亜熱帯から花便り:島で見られる熱帯果樹
南の島の花便り
今年、八重山地方は空梅雨状態で夏を迎えました。以前は夏の夕方にはスコール(方言でカタブイ)が来て野山を潤わせましたが、ここ15年以上スコールはなくなり夏の水は台風頼みになっています。それでも、亜熱帯気候の島では内地では見られない熱帯果樹が民家の庭先や道路際などに多く見られます。
今回は内地では見られない熱帯果樹に目を当ててみたいと思います。ガイドブックなどを見ると、年間を通してトロピカルフルーツがあるように書いてありますが、それぞれの果物の旬は割合短いものです。
島で見られる熱帯果樹
パイナップル
石垣島では市街地を外れると山裾などにパイナップルの露地栽培の畑が多く見られます。島は水はけのよい弱酸性の砂質土壌で、赤土と琉球石灰岩の石が混じった地質が多く、パイナップルの栽培には適した条件が揃っています。
石垣島で栽培されているパインは4月の中旬頃から、ピーチパインとボゴールパインが店先を飾り始め、ハワイ種は6~8月頃、近年話題のゴールドバレルは7~9月頃が旬です。完熟パインは、内地で食べられるパインとは全く異なり、甘く芳醇な香りの果物です。
マンゴー
マンゴーはハウス栽培で行われており、かなり厳格に人の出入りを制限しているので、あまり中を見ることはできません。ただ、街中の庭先でも多くの木が見られ、季節には袋がたくさんかかった姿を見ることができます。
2月中旬から3月中旬の開花期にはオレンジ色の小さな花を無数につけ、ハウス内に蜂や蝿を放ち受粉させます。この時に何%か不受精果ができます。
鶏卵大の不受精果の種子は紙のように薄く、大きなマンゴーをギュッと圧縮したような濃厚な味です。出荷することは少なく生産者や地元民の楽しみでもあります。
マンゴーの品種は、アップルマンゴー(アーウィン種)がメインで、旬は7月から8月頃の1か月程度と短期です。
パパイヤ
沖縄では熟す前の青パパイヤが主に野菜として流通してきました。味噌煮にしたり炒めたり、サラダなどにも利用されています。
緑色の段階では、リンや鉄などミネラルの含有率が高く、タンパク質分解酵素(パパイン)も豊富に含んでおり、肉料理に食べ合わせたい食材としても注目されています
。近年、果物用としても普及し始めフルーツパパイヤの名称で出まわり始めています。大変成長が早い植物で、烏などが種を分散させるせいか、島中の道路沿いなどいたるところで見ることができます。
基本は雌雄異株で、雄株1本で1kmの範囲の雌花に受精するといわれています。実は年間を通して見ることができますが、最盛期は7~9月です。
島バナナ
石垣島の民家や道路際でよく見られるバナナ、同じように見える草姿ですが織物の素材として使われる糸芭蕉と島バナナがあります。
島バナナは普通のバナナに比べて一回り小さく10cmほどしかありません。実の断面は5角形ですが樹上で完熟させると峰がなくなりほぼ丸くなります。
皮がはち切れるように裂け始めた頃の島バナナは、ほどよい酸味と濃厚でクリーミーな味わいで、もっちりとした食感が特徴です。お盆の時期には緑色の大きな房が店頭に並びますが、完熟物の旬は9~10月になります。
アセロラ
アセロラには、ビタミンCが豊富に含まれていることで知られています。また、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、カルシウム、鉄分なども含まれており、美肌や免疫力アップにも効果的だといわれています。
栽培には特徴があり、木の根元を傷つけることにより開花を促進させます。根元を傷め、花芽を分化させ、ひと月ほどで収穫できるため、うまく回転させると年に8~9回も収穫が可能です。
アセロラの葉の裏に白い産毛がたくさん生えています。この毛に触るとアレルギーのように痒くなります。だから農家の方は目だけを出した完全武装の服で接しなければなりません。アセロラの利用法としては、ジュースやジャム、ゼリーなどの加工品が一般的です。また、生食する場合は、砂糖をかけたりして食べることが多いようです。
庭木としても多く見ることができます。
ドラゴンフルーツ
ドラゴンフルーツとは、森林性サボテンの仲間で、月下美人のような甘い香りのある美しく大きな一夜限りの花が、6~10月くらいの間に、約1か月間隔で開花し、果実が収穫できます。
果皮が赤く果肉は赤、ピンク、白など様々な色の組み合わせがあります。また、イエローピタヤと呼ばれる黄色い品種は、味・香りとも別の果物かと思われるほど美味ですが、まだ大きな栽培にはなっていません。
収穫した果実は生食が主で縦に切り、無数の種子が入った甘味と酸味が混じり合った果肉をスプーンなどですくって食べます。まだ加工品はあまり市場には出ていません。カリウム、マグネシウムやポリフェノールを豊富に含んでおり、台風の影響も少ないため、島内で見かけることが増えています。
グアバ
沖縄方言ではバンシルーと呼ばれるグアバは、以前は島に広がる牧場の中に数多く見られましたが、折からの石垣牛ブームで放牧場が整備され、自然の状態でのグアバはあまり見ることができなくなってきました。
替わりに糖尿病に有効だとしてお茶としての栽培が増えています。熟すると足の早い果物なので生食用としてはあまり出回りませんが、芳醇な香りと爽やかな甘さを生かした、ジュースやジャムなどの加工品として人気があります。8~10月が旬になります。
ライチ
みずみずしく柔らかい半透明な果肉、上品な甘みと酸味、かぐわしい芳香をもつ果実です。ビタミンCや葉酸を豊富に含んでおり楊貴妃が好んだといわれることでも有名です。
ただ、風に弱いため台風などの影響の少ない、谷間などで見ることができます。収穫は6月中旬〜7月上旬と極めて短い時期になります。
レンブ
街中で6月頃の庭先にビッシリと赤い実がついた木をよく見かけます。台湾では人気のある果物ですが、なぜか沖縄では熟して落ちた実で地面が埋め尽くされても、取ろうとする人があまりいません。
食感はサクサクして軽く、みずみずしい梨かリンゴのような、爽やかさを感じる果物です。サラダやシロップ漬けなど、これから人気が出てくる果樹です。
マンゴスチンやドリアンなども栽培にトライしていますが、未だ成功した話は聞こえてきません。多くの果物は完熟する!週間前くらいに糖度と香りが最大になるといわれ、3~5分熟程度で収穫して追熟させる輸入物の熱帯果樹と比べると、樹上で完熟した果物の味は内地の高級な青果店に並ぶ物と比較しても比べにならないほど、芳醇で甘美で濃厚。
その味を楽しめるのは、島にいるからこその特権です。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第65号 2023年9月