2024.2.1

セイロンシナモン: 冷えに役立つハーブを学ぶ

博士(農学)

木村正典

「セイロンシナモン」Ceylon cinnamon

【学名】 Cinnamomum verum J.Presl
【科名】 クスノキ科
【使用部位】 樹皮
【主要成分】 プロアントシアニジン、シンナムアルデヒド、ケイヒアルデヒド、オイゲノール、タンニン
【作用】 消化機能活性化、駆風、血行改善、発汗、解熱、抗菌、抗酸化
【適応】 消化不良、腹部の膨満感

血の巡りをよくして体を温めてくれるハーブ

スパイスのシナモンはクスノキ科の常緑樹の樹皮を乾燥させたもの。シナモンとして流通している植物には数種あり、その中でもスリランカ原産の「セイロンシナモン」は最高級とされています。世界最古の香辛料の1つともいわれ、紀元前4000年頃の古代エジプトでは、ミイラ保存のために防腐剤としてシナモンが使われていたという記録があります。

シナモンの樹皮は、漢方では「桂皮(ケイヒ)」と呼ばれ、健胃、駆風くふう(お腹のガスを出す)、発汗、鎮痛、鎮静などの薬効があるとされ、かぜのひきはじめの特効薬として知られる葛根湯かっこんとう桂枝湯けいしとうにも用いられています。ただし、漢方で使われる桂皮はカッシア(シナニッケイ)で、セイロンシナモンとは別種です(TOPICS参照)。

シナモンは様々な効果をもちますが、中でも女性にうれしいのは、血流改善効果です。血の巡りをよくして体を温めてくれることから、冷えや、冷えからくる肩こり、腰痛、頭痛、月経のトラブルなどにも効果が期待できます。また、血流にのって酸素や栄養が体の隅々まで行きわたることで、肌のくすみやたるみ、目の下のクマ、抜け毛など、美容面の悩みの改善にも役立ちます。

EFFECTS セイロンシナモンの効果・効能

シナモンロールやシナモントースト、シナモンクッキーなどでおなじみのシナモン。万能薬といわれるほど様々な効能があり、医療や美容の分野で研究が進められています。

  1. | 血行を促進する作用

シナモンに含まれる「シンナムアルデヒド」には、毛細血管を強化する物質「Tie2」を活性化させる働きがあります。それにより、動脈硬化などで傷ついた毛細血管の修復がスムーズに行われ、身体の末端にまで血流が届くようになり、冷えが改善されるほか、代謝の向上、免疫力の向上、美肌などの二次的な効果が期待できます。

  1. | 強力な抗酸化作用

シナモンに含まれる「プロアントシアニジン」と呼ばれるポリフェノールは、強力な抗酸化作用(病気や老化を進める原因となる活性酸素を除去する働き)があります。それにより、生活習慣病の予防やアンチエイジングに効果が期待できます。

  1. | 抗菌作用

シナモンはサルモネラ菌やカンジダ菌など特定の細菌の成長を抑制できることがわかっています。虫歯や口臭の予防に役立つ可能性があるとされ、インドでは歯磨きのペーストに使われています。

  1. | 消化を促進する作用

シナモンの甘い爽やかな香りのもとは、精油に含まれる「ケイヒアルデヒド」と呼ばれる成分で、嗅覚を刺激し、胃の働きを高めることで胃液の分泌を促し、消化を促進します。食欲不振や胃もたれ、胃の痛みなどに有効です。

  1. | 血糖値を改善する作用

まだ研究段階ですが、2型糖尿病の人にシナモンを投与したところ、血糖コントロールや糖代謝に改善が見られたことが報告されています。そのため糖尿病対策の機能性成分として注目されています。

ATTENTION!

妊娠中の方は、大量の摂取やサプリメントからの摂取は控えてください。

TOPICS シナモンとニッキの違いは?

シナモンが日本に伝わったのは8世紀頃。中国から生薬としてもたらされたといわれています。日本では中国語の呼び方「肉桂」の日本語読み(ニッケイ)から「ニッキ」とも呼ばれていますが、厳密にいえばシナモンとニッキとは別物です。「シナモン」と呼ばれて流通しているものの中には複数の種類があります。

そのうち2大シナモンといわれるのが、スリランカ原産のセイロンシナモンと、中国原産のカッシア(学名:Cinnamomum cassia)です。

セイロンシナモンは、甘く品のある繊細な香り。一方、カッシアは「カシア」、「シナニッケイ」とも呼ばれ、辛味があり、濃厚でスパイシーな強い香りで、薬用のほか、インドや欧米で料理や菓子などによく使われ、チャイやシナモンクッキーにも欠かせません。

そして「ニッキ」とは、江戸時代に導入、栽培された「ニッケイ」(学名:Cinnamomum sieboldii)のこと。

樹皮の香りは弱く、根の皮が使われ、甘さよりミントのようなスーッとした爽やかな風味が際立っています。京都銘菓・八つ橋やニッキ飴などに使われていたのがニッキです。

ちなみに日本産のニッケイは希少なため、シナモンの中では最も高価だそうです。現在、日本ではニッケイがほとんど生産されていないため、カッシアを輸入して代用しています。

ボタニカルアート = 田中 沙織

博士(農学)
木村正典 きむらまさのり
当協会理事。(株)グリーン・ワイズ。博士(農学)。ハーブの栽培や精油分泌組織の観察に長く携わると共に、都市での園芸の役割について研究。著書に『有機栽培もOK!プランター菜園のすべて』(NHK出版)など多数。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第66号 2023年12月