ゴールデンロッド浸剤のフィトケミカルは腸内細菌叢での代謝を経て腸上皮関門を透過して活性化する
ゴールデンロッド(キク科アキノキリンソウ属アキノキリンソウSolidago virgaurea L.)は、浸剤として広く活用されている薬局方に収載されているハーブである。ヨーロッパと北アメリカでは,尿路疾患の治療に伝統的に使用され、皮膚疾患の局所的外用薬としても報告されている。
腸内細菌叢の代謝は、経口摂取される植物抽出物に含まれるフィトケミカル(植物化学成分)の生物学的利用能において重要な役割を果たす。今回紹介する論文ではin vitroでヒトおよびブタの糞便中細菌叢を試料として、ゴールデンロッド浸剤に含まれる植物化学成分の生体内での代謝を明らかにすることを目的とし、成分、透過性、抗炎症作用について調べた。
まず、ゴールデンロッド浸剤の成分分析を、UHPLC-DAD-MS 法によって行った。そして、嫌気条件下で、ゴールデンロッド浸剤とヒトまたはブタの糞便試料とを共にしてインキュベートした。その後、代謝産物は、UHPLC-DAD-MSによって分析および同定された。
ゴールデンロッド浸剤そのものに含まれる未代謝の化合物と腸内細菌叢での代謝物の腸上皮関門での透過性を比較するためには、腸上皮関門のモデルとしてCaco-2 細胞を使用し、UHPLC 法で確認した。
また、抗炎症作用については、LPS 刺激後のヒト好中球の炎症促進機能に対する生抽出物影響を、フローサイトメトリーとELISA によって行った。
その結果、ゴールデンロッド浸剤には、主成分としてカフェオイルキナ酸誘導体、フラボノイド、および一部のフェニルプロパノイドが含まれていることが確認された。そして、ヒトおよびブタの腸内細菌叢によって、より小さな分子、主にフェニルプロパノイド酸誘導体に代謝されることが確認された。
Caco-2 細胞単層膜モデルによる透過性アッセイの結果は、ゴールデンロッド浸剤に含まれる植物化学成分のほとんどが腸上皮関門を通過できないことを示した。一方、代謝産物は Caco-2 単層膜を通過することができ、構造に応じて考えられる様々な輸送メカニズムが観察された。
そしてゴールデンロッド浸剤はヒト好中球の炎症促進機能には大きな影響を与えなかった。
これらの結果から、ゴールデンロッド浸剤の経口投与後、植物化学成分は腸内細菌叢によってより小さなフェニルプロピオン酸誘導体に代謝され、腸上皮関門を通過した後に生体利用可能となり、さらに代謝され分布することが示唆された。これらより、検出された代謝産物は、生体内で植物化学成分が生理活性を示す際の要因となる活性化された化合物である可能性が示された。
〔文献〕
- Popowski D et.al., Gut microbiota metabolism and the permeability of natural products contained in infusions from herb of European goldenrod Solidago virgaurea L. J Ethnopharmacol. 2021 Jun 12;273:113924. doi: 10.1016/j.jep.2021.113924.
〔参考〕
- LPS(Lipopolysaccharide リポ多糖):
主としてグラム陰性菌の外膜に存在する多糖のこと.病原因子として知られ,体内に侵入したグラム陰性菌の死滅や破壊により,遊離したリポ多糖のリピッドA部分が免疫反応を過剰に亢進し,連続的あるいは同時多発的に重要臓器の機能不全を引き起すことから,内毒素(エンドトキシン)とも言われる.近年の研究で,生活習慣病やメタボリックシンドロームの主要要因である慢性炎症に,リポ多糖の体内への移行が関与しているとされ,腸内細菌叢のバランスを整え,これらを抑制する試みも行われている. - Caco-2 細胞:
ヒト結腸癌由来の細胞株.多孔性のメンブレンフィルター上に過密培養すると,小腸の円柱上皮細胞に似た刷子縁やタイトジャンクションの形態学的特徴を示し,P糖タンパク質(P-glycoprotein)やペプチダーゼなどの代謝酵素も発現する単層の細胞層を形成する.Caco-2細胞での透過係数(apparent permeability coefficient;Papp)は腸管吸収やバイオアベイラビリティと相関するとされており,薬物の消化管膜透過性のスクリーニングに有用である.