax vietnamensis Ha & Grushv.
学名:Panax vietnamensis Ha & Grushv.
学名のラテン語読み:パナクス・ウィエトゥナメンシス
種名の意味:ベトナムの
一般名(ない場合は学名のラテン語読み)
ベトナムニンジン、ンノップリン(NgGcLinh)、峨嵋參、Vietnamese ginseng
原産・分布:ベトナム原産
特徴・利用
ベトナム中央部のンノップリン山(NgocLinh)で1973年に発見された。栽培するとサポニン含量が低下するなどの問題があるため、ベトナムでは国を挙げて特産品としての研究開発や栽培に取り組んでいる。
Panax wangianus S.C.Sun
学名:Panax wangianus S.C.Sun
学名のラテン語読み:パナクス・ワンギアヌス
主なシノニム
Panax pseudoginseng var. wangianus (S.C.Sun) G.Hoo & C.J.Tseng
一般名(ない場合は学名のラテン語読み)
ホソバチクセツニンジン(細葉竹節人参)、峨眉三七(ガビサンシチ)、狹葉竹節參
原産・分布:中国四川省原産
特徴・利用
多年草。根は塊状に肥大する。葉は掌状複葉で、茎頂から5枚程度出る。小葉5枚はいずれも細長い。中薬では根を峨眉三七と呼んで、「人参三七(P. notoginseng (Burkill) F.H.Chen.)」同様に用いられる。
Panax zingiberensis C.Y.Wu & Feng
学名:Panax zingiberensis C.Y.Wu & Feng
学名のラテン語読み:パナクス・ジンギベレンシス
種名の意味:ショウガ属の
一般名(ない場合は学名のラテン語読み)
ノサンシチニンジン(野三七人参)、ginger ginseng, 薑狀三七、姜状三七、jiang zhuang san qi
原産・分布:中国雲南省固有種
特徴・利用
多年草。草丈60cm。種小名は根が水平に伸びてショウガの根茎のように見えることから。葉は3~5枚の小葉からなる掌状複葉。薬用とされる。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第65号 2023年9月