2024.2.4

エコロジカルガーデニングデザイン

当協会理事

木村正典

土づくりと並んで栽培する上で重要なのが病害虫対策です。

ここでは、何回かに分けて、生態系を大切にするエコロジカルな考えのもと、病害虫との共存を図りながら栽培していくための理論と実際を紹介します。

第1回は考え方と物理的管理についてです。

病害虫との共存 その1.考え方と物理的管理

question

  • なるべく農薬を使いたくありません。無農薬で病害虫を防ぐにはどうしたらよいですか?
  • 害虫を手で取ることができません。見つけたらどうしたらよいでしょうか?
  • 害虫に牛乳をかけるとよいと聞きましたが、牛乳でなぜ害虫が死ぬのでしょうか?
  • 病害虫と共存するメリットは何ですか?

エコロジカルな栽培では、生物同士の喰う喰われるという生態系の食物連鎖の仕組みを利用して病害虫との共存を図ります。アブラムシ(害虫;草食)のいないところに天敵のテントウムシ(天敵・益虫;肉食)は来ませんし、ハダニ(害虫;草食)のいないところにカブリダニ(天敵・益虫;肉食)は来ません。

病害虫を含めた多くの生物によって生態系が維持されていますので、病害虫管理は多様な生物に任せて、われわれはそのためにも生物多様性を管理して、病害虫を含めた多くの生き物と共存を図ることになります。

1.近代農業とエコロジカルな栽培との違い

近代農業では、化学的防除を主体とし、病害虫ゼロを目指して防除するのに対し、エコロジカルな栽培では、物理的管理、生物的管理を主体に生物多様性を管理します。

(1)化学物質を用いる近代農業での病害虫対策

近代農業では、石油化学物質による化学的防除を主体とし、防虫ネットなどを用いる物理的防除を組み合わせて、病害虫ゼロを目指します。

目的の植物を保護するために、悪い虫をゼロにする、その結果、よい虫やただの虫がいなくなってもよい、目的の植物以外の生物はゼロでよいという考えです。その考え方は、「作物保護」や「病害虫防除」などの言葉にも表れています。

(2)エコロジカルな栽培での病害虫とのつき合い方

エコロジカルな栽培では、作物を「保護 protection」したり病害虫を「防除 control」したりするのではなく、生物多様性あるいは病害虫を「管理 management」するという言い方をします。管理とは、よい状態を保つように気を配って取り仕切って面倒を見ることであり、この言葉にはすべての生物と共存を図っていく姿勢が表れています。

病害虫の管理は多様な生物たちに任せます。そのために、私たち人間は生物多様性を管理します。不断から、無化学農薬はもちろんのこと、混植や天敵の誘引など、生物的管理によって生物多様性の維持に努めます。その上で、ある生物が殖え過ぎたりした場合には、人間も生態系の一員として、捕殺などの物理的管理を中心に、殖え過ぎた病害虫の密度を下げ、生物の多様性を維持します。

(3)IPMとIBM

IPM(総合的病害虫管理)というのは、営利栽培(農業)で、経済性、生産性を大きく損なわない範囲で、化学農薬の使用量を極力減らすことを目的として開発された管理技術です。

一方、IBM(総合的生物多様性管理)というのは、全ての生物が共存する環境で栽培することを目的として、病害虫管理は生物が行い、われわれ人間は生物多様性を管理するという考え方に基づく管理技術です。

エコロジカルな栽培は、生態系を保全して環境回復を目指す栽培です。病害虫を含めた全ての生き物と共存し、生物多様性を豊かにすることで、生物同士が病害虫を管理する、本来の自然生態系機能を向上させるために、IPMからIBMを目指すということになります。

2.エコロジカルな栽培における病害虫管理

近代農業でも取り入れられているさまざまな物理的管理を表2に示しました。

この中には、古典的な手法と、化学農薬を使わないための現代的に開発されたオルタナティブな手法とが混在しており、石油化学製品を使うものも多くあります。

環境回復を目指す栽培で第一に大切なのは生物多様性の維持です。それによって生態系の循環を図ります。そのために化学農薬の使用を避けています。

第二に二酸化炭素の削減です。そのために根を残したり有機物を循環したりして、生物由来の有機物をできるだけ長く地中にとどめてほかの生物への循環を図ることと、生産時に二酸化炭素を排出する石油化学製品を減らすこと、さらにはゴミを少なくして二酸化炭素排出を抑えることに努めます。

第三に石油化学物質による環境負荷を軽減することです。マイクロプラスティックなどの循環しないゴミによる生物への影響を抑えることも重要です。

このうち、第二、第三の、二酸化炭素削減や環境負荷軽減の観点からは、ゴミ問題と関連して、特に生態系の中で循環しない石油化学物質(石油由来の有機物)を、拒否する(リフューズ、Refuse)、減らす(リデュース、Reduce)、使い続ける(リユース、Reuse)、再利用する(リサイクル、Recycle)の4Rが求められます。現代社会では石油化学製品なしでは暮らせない現実もありますので、それらを使わないことにとらわれて翻弄するのではなく、無理せずほかの3Rを駆使して、できるところから減らしていくことが大切です。

物理的管理

物理的管理は、さまざまな道具を駆使して、捕まえるか、窒息させるか、寄せ付けないかのいずれかになります。ほかの生物への影響や環境負荷の少ないメリットがある一方、化学農薬ほど確実ではないのと、道具と手間を要します。

表に示した以外にもさまざま独自の対策がネットなどで紹介されていますので、いろいろなものを試してみましょう。

IPMとIBM

IPM(Integrated Pest Management;総合的病害虫管理)/1960年代に綿花栽培で予防的に定期的に殺虫剤(化学農薬)を散布していたためにダニに薬物抵抗性がついて農薬が効かくなるということが起こりました。

ダニは1週間で卵から成虫になって産卵する周期を繰り返すので、それまでは、ダニの発生ゼロを目指して、ダニがいてもいなくても1週間に1度の予防的定期散布を行っていました。そのために薬物抵抗性をもつダニが進化してダニ剤が効かなくなったということです。

これは大変だということで、1965年にFAO(国際食糧農業機関)によって提唱されたのがIPMです。それまでの予防的な定期散布を止めて、病害虫が発生した時に、効果的に、できるだけ化学物質に頼らず、多様な手段で管理しょうとするもので、現在も農業以外にも、都市緑化やゴルフ場管理など、経済重視の現場における減農薬管理に欠かせない手法となっています。

IPMは次の3つの取り組みからなります。

1.病害虫の発生しにくい環境をつくる
2.病害虫の発生状況の把握や大量発生予測をするするためのパトロールである「発生予察」を行う
3.防除の際にはできるだけ化学物質に頼らず、効率的で多様な手法を駆使する

IBM(Integrated Biodiversity Management;総合的生物多様性管理)/IBMは、1998年、応用昆虫学者の桐谷佳治氏によって提唱されました。

IBMでは、害虫も益虫もただの虫も同じ虫であり、いずれも生態系の中で、捕食、競争、共生などの複雑な関係を作る重要な役割を果たしていることから、特定の病害虫を防除して駆除・死滅させるのではなく、殖え過ぎた生物を適正に管理して生態系の均衡を保つこと、すなわち、生物多様性を管理することが大切だと訴えています。

害虫がいなければ天敵(益虫)は生きていけません。病害虫と共存していくには、病害虫を管理するのではなく、生物多様性を管理していくことになります。エコロジカルな栽培では、このIBMを目指すことになります。

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当協会理事
木村正典 きむらまさのり
(株)グリーン・ワイズ。博士(農学)。ハーブの栽培や精油分泌組織の観察に長く携わると共に、都市での園芸の役割について研究。著書に『有機栽培もOK! プランター菜園のすべて』(NHK 出版)など多数。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第66号 2023年12月