ガーデニングデザイン: はじめての土づくり 生物多様性の豊かな土づくり(生物性改善)と土を使い続ける方法
よい土とは、土壌の物理性、化学性、生物性のよい土であり、物理性、化学性を良くするために生物性をよくします。生物性のよい土とは、虫などの小動物やカビなどの微生物の豊富な、生物多様性豊かな土のことです。今回は、生物性のよい土づくりを紹介します。
question and anser
Q.土にキノコが生えてきてしまいました。どうしたよいですか?
A.キノコはカビと同じ真菌類で、大切な分解者です。キノコが生えた=土壌中の有機物の分解が進んでいるということで、そのままにします。不快な場合は土をかけてしまってもよいです。
Q.ダンゴムシがたくさんいてナスやイチゴが食べられています。どうしたらよいですか?
A.ダンゴムシは主として死んだ植物を食べるとても大切な分解者です。おいしいものがあると時々食べることがありますが、普段は落ち葉などを食べて分解してくれていますので、たまに食べられる野菜はご褒美に分けてあげましょう。食べられるのがどうしても嫌な場合は、落葉広葉樹などの軟らかい落ち葉や腐葉土をドーナツ状に敷いて、城壁を作ってそこで食い止めるとよいかもしれません。また、異常繁殖していた場合でもやがて自然淘汰されて死骸がほかの生物にとっての重要な有機物となりますので、そのまま見守りましょう。
Q.プランター栽培で、収穫の終えた植物はどう処理したらよいですか?
A.収穫を終えた植物は、地際で切り取ります。地上部はコンポストにして翌年、土になったら再利用します。根はそのまま地中に残し、減った分の土を足して、新たに播種したり苗を植え付けたりします。
Q.今回育てた植物の生育がとても悪かったのですが、土を再利用することはできますか?
A.生育の悪かった原因は根が張れていないことにあります。それが、単に栄養不足なのか、栄養はあっても土壌水分が多すぎて根腐れしていたのか、水不足で養水分を吸えなかったのか、土壌中の病害虫に根がやられていたのか、原因を究明して対策をとりましょう。水のトラブルの場合、次回気をつければ問題なく再利用できます。栄養不足の場合は堆肥などを足します。病害虫の場合、虫の除去や、接ぎ木苗・抵抗性品種の利用、別な植物に切り替えるなどします。
1.土壌生物の役割
(1)土壌の物理性改善(団粒構造化)
物理性のよい土とは、酸素がたくさんあって、根の張りやすい軟らかい土のことです。軟らかさを持続するには土を団粒構造化します。団粒構造を作るには土壌粒子をくっつける接着剤が必要で、それが土壌生物の糞や体液などの粘液物質です。したがって、土壌中の生物多様性が豊かなほど土が団粒構造になってふかふかになります。
(2)土壌の化学性改善
①植物栄養/土壌中の植物栄養は、枯葉や枯れた根、土壌生物の死骸、施した堆肥など、有機物(Cをもった化合物)が土壌生物によって分解されて作られます。土壌生物がいなければ有機物は分解されずに植物栄養は作られません。土壌中に生物多様性が豊かなほど、有機物が分解されて植物栄養が豊富になります。
②pH/植物を含む多くの生物が弱酸性であり、弱酸性を好みます。弱酸性である土壌生物が多いほど、土壌pHが弱酸性に保たれます。
2.土壌中の生物多様性を豊かにする方法
土壌中の生物多様性を豊かにするには、土壌生物の棲みやすい快適な環境を作ることが大切です。
①水分や酸素、居住空間を維持(物理性維持、不耕起)/沙漠状態の乾いた土には土壌生物が棲めません。土を乾かさないようにするには、植物を密に生やすことが大切です。逆に、植物が密に生えていれば、露地では灌水の必要がありません。また、水分や酸素、土壌生物の居住空間を維持するには団粒構造化が必要で、団粒構造化には土壌中の生物多様性を豊かにする必要があります。そのため耕したり根を引き抜いたりしません。
②栄養(餌)を供給(生物性維持、有機物循環)/土壌生物も生きていく上で、炭水化物やタンパク質などの有機物が必要です。これらは、自然生態系の元では、落ち葉が落ちてそれをダンゴムシが食べて、糞にカビが生えてということで自然循環します。畑やプランターでは、収穫残渣や刈った草をその場に置いて、虫などの小動物や微生物に分解させるか、その場から取り除いてコンポストにしてから戻すなどで循環を維持します。パーマカルチャ-やリジェネラティブアグリカルチャーでは、畑に外から一切何も持ち込まずに畑だけでの循環を行います。エコロジカルハーバリズムでは有機物の地域内循環を推奨しています。畜糞堆肥や剪定くずなどは積極的に活用して循環させましょう。
③有害物質を与えない(化学性維持)/土壌生物が棲みにくくなるような物質を与えないことも大切です。化学農薬は土壌生物を死滅させ、化学肥料は塩類であると同時に土を酸性にし、石灰はアルカリ性であり、灰は抗菌性が高いことから、これらを投与すると土壌生物が棲みにくくなります。植物残渣でも、針葉樹やフトモモ科など、抗菌性の高いハーブは微生物の繁殖を阻害しますので、分解の遅いもの専用のコンポストなどで時間をかけて分解させてから用いるようにしましょう。
3.土を持続的に使い続ける方法
(1) 畑
近代農業では、耕して石灰を入れて化学肥料を入れて使い続けます。病害虫が発生した場合には土壌消毒も行います。
一方で、エコロジカルな栽培では、有機物を循環させるために、収穫が終わった植物は抜き取らずに地際で切って、根を土の中に残し、切り取った地上部は原則、その場や通路などにマルチのように敷き詰めます。景観などの問題でその場に置くことがためらわれる場合には別の場所でコンポストにして、完熟させてから畑に戻します。
無施肥を基本としている自然農法では、外から堆肥などを持ち込まないため、切り取った地上部のみが植物栄養となります。もし、窒素を多く供給したいとなった場合には、マメ科植物を栽培してそれを刈り取って敷き詰めることになります。
マメ科植物の根には根粒菌が共生し、土壌空気中にある窒素を植物栄養となるアンモニアに変換(窒素固定)して、植物に供給します。したがって、マメ科植物は、土壌中の窒素が少なくても自身の根で吸収する窒素以外に、根粒菌から窒素が供給されますので、それで大きくなった植物をそのまま畑に循環させることで、畑の窒素量が増える計算になります。
マメ科植物のアルファルファ(ルーサン、ムラサキウマゴヤシ)やヘアリーベッチ、クロタラリア、ゲンゲ(レンゲ)、レッドクローバー(アカツメクサ)、ダイズ、ラッカセイなど混植したり、輪作したりしてその残渣を畑で循環させます。
このうちクロタラリアはセンチュウを駆除することが、アルファルファはチガヤの発芽や生育を抑制することが報告されています。このほか、勝手に生えるカラスノエンドウやヤブマメなどのマメ科雑草も有用な窒素源になります。
エコロジカルハーバリズムでは、有機物の地域内循環を推奨しており、窒素栄養を供給する場合には、特に窒素供給源となるタンパク質の豊富な、動物性有機物(畜糞堆肥)や種子由来の植物性有機物を、窒素栄養を供給しない場合でも腐葉土やバーク堆肥などの窒素含量の低い植物性堆肥を投入します。
これらの有機物は鋤き込んだりせず、原則、土の上に積むだけです。草が密に生えている場合は草の上に積んでしまいます。ただし、あらかじめ土と混ぜておいてから積むようにします。施した有機物を微生物が寄ってたかって急激に分解を始めると、熱や有害ガスを発生させたり、窒素や酸素が奪われたりするため、根痛みにつながります。あらかじめ土と混ぜて分解を進めておくことで根痛みを回避することができます。
前作の生育が悪かった場合には、根を引き抜いてみて原因究明することも大切です。マメ科とアブラナ科以外で根にこぶがあった場合にはネコブセンチュウが、ダイコンやサツマイモなどの根に肌荒れがある場合にはシストセンチュウが原因と考えられます。
これらのセンチュウが発生していたらフレンチマリゴールドなどの対抗植物を植栽しましょう。ちなみに、マメ科の根のこぶは根粒菌によるもので歓迎されるものです。
アブラナ科の根のこぶは根こぶ病という重篤な土壌病害であり、汚染土壌を持ち込まない限りまず問題になることはありません。万が一、土壌病害が発生した場合は土壌消毒が有効ですが、畑での土壌消毒は簡単ではありません。接ぎ木苗や抵抗性品種に切り替えたり、作目を変えたりする必要があります。
アブラナ科には根こぶ病抵抗性品種があります。また、アレロパシーによる連作障害の場合にもほかの植物に切り替えるなどします。
(2)プランター
プランターのような限られた容積の中ではどうしても植物栄養が不足しますので、土を使い続ける場合、植物栄養、特に窒素栄養をどうやって供給するかが大きな問題です。
それまで植わっていた植物がトラブルなく生育していた場合には、その植物を抜き取ったり、プランターの土をひっくり返したりせず、地際で切って、根を土の中に残します。切り取った地上部は原則、プランターの土の上に敷きますが、敷ききれない場合や観賞上の理由で敷きたくない場合には空いているほかのプランターやコンポストバッグなどに入れて土を薄くかけてコンポストにします。
なお、根がプランターいっぱいに硬くまわっている場合は、そのままゆっくりと根を分解させてから利用するとよいでしょう。
多年草や木本など、植えっぱなしの場合、盆栽のように、数年に一度、冬期に、地上部を剪定すると同時に、プランターから出して根も切って量を減らします。その上で、堆肥と土とを混ぜたものを補填します。
前作の生育が悪かった場合には、畑同様、根を引き抜くか、場合によっては土をひっくり返して原因究明することも大切です。コガネムシの幼虫がいる場合は、土をシートの上などに薄く広げると、どこかにいなくなってしまいます。ナス科の青枯れ病や立ち枯れ病、ウリ科のつる割れ病、ラベンダーやローゼルなどのフザリウムなどの道管病とも呼ばれる土壌病害が発生していた場合には、根を処分し、土壌消毒をします。
土を透明のビニールに入れて密閉して薄くのばし、コンクリート面において熱で土壌消毒をするか、あるいは、プランターの土を田んぼのように完全に水没させて1週間くらい放置して酸欠によって病原菌を死滅させます。ただし、このような土壌消毒をすると、病原菌は死にますが、病原菌以外の全ての微生物も死滅してしまいますので、前作に土壌病害の発生がなかった場合には行わないようにします。
以上、地球環境に優しい持続的な栽培では、土壌生物を大切にしながら、土を使い続けます。
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初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第65号 2023年9月