日本のハーブ:ハンゲとカラスビシャク
1. 半夏と水半夏
半夏はカラスビシャクPinellia ternata Breitenbachの根茎で、性状は、やや扁圧された球形~不整形を呈し、径0.7~2.5cm、高さ0.7~1.5cmである。
外面は白色~灰白黄色で、上部には茎の跡がくぼみとなり、その周辺の根の跡はくぼんだ細点となっている。質は充実する、切面は白色、粉性である。
ハンゲは漢方処方に配合されている生薬。味はえぐみがある。塊茎にはシュウ酸カルシュウムの針晶があるので、口内を刺激し、嘔吐作用があり、下痢を起こす。
この半夏の薬局方の記載を検討するときに、水半夏と呼ばれる生薬もあった。
水半夏は、中国産のTyphonium flagelliforme(Lodd.)Blumeの根茎であり、性状は、ほぼ円形、楕円形、円錐形または逆卵形で、直径0.5~1.5cm、高さ0.8~3cm。
表面はやや白色からわずかに黄色で、上部にほとんどかすかに見える点状の根跡がある。
水半夏と呼ばれるものに、『本草綱目啓蒙』ではミツガシワがある。
2. カラスビシャクの仲間
カラスビシャク属植物には、カラスビシャク、オオハンゲ、ショウヨウハンゲ、ニオイハンゲがあり、園内で生育している。
カラスビシャクPinellia ternataは、葉は1〜2個根生し、3小葉からなる。小葉は長さ5〜11cmの楕円形〜長楕円形で先はとがる。
葉柄の途中と小葉の基部に珠芽(ムカゴ)をつけ、これで増える。花茎は高さ20〜40cmで葉より高く、緑色または帯紫色の仏炎苞に包まれた肉穂花序をつける。
仏炎苞は長さ5〜6cmで、舷部の内側には短毛が密生する。花序の付属体は長く糸状に伸び、仏炎苞の外に出て直立する。果実は液果で緑色。
オオハンゲPinellia tripartitaは高さ20~50cmで、地下に球茎があり、葉は深く3裂し、裂片は長さ8~20cmの卵形。
花柄の先端の肉穂花序の先につく付属体は長さ15~25cm。緑色~紫色を帯びた仏炎苞がある。肉穂花序の上部に雄花群、下部の苞と合着した部分の片側に雌花群がつく。
ショウヨウハンゲPinellia pedatisectaの葉は細かく掌状または鳥足状に分かれる。
花序は株の基部から伸びる。長さは20~30cm位。仏炎苞の舷部先端の蓋のようになるところはカラスビシャクやオオハンゲのように曲がらず伸びる。
ニオイハンゲPinellia cordataは、扁球形の球茎があり、葉は1~3個根生、長さ4~25cm、幅2~7.5cmの長楕円状心形~矢じり形、葉脈に沿って銀白色の斑紋があり、葉の裏面は紫色を帯びる。肉穂花序の付属体は長さ6.5~20cmで、仏炎苞は、緑色~紫色。
オオハンゲは、江戸時代の駒場御薬園に記載があり、ショウヨウハンゲは小石川植物園で1990年ごろからはびこっている。ニオイハンゲは園芸用に導入。
3. リュウキュウハンゲ
水半夏の同属植物にリュウキュウハンゲTyphonium blumei.がある。
地下に小さい塊根がある。
葉は2~5枚が根生する。約15cmの葉柄があり、広心状矢じり形で、長さ10~15cm、幅5~8cmである。
花梗は根生で長さ5~8cm、肉穂花序は、長さ約10cmの紫色の仏炎苞に包まれる。仏炎苞の筒部は狭い卵形で、舷部は口辺部から上方に広がり、先が尾状になる。付属体は尾状で帯紫色、長さ約10cmである。花には強いにおいがある。
九州(南部)、沖縄、 台湾、中国南部、東南アジアに分布する植物で、太平諸島などに帰化している。沖縄では食用や薬用にしている。ネパールでは同属植物の地上部を食用にしている。
[写真提供]
①②:株式会社栃本天海堂 松島 成介氏
③④⑤⑥⑦:昭和薬科大学 薬用植物園 中野 美央氏
⑧: (一財)沖縄美ら島財団総合研究所
⑨:昭和薬科大学 薬用植物園 高野 昭人氏
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第65号 2023年9月