ハーブ療法の母・聖ヒルデガルトの自然学: 聖ヒルデガルトの見た幻視と創造的な生き方
前回ご紹介した、聖ヒルデガルトが啓示を受け書き残した幻視について、恩師から学んだ解説を訳しましたのでご紹介したいと思います。
『Scivias(道を知れ)』写本に幻視の絵が見れます。
- デジタル化は、https://doi.org/10.11588/diglit.607#0001
- 絵は、https://abtei-st-hildegard.de/category/scivias-kodex/
現物は、ヴィースバーデンのヘッセン州立図書館から聖ヒルデガルト修道院に移りました。鈴木桂子氏の論文によると、挿絵は聖ヒルデガルトが描いたのではなく、幻視体験していない画家(修道女?)によって描かれたと。聖ヒルデガルトはそのイラストの幻視のことを事細かに文章化しています。
挿絵の構想は聖ヒルデガルト存命中で、下絵も描かれた(?)のではないかと。章の始めは必ず枕詞のように「私は見た。」で始まります。「か弱き人、病弱で女性、無学が不安、畏怖、謙譲と結びつき、預言者として語る。」と。
有名な絵の一つめは、塔の中、炎のような幻視が降り、ミツロウ板に書き記す聖ヒルデガルトを、塔の外から覗き込んでいる修道士フォルマールです。42歳7か月、天から炎のように輝く光が降り注ぎ、啓示は「見聞きしたことを書き記せ。」と。以降、続く番号は修道院のイラスト紹介の番号です。
2、神の山 光輝くもの:「私は見た−宇宙の主、彼の王国の永遠を表す鉄色の山の上に “偉大な審判の天使”がいます。」 栄光に輝く2つの徳、謙虚さと神の威厳で、神への畏敬と心の貧しさを。彼女は、徳は知恵の始まり、喜びを感じます。
3、創造と堕落 創造と原初の形:星は天使で神を賛美し、ルシフェルは地獄に落ちる。人の不服従は、創造に反抗し、元の調和を破壊しますが、神は楽園を維持し、四隅に火・風・土・水の元素が。
4、卵:宇宙の卵のこのビジョンは、宇宙を象徴的な階層構造と表現し、神が絶妙なバランスで力を支えています。ヒルデガルトは、最外層から内側に向かって移動して、神聖な浄化と判断である輝く光と影のある領域を見ます。外側の炎は神、太陽は主で、第三の層は信仰を意味するエーテル。中の月は教会、第四の層は大気で洗礼、地球は四元素です。
5、魂と身体:困難と危険に満ちた人の人生。「魂は木の樹液と同じであり、その力は木の枝のよう。知識は枝や葉の緑、意志は花、精神は最初の実、理性は完全に熟した果実。感覚はその大きさのよう。」(I.4.26)
9、天使の聖歌隊:天使たちの9つの聖歌隊は、階層があり、同心円状の配置と。天使と大天使は体と魂を意味し、ケルビムとセラフィムは、神の知識と愛を象徴し、5つの天使群は五感です。肉体の化身であり、美徳の人生。「王冠のような軍隊」としての合唱団のビジョンは、9人の同心円の華やかな曼荼羅のように空にあります。教会の会堂が救いであり、天使はそれを助け、真の贖いはキリストと教会の出現で2部の主題です。
10、救い主:人の創造と堕落、第1部の重要なテーマを再現し、2部はキリストとアダムを。ヒルデガルトはまず、圧倒的な火を見、永遠を示す空色の炎を感じます。最初の人間を創造した後、三位一体の神は彼に “甘美な従順”を香りの花の形で伝えアダムは手にできず闇に落ちます。「善と悪の知識」は人への神の賜物であるというヒルデガルトの考えです。
11、三位一体:父、御子、聖霊は、光の光線、サファイア色の人、輝く炎の光で、「薬石には、湿った育みの力・手で掴める硬さ・赤く輝く火の三つの威力がある。」と。
12、教会 キリストの花嫁:信徒の母「精神と水と母性」このビジョンの教えは、洗礼の恵みと同様に、教会に与えられた雄々しい神秘的な力です。しかし、母としての教会は子供たちの罪と反乱を悲しんでいます。トーリア会議で承認されたのはこの幻視もしくは、1.3卵かもと。(ベルヌー説)
35、賞賛のシンフォニー:この壮大な終結はコンサートで、聖母マリア、天使の聖歌隊、5つの聖職者の賛美者、預言者、使徒、殉教者、告白者、処女を祝福。音楽の力の解説と賛辞で、楽器が聖人の品格を象徴し、預言者の使命について導き、Sciviasを閉じるのです。
そして、『ヒロインの旅 女性性から読み解く〈本当の自分〉と創造的な生き方』(モーリーン・マードック著, フィルムアート社, 2017年, p243)で女性性の力を癒すとしてヒルデガルトを紹介しています。「人間の大罪とは渇きと不毛であり、潤いと緑の回復が最も重要と説いた。」「潤いと緑は純粋さや愛、ハート、感情、涙に関連する。~潤いは地球に生命をもたらす。わたしたちもそうすべきだ。」と。
この本は、ジョゼフ・キャンベル氏の有名な「英雄の旅」(ヒーローズ・ジャーニー)をもとに、「ヒロイン」はどのような旅をたどるのかを、男性的な価値観の社会において、女性が完全な存在になるには何が必要か? 失われた女性性と男性性の融合=「全体性」を目指すステップとは?を読み解いています。
まだまだ安寧を祈るばかりの日々が続いていますが、彼女の愛したラベンダーの香りと共に、皆様のご健勝を。感謝と共に。
*写真は全て許可をいただき撮影をしています。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第65号 2023年9月