ハーブ療法の母・聖ヒルデガルトの自然学:聖ヒルデガルト祭と日本でのイベント開催
9月17日聖ヒルデガルト帰天祭、おめでとうございます。聖地ビンゲンでは、地元の方、アメリカやヨーロッパのヒルデガルト研究団体のツアーの方、自然療法士の方などが参加されたそうです。『聖女ヒルデガルトの生涯』(ゴットフリート修道士・テオーデリヒ修道士/著)によると「聖処女がその幸福な魂を神に返した部屋の上方に輝かしく様々な色彩の虹が天空に現れました。
~この光の中に赤い十字が見えました。山全体を輝く光で包んだのです。この御しるしにより天において神は愛する者をいかに明るく照らされたか、ということを示した。」とあります。「彼女の墓からは崇高な甘い香りが立ちのぼり人々の鼻と心に浸透した」とも。
前回、ご紹介したドキュメンタリー映画『型破りな神秘家 ヒルデガルト・フォン・ビンゲン』https://www.youtube.com/@SaintHildegardMovie の監督Michael M. Conti様からリソースのリンクとご質問の連絡をいただきました。現在、日本語訳つきの動画を公開中です。
https://www.youtube.com/watch?v=bwSnxNpLqW8&t=9s
ご質問の内容は、「Questions to ask: When did you discover Hildegard? What about her is interesting to you? Do you like eating Hildegard food?(ヒルデガルトを知ったのはいつですか? 彼女のどんなことに興味がありますか? ヒルデガルトの料理を食べることは好きですか?)」で、「I learned about Hildegard when my Latin teacher began translating her “Physica” into Japanese in 1996. I am fascinated by her love for the ancient texts, music sheets, and script. I enjoy eating her recipes and food.Sincerely,(私がヒルデガルトのことを知ったのは、1996年にラテン語の先生が彼女の『Physica』を日本語に訳し始めた時でした。彼女の古文書、楽譜、スクリプトに表される愛に魅了されています。彼女のレシピや、料理を食べることはとても楽しいです)」とつたないながらお伝えしました。
私と恩師大槻真一郎先生の出会いと、様々なラテン語の古文書の解読と翻訳、聖ヒルデガルトの知恵という一生かかっても終わりようのない課題をいただけたことに感謝の思いしかありません。
今年は日本でも、花井尚美先生が八王子ホテルニューグランドチャペルで『ヒルデガルトの光-天の啓示 調和の響き-』と題してコンサートを開催。「この度ドイツ中世の修道女 ヒルデガルト・フォン・ビンゲンが書き残した音楽の会が開催とのこと。お喜び申し上げます。帰天祭の日9月17日。1979年法王ヨハネスパウロニ世が、「観よ、そして正しき道に変えよ、という言葉に導かれますように」というメッセージをヒルデガルト没後800年祭を祝し、捧げました。彼女の音楽は、この場にいらっしゃる皆様との一期一会の共鳴かと存じます。ご加護祈ります。」とお祝い文を贈らせていただきました。
また、グリーンフラスコ メディアラボラトリー様でも9月30日に、緑のシネ館『ヒルデガルト 緑のよろこび』上映会を開催と。「現代のドイツの植物学の礎を築いた12世紀の聖女「ヒルデガルト」。自然と対話し、太陽、月、石、薬草、動物、音楽、祈りの全てが、人間と自然との調和を導く薬となりえる真実を伝えた一人の女性。彼女の根本思想である“ヴィリディタス”とは、“緑の力”と訳され、私たちに必要な、愛と安らぎに満ちた自然とのつながりを思い出させてくれます。」と。
同日、17回にご紹介した『中世修道院の食卓」から選んだヒルデガルト料理を飯嶋様と野田浩資様主催で東京(赤坂・永田町)の本格ドイツ・ヨーロッパ料理店Bitteで再現する会がありました。
メニューは、スペルト小麦とアーモンドのスープ・スペルト小麦のハンバーグ ビーツのソース・フェンネル、オレンジ、アーモンドのサラダ・スペルト小麦の木いちごのトルテリンツ風だそうで、これからも「ハーブでストレスケア 体が喜ぶヒルデガルトの食の教え」と題してお話くださるとのこと。とても楽しみにしています。聖ヒルデガルトの治癒は、薬や手術に基づくものではなく、食事や精神的なライフスタイルを通して予防するという強い信念に基づいています。ぜひ、皆様にも毎日の食事に何をどんなふうにいただくかということや、バランスを崩しそうなときには、泣く・瞑想する・歌う・祈る・働く・断食(野菜スープ中心に)というセルフケアを広めていただけるとうれしいです。
修道院では、自給自足のなかで病院特にホスピス(hospice)のルーツという役目も担っていました。現在のホスピタリティ(歓待hospitality)や病院(hospital)の語源と。薬草園で育てたハーブは、食べたり、飲んだり、お風呂に入れたりするだけでなく、多くの巡礼者や旅人を迎える際に入口で踏んでもらうためにまき散らしたり、ハーブの入った水で手足を洗ってもらったそうです。後のstrewing herbs(虫よけ、病気予防のために床や入口に撒かれたハーブのこと)です。
聖ヒルデガルトの見た幻視の中には1年の循環(春芽吹き、夏盛りに、秋収穫し、冬貯蔵)の図も。ハーブを適切に(香りのあるものは早朝、花が咲く前、月の満ちてくる頃)収穫し、保存し、大切に使い、抽出後乾かしたものをお香や、暖炉で燃やし灰にしてまた畑に撒くというウロボロスの輪(古代の象徴の1つで、己の尾を噛んで環となったヘビもしくは竜を図案化したもので「死と再生」「不老不死」などを表す)なのかもしれません。
聖ヒルデガルトのハーブの利用には、pot-pourri(ポプリ 花や葉・香草(ハーブ)、スパイス、木の実、果物の皮や苔を混ぜあわせて容器に入れ 熟成させて作る室内香。雑香、百花香とも。)のレシピは見つかりませんが、世界各地の修道院ではラベンダー花を入れた布袋(サシェ)がお土産などで売られています。彼女のお墓の崇高な甘い香りは、愛したハーブ、ラベンダーかもしれません。
安寧と皆様のご健勝祈ります。感謝と共に。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第66号 2023年12月